第26話 本当は誰?
「確かめる?」
気の抜けたような声でオウム返しをしたユーゴに、私はあえていたずらっぽくウインクをした。少しは笑ってくれることを狙ってみたのだ。
まさか小さく目を見開いたユーゴに、頬を染められるとは思わなかったけどね。
(もうっ。調子が狂うな)
よっぽどガイドのロキシーが気に入ってるのね。
そう思って納得する。だってほかに理由なんて思いつかないし、そう思わないと、自分が可愛くなったのではって、痛々しい勘違いをしそうになるじゃない。
今の私がヘアメイクで別人みたいになってるとはいえ、こんな美男子相手に自惚れられるほどではないのよ。
心の奥に、彼にだけ可愛く見えてたらいいんだけど……なんて気持ちがチラッと浮かんだけど、慌ててそれを振り払う。私、何を考えてるんだろう。
(美男子の隣にいたら美人になれる――そんな魔法、あるわけはないのよ?)
セビーの魔法みたいな技術で生まれ変わったみたいになったから、いつの間にか欲張りになってたのかもね。自分で言ってて言い訳みたいだけど、うん、多分そんなところ。
そんなことをガーッと考えながらも、私は表面上にこやかなまま、
「そうですよ」
と言った。
「お客様、これは本当に特別なツアーです。出血大サービスなので、心して楽しんでくださいね」
「またガイドになるの?」
芝居がかった風に話すと、少しすねたようなユーゴの声が私の心の奥をくすぐる。
「言いましたよね、特別だって。ガイドとしては絶対に案内しないところです」
「それは相手が俺だからだって、思ってもいいわけ?」
「そう思って下さっていいですよ」
だからね、あなたの自尊心も少しくすぐってあげるわ。
◆
美術館裏手に馬を預けるため管理人さんに挨拶をしたんだけど、「今日は予定があったっけ?」と言われ、ユーゴが勝手に「デートです」と答えた。
うん。間違ってはいない。間違ってはいないんだけど、私の腰を抱いて愛し気に見つめる演技までは不要だったと思うの。
「おお、そうかい。似合いの恋人だね」
「いえ、あの」
「ありがとうございます。僕としては結婚も考えてるんですけどね。彼女が頷いてくれるなら今すぐにでも」
(こらこらこらこら! ユーゴ、調子に乗りすぎ! 管理人さん、見た目は好好爺然としてるけど、中身は超絶ロマンティストよ? 本気にしちゃうじゃない!)
ううっ、管理人さんの生暖かい視線が刺さります。顔が上げられない。
それでも私がユーゴを連れて行こうとしている場所には、それくらい特別な相手だと思われたほうが都合がいいのかもしれない。
そう思いなおし、視線でユーゴに(変なことを言わないで)と釘を刺しつつ、軽く握った右手を彼のジャケットにあてて少しうつむき、
「もう。また適当なこと言うんだから」
なんて、恥じらう乙女な姿を見せておいた。ピピさんの仕草を思い出して、ついでにまつげも震わせておく。
(自分でやってて、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど)
決死の演技なんだから、笑ったら許さないわよ。
そう思ったんだけど、ユーゴの演技の方がはるかに
さっきお姫様抱っこした時みたいな熱っぽい視線と、「本気だよ」という低くかすれた声に、心臓が破裂するかと思ってしまった。
普段のユーゴを彷彿させる声だったのに、今のは破壊力がすごすぎるわ。
(ねえ。あなたがこんな風に見つめたい女の子って、本当は誰?)
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