第24話 花真王国(2)
城に入ってすぐに城仕えの侍女たちが並んで出迎えてくれる。
私はタオルを顔面にあてがい、ふらつきながら部屋に向かう。
「にぐむさまはきゃくしつで、ゆっくりおやすみください……」
「フィエラも。無理せずゆっくりと休んでくれ」
「はひ……」
うちの国の侍女たち、使用人たちはすぐにニグム様の護衛や使用人たちと協力し、部屋を整えていた。
私はコキアとハゼランに手を引かれながら、十年ぶりの自室に連れていかれる。
「国王陛下や王妃様、弟殿下方との面会は晩餐の時になるかと思います。それまでに顔を整えましょう」
「しょうですわね……」
「やっぱり酷そうですわね。大丈夫ですか? 姫様」
「ずつうとねつはなさそうですから……ねこむほどではないです……」
「「そうは見えないんですけれど」」
おかしいですね。
見た目よりだいぶまともなのですが。
しかし、はたから見ると顔面ぐちゃぐちゃ。
顔から出るものほぼ全部出ている上、浮腫みと腫れでパンパンの真っ赤なのでひどく見えるんでしょうね。
「そうだ、みずのげんませきを……ランクはなんでもいいので、もってきてくれませんか?」
「姫様……!? まさか実験とするつもりではありませんわよね?」
「さきほどにぐむさまとおはなしして、かふんをしゃだんするけっかいをつくれないか、ためしてみようかと……」
「なるほど。やってみる価値はあるかもしれませんね。ですが――」
「サービール王国に戻ってからで!」
「ふぁい……」
自室の整えてもらった寝室、ベッドに倒れ込む。
それから無理矢理起こされて着替えさせられ、晩餐まで休ませてもらう。
二時間前に起こされてお風呂。
ああ、お風呂場は花粉を洗い流せて気持ちいい。
お風呂から出て、ハンカチからヨモギの
顔の痛みがスー、と引いていく。
「どうですか?」
「まあ、お顔が元に戻りましたね! これが
「これなら化粧できそうですね」
「ええ、晩餐の間は
「貴重なものなのですね。では、慎重に使い所を見極めなければ」
「ええ」
お化粧を施してもらい、ドレスを着させてもらい、髪を整えてもらう。
その間にもじんわりと涙や鼻水が出る。
落ちにくいものを選んではもらったが、結局タオルとティッシュは常備しなければならない。
「うえぇん、弟たちには赤子の頃以来なのに、こんな涙と鼻水まみれの姉として再開するなんてええぇえぇえ……!」
「腫れは引いております、姫様!」
「そうです、弟君たちもきっとご理解くださっております!」
「異母妹たちには初めて会うのよ……!? 今から申し訳ない……!」
「事情は聞き及んでおられると思いますから!」
それだけが無念!
グスグス涙を流しながら、晩餐会の行われる食堂に向かう。
「フィエラシーラ!」
「お父様! お母様!」
食堂に入った途端、席に座っていた父と母が立ち上がる。
慌てたように近づいてきて、二人に抱き締められた。
「ああ……! フィエラシーラ! よくぞ無事に帰った……!」
「十年ぶりですね。こんなに大きくなって……。体調は? 大丈夫? 無理はしていない? ……ああ、鼻水と涙が……!」
「ごめ……ごめんなさ……」
「大丈夫よ」
ぶわ、と涙が溢れてきた。
なにこれ、懐かしい、嬉しい、ごめんなさい、申し訳ない、つらい、許してほしい、ありがとう、私も――
「私も、会いたかった、です……! お父様、お母様……!」
ぐすぐす、涙が溢れる。
早く来ていたけれどあっという間に弟たちが来る時間になってしまった。
「姉、上?」
「おお、スティール、クロード。そうだ、フィエラシーラだ。お前たちの姉だぞ」
「ッ……姉上!」
飛びついてきたのは薄っすらピンク色の髪と赤い瞳の美少年。
懐かしい。
私の記憶の中の幼い弟が、こんなに大きくなっているなんて!
え? 待って? 私の背丈超えられている……!?
「スティール!? 大きくなりすぎでは!?」
「あはは! 当たり前だよ、何年離れていたと思ってるの? 十年だよ? 僕も来年からサービール王国に留学予定なんだ。まさかその前に姉上に会えるなんて思わなかった。僕から会いに行くつもりだったのに」
「スティール……そんな……会いに来てくれるつもりだったの?」
「そうだよ。毎月手紙だけで……姉上は寂しがっていたから」
「そ……そう、感じました?」
「うん」
手紙の文面から、家族と離れて寂しい、家族に会いたい。
そんな気持ちが漏れていたのだ。
わあ、情けない。
「クロードは覚えていないと思うけれど、ほら、ちゃんとご挨拶をして」
「はい。初めまして……というのもおかしいですけれど。クロードでう、お姉様」
「はい、初めましてクロード。お手紙ではたくさん話してくれてありがとう。フィエラシーラです」
か、かわいい……!
まるで天使のような甘いピンクベージュのサラサラの髪に大きなピンク色の瞳。
女の子のようなピンクの唇。
私が国から出た頃に生まれたのだから、今十一歳のはず。
思わず両親を振り返る。
「お母様似、に……似すぎでは?」
「わたくしも年々若い頃の自分に似てきて、ちょっとなんとも言えない気持ちになっています。あまりにも可愛くて……」
「父も同年代の子息たちの性癖が歪んでしまうのではないかと不安でならない。実際重鎮の中ではこっそり菓子を与えているらしくて、最近持ち込み制限や手荷物検査を行っている」
ヤバァ……。
「姉上、体調は大丈夫ですか?」
「あ……ええ。涙と鼻水はどうすることもできないのですが、腫れなどは
「え?
「ええ、高等部にあがって幻魔石に効果付与を教わるようになったんです。フラーシュ様に教わりながら、自分で作れないか研究していました」
「「「「え?」」」」
「え?」
手紙で報告していましたよね?
でも、まさか実物があるとは思わなかったらしい。
「しかも、まさか本当に南の最大大国フラーシュ王国の王太子と婚約したいとは……昼間に挨拶をしたが、ニグム殿下は本気のようだったな。守護獣フラーシュを見て話ができたのか?」
「はい。ふわふわもふもふでとても可愛らしいのですよ。あ……そういえば、あの、お父様はニグム様とお会いになったのですよね? あ、あの、どう、でしたか?」
「もちろんお断りする理由はないよ。お前の手紙にも婚約を受けたい旨のことを書いてあったし。え? まさか実はいやだったのか? お父様から断っておいた方がよかった?」
「違います、違います! 大丈夫です! ただ、あの……フラーシュ王国に嫁いだらますます帰国しづらくなりますし……」
「なに、それなら我々から会いに行けばいい。なにより来年からスティールはサービール王国に留学予定だしな」
「そうですよ。高等部卒業までの二年間は毎日会いに行きます!」
「スティール……」
ああ、また感動の涙が。
タオルを顔に押し当てて、ぼたぼた涙が溢れてしまう。
嬉しい。愛しい。私の弟、天使。
「姉上、ご婚約おめでとうございます」
「お姉様、婚約おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます~~~っ」
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