南フランスを旅して
飛鳥 竜二
第1話 マルセイユ
トラベル小説
ドイツ旅で知り合った木村くんから連絡があり、いっしょに南フランスに行くことになった。今度は、彼も運転できるということなので、レンタカーオフィスで待ち合わせをすることにした。
パリまでいつもの日系A航空で来て、そこからマルセイユ行きの最終便に乗り換えた。国内線の中型機だったのだが、2人のCAさんはどちらも男性だった。それも体格のいいごつい人で、国内線には女性のCAさんが多いというイメージはもろくも崩れ去っていた。もっとも夜10時近くにマルセイユに到着する便なので、女性には厳しい時間なのかもしれない。
夜遅くマルセイユ空港に着いたら、到着ロビーは閑散としていた。ホテルまでは歩いても行ける距離なのだが、空港周辺はあまり治安がよくないということで、暗い道を歩くことは避けたかった。ホテルのシャトルバスを呼び出すカウンターに行くと、スタッフはおらず、直通電話で呼び出すシステムだった。予約していたホテルの番号を押し、名前を告げると、15分ほど待てということだった。多少のフランス語がわかるので何とかなったが、スマホの通訳機能では難しかったかもしれない。
20分ほどでシャトルバスはやってきた。自分以外にも3人の客がいた。私は国内線到着ロビーだったが、国際線到着ロビーは別にあったようだ。
5分ほどでホテルに着いた。2つ星のビジネスホテルという感じだ。夜が遅い時期でもさすがに真っ暗で、周りがどうなっているかはまるで分らなかった。
木村くんは、既にマルセイユに入ったというメールが来ていた。フランスには1週間以上前に入国していて、安宿に泊まりながらマルセイユに来ているとのことだった。
翌朝、ホテルの朝食をとっているところに、携帯の着信音が鳴った。木村くんだ。
「木村さん、今マルセイユ警察署にいます。すみませんが、迎えに来てもらえませんか?」
「警察署! なんでまた?」
「事件に巻き込まれたんです。身元保証人か大使館職員が来るまで帰さないと言われました」
「そうか。タクシーがつかまりしだい行くよ」
「お願いします」
木村くんは電話先で恐縮していた。
荷物を整理し、タクシーで警察署に向かった。旧市街の古めかしい建物だった。そこの受付に行くと、5分ほどで彼が出てきた。思ったよりは元気だが、眠そうな顔をしている。サインをして、彼を引き取ると
「まいりましたよ。昨晩、事件現場に出会ってスマホで撮影していたら、銃弾がとんできて、危うく殺されかけました」
「野次馬根性は危ないよ。君子危うきに近寄らずだよ。ここマルセイユはピストルを持っているのは当たり前の世界だよ」
「今までが平和だったんですね。いい経験をしました」
「ポケットに100ユーロをはだかでいれておいた方がいいよ」
「どうしてですか?」
「見せ金の一種かな。強盗に襲われた時、渡すためのお金だよ。Moneyと言われたら、in my pocket と言って渡すんだよ。けがをしたり命をとられるよりはいい」
木村くんはぼやきながら財布から100ユーロをだして、ポケットに入れていた。
彼のホテルに寄り、二人でレンタカーオフィスへ向かった。予定の時刻より3時間遅れている。でも、カウンタースタッフは何事もなかったように対応してくれた。時間を守らない人が多いからだろう。
クルマはルノーのルーテシアだった。メガーヌの方がよかったが、サイズ的にはよかったかもしれない。ハイブリッドのエコノミー車だ。木村くんは眠そうなので、後部座席で寝ることになった。いろいろと聞きたかったのだが、とても会話のできる状態ではなかった。
めざすはモナコ。来月F1が開催されるということで、今コースの準備中のはず。F1のコースを走ってみたいと思った。
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