第2話
はい!
無事に、貴族の娘に受肉しました~!
ぱんぱかぱーん♪
というわけで私『女神ルネ』は、人間界に生まれ落ちました本当に。
名前はアニエスと名付けられました。
(神界の皆、見てるかな? 見えるのかな?)
アニエスかぁ……うっかり『ルネ』に反応しないようにしないと。
予想外だったのは、赤子としてお腹から生まれた直後なのか、その少し前からなのか、とにかく何も出来ない状態からのスタートだったということ。
……正直、辛いです。
言葉が話せるようになるまで、どのくらいかかるのでしょう?
こんな屈辱から始まるなんて。
……全てのお世話を、任せっぱなしになるしかない生活。
というか、これだと主神様のお子に出会えるまで、何年かかるのやら。
赤子の体のせいか、女神の力も使えない。
これが何よりも一番、愕然とした事実で絶望した……。
ただでさえポンコツと言われていたのに、私……生きていけるのかしら。
皆、人間界に落ちたくないと言っていた理由はこれに違いない。
でも――それを受け入れるまでに数週間かかったけれど、立ち直った私エライ。
言葉は聞こえてくるから、なんとなく情報収集は出来る。
今はただ、情報を集めることに集中しようと決めた。
目がぼんやりとしか見えないのは、これも赤ちゃんだからかしら。
とにかく、今出来ることをやるのだと思ったら、少しだけ気が楽になった。
**
――耐え難い苦痛の一年を過ごした私、とってもえらい。
言葉をすこーし話せるようになって、よちよちと歩けるようになって、かなり自由度が高くなったこの体。
ママ、パパ、以外にもいくつか声に出したものだから、天才児だなんて褒められたりしてちょっと嬉しい。
でも、悪目立ちしても嫌なので控えることにした。
相変わらず、女神の力は使えないままだけど。
今は言葉を発すれば何でもしてもらえるから、それほど不便は感じなくなった。
そして、お屋敷のどこに行ってもちやほや。
それもそのはずで、侍女達は、理由なく泣いたりしない私を格別に可愛がってくれるから。
勝手に動き回らせてはくれないのが難点だけど。
快適になったのは、「おなか減った」と「おトイレ」を伝えれば、食べさせてくれるしオムツも替えてくれること。
でも……オムツは早く卒業したい。
どうにもこの体、トイレと思った時には出てしまっていて、どうにもならない。
神経伝達が一年では未発達なのか、下半身が言うことをきかないのか理由ははっきりしないのがもどかしい。
それでも、侍女達はおトイレを伝えると、毎回褒め称えてくれる。
……目標がオムツ卒業の女神なんて、辛過ぎるのに。
**
オムツのことでいっぱいになって、情報収集が疎かになっていたのは認めよう。
というのも、どうやら私のことで両親の仲が怪しいのだ。
私は……どうやら、二人に似ていないらしい。
鏡に映った自分としては違和感がなかったけれど、言われてみれば髪色も瞳の色も、両親には無い色なのだ。
受肉したこの体、金髪碧眼の可愛らしい姿をしている。
女神ルネの時の造形に、強く影響を受けているのだろうと思うくらいに。
せっかくだから、髪は腰まで伸ばそうと思っている。
でも、父はグレイヘアーにグレイの瞳と、母はブラウンヘアーにブラウンの瞳。
そのせいで父は、母が浮気して産んだ子だと疑っていて、私に構おうとしない。
母は疑われた許せなさを、ついに私にぶつけるようになっていた。
「その子を私の前に連れて来ないで」
はっきりとそう聞いたのは、両親がケンカをした直後らしいタイミングだった。
「奥様、アニエス様の前でそのような……」
「うるさいわねリザ! 今は機嫌が悪いのよ!」
「しっ、失礼しました!」
私を庇ったリザが、理不尽な怒られ方をしてしまった。
私のお世話係筆頭になった、赤毛のリザ。
笑顔が素敵で、青い瞳をうすーい細目にしながら、いつもにっこにこで微笑みかけてくれる。
その彼女が悲しい顔をして、そそくさとその場を離れて私の部屋に逃げ帰ってくれた。
でも可哀想に、まだ若いリザは涙をこぼして泣いてしまった。
(八つ当たりされたこと、慰めてあげたいなぁ)
そんなことを思っていると、リザは語りかけてくれた。
「……アニエス様。奥様はただ、ご機嫌ナナメなだけですからね? アニエス様はとってもお可愛いですし、奥様も本当は愛しておられますからね?」
なんとリザは、自分が怒られたことではなくて、私のために涙を流してくれていたらしい。
――何か、言葉をかけてあげたい。
その優しさに、感謝の気持ちを。
この体でも、不自然ではない言葉を。
「……りぃざ? い~こ、い~こ」
やり過ぎたかもしれないけど、一歳ならこのくらいは大丈夫だろう。
「アニエスさま……? なぐさめてくださったのですか? あぁ、なんてお優しくて、聡明なお子様なんでしょう。悲しんでいるのが、もうお分かりになるのですね」
それからというもの、侍女達はなるべく、だけど徹底して、私を母の前に連れていかなくなった。
もちろん、父の前にも。
「まるで、離宮で乳母に育てられる王女様のようですね」と、侍女達は笑ってくれた。
そのくらいの気持ちで、あまり落ち込まずにいてくれたのが私も有り難かった。
――なんとなく雲行きが怪しいけれど、この件は一旦落ち着いたようで良かった。
これで、私はオムツ卒業に集中できるのだから。
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