大谷刑事

 その日、休暇を取ったという大谷一平刑事は、ナオの仕事が終わるのを薬局の前で待っていた。

 身長180cm、顔もまあまあそんなに悪くもない彼に、彼女がおらへんというのはほんまなんやろう。

 先輩はイケメンやと言うけれど、韓国アイドルに夢中なナオには理解でけへんかった。昼休憩の先輩にナオのことをいろいろと訊いていたというけれど、ひょっとして詐欺事件の犯人と疑がわれてる?

 

 駅前の最近出来たばかりの小洒落たティールームの一角に座を占めると、ナオは思い出したことを口にした。身の潔白を証明するのや。


「そう言えば、事件の前日、休憩所の前を2、3度行ったり来たりしている女性がおって、最後に扉を開けて『こちら丸福不動産ですか?』て訊いたんです。あんだけウロウロしてて今さら確認するなんて、けったいな人やなと思うたんです」 

「ビンゴ!」


 一平は長い指を鳴らすと、


「そいつが犯人だ。ほかに特徴は?」

「マスクをしていて顔は見てしません」

 

 日暮香奈も同じことを言っている。


「でも、髪はセミロング」

「と言うと」


 ナオは自分の肩より少し下がったところに手を止めた。


「このくらいやった。けど、ウイッグやったからあてにならんわ」

「ウイッグってカツラ? 見てわかるの?」

「地毛とは艶ががちゃう。ツヤと言えば、これといって特徴のない喪服みたいなスーツ着てた」

「喪服?」

「ああ、そう言えばお線香の匂いもした」


 ナオはコーヒーカップの模様を眺めると、そっとソーサーに戻した。


「ウエッジウッド好きなの?」

「別に好きってわけちゃうけど、まさかホンモノ?」

「うちにたくさんあるから見に来る?」

「いや、いや、結構です」


 そう言えば住之江警察署の人が言うとった。彼は東京から赴任して来た、ええとこのボンボンで将来はエリート官僚やて。

 すると、大谷一平がくしゃみをした。

 ナオはクスリと笑った。なぜか、人がくしゃみをすると可笑しいなる。


「あっ、思い出した」

「何をです?」



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