第11話サインは書きやすさが特に重要
「お、おお!お疲れ様でした!」
「はい、お疲れ様でした」
そう言って俺はフードを顔が隠れる程深く被って、走ってその場から逃げ出した。
それから電車や新幹線を幾つか乗り継いで、この前真昼ちゃんと出会った家近のゲームセンターへとやって来た。
「疲れた……。サインって何なんだよ。別に俺アイドルでも何でも無いんだぞ?」
――――――
俺は今日チームマネージャーからの呼び出し命令で、所属して居るチームのあるビルまでやって来ていた。
「お、お久しぶり…………です。」
「あ、夏樹さんようやく来ましたね」
「あ、あはは……」
すいません少し嘘をついていました。
実は呼び出し命令は俺が夏休み入った日に来ており、行きたく無いから気づいてないフリをして無視していたのだが、つい先日夕凪さんのコーチング依頼を受けた時にマネージャーさんに、『夏樹さん夕凪真白さんのコーチング練習もあるのは分かっていますし、夏樹さんがこちらに来たくなくて気づいてないフリをして居るのも知っていますが、8月10日までに本社に来ていただかない場合、チームマネージャー権限でナツキングさんをクビします。ですので、出来るだけ早く出社してください。by皆んなの優しいマネージャーより』と言うメッセージが送られて来たので、俺は8月10日本日東京都某所にあるビルへとやって来たのである。
「ほら夏樹さん、いい加減入り口前でうろちょろされては他の会社の人に迷惑がかかりますので、さっさと中に入って来てください」
「は、はひ!すみません……すぐ行きまふ!」
噛んでしまった……
そうしてマネージャーの後を俯きながら着いて行き、エレベーターに乗って上へと登って行った。
そうしてウチのチームが借りて居るフロアに着くと……
「あ、あれ?誰もいない?」
「ええ、例の大会で夏樹さんがやらかしてから、チームメンバーやスタッフさんと会う度盛大にゲロってたんで、夏樹さんに気を使ってこの時間事務所を空けといて貰ったんですよ」
「俺のせいです、すみません……」
「別に誰も気にしてないので大丈夫ですよ」
そう以前の大会で俺が大ポカをやらかして、歴代史上最低最悪な方法で最下位になってしまってから、以前までは普通に話せていたチームメンバー達ともマトモに話せなくなってしまったのだ。
「すみませんすみません……本当にすいません」
「ですから大丈夫ですって。それより夏樹さん今日は色々仕事溜まってるんで、泣き言はもう聞き飽きたので早くそっちやって下さい」
そう言ってマネージャーさんが指差した先には、俺達が大会で着させられているTシャツが数点と、目算100枚はあろう色紙に黒のマーカーが置かれていた。
「えっとあの……これって?」
「サインです」
「は、はい?」
「ですので今度ウチで販売するTシャツの当たり枠で、サイン入りTシャツとサイン色紙……って以前も説明しましたけど聞いてなかったんですか?」
「あ、すいません……」
それを聞くとチームマネージャーは、はぁ〜っと大きなため息を吐いた。
それにビビった俺は急いでTシャツと色紙にサインを書き始めた。
そしてそれは想像以上に多かったせいか、結局全てのサインを書き切るには3時間掛かってしまった。
同時に俺は深夜テンションで無駄に難しかっこいいサインを考えた昔のを全力で呪った。
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