第47話 水の都

金髪の盲目の男と赤髪の少女たちと別れ、俺はエレナと合流した。


今日は久しぶりのデートだ!


付き合い始めてから、また色々と忙しくて、一緒に出かけるのは結構久しぶりだったりする。


デートと言っても少し買い出しをしたら、ココたちと合流することになっているのだが…



「楽しみだな。水の都ハイルブロン共和国に行くのは!」



「そうだな…!久しぶりの休暇だし!精一杯楽しもうな!」



「あぁ!」



エレナも上機嫌のようで嬉しい限りだ。2人で歩いていると大きな荷台車を引く馬車が通り過ぎて行った。



「エレナ。あの馬車ずいぶん大きな荷物だけど.....何入れてんだ?」



「…おそらく奴隷だろう。このあと向かうハイルブロン共和国は、綺麗な水の都として有名だが、それと同時に奴隷売買でも盛んな街なのだよ」



「そうなのか…」



この世界の奴隷について、少し知識がある。


奴隷になるのは、貧困層の人間。

それと人間種以外全ての亜人たちが対象だ。


この世界は人間至上主義。フェルトなどの例外を除いて、街では人間以外の種族をほとんど見ないのもそういう背景があるからだ。


それに前いた世界でも似たようなものがあった。犯罪を犯した者や多額の借金を負っている者たちを対象に、逆らうと強力な電流の流れる、地下だろうと空中だろうと正確に位置を追えるGPSが埋め込まれた上で、雀の涙程度の賃金でほぼ不眠不休で働かせられる制度。奴隷と何ら変わりないが、賛否両論で賛成派も多数いたため50年以上続いている。もちろん俺は反対派だが。



「変なこと聞いたな。ちゃっちゃと買い物を済ませようぜ!」



「そうだな…」



食料を買って夜にバーベキューをするのだが、買い物はそれだけではない。


刀が折れてしまったので、久しぶりにおやじに会いに行くつもりだ。本当は、創造で造れば早いのだが、やっぱり俺の剣は親父に打ってもらいたい。一様ある程度のお金と、金属の中でも希少な魔鉱石を用意している。


場所も結構遠いので、先におやじのところへ向かった。おやじの家は相変わらず小汚くオンボロな屋敷。



「おやじ〜!いるのか〜!」



大きな声で呼んだが返事はなく、何度呼んでも返事はなかった。おやじは近隣の村々にも名の知れたちょっとした有名人。仕事の依頼が来ることも多々あったのでいなくても不思議ではない。しかしマレンゴなる俺の愛馬に挨拶に行くと、そこには糞尿からなる酷い匂いを放つ衰弱しているマレンゴが元気なく横たわっていた。


明らかに手入れされている様子もなく、餌もまともにもらえていなかったのだろう。この世界で最初に(寒さから)助けてくれた恩から、病に犯されていた肉体を治すため、用意していた2種類のポーションをふりかけた上で、一度外へと連れ出し申し訳程度の餌を与えてやった。俺とメロとネロの3人で開発した新種の神の雫ロゼ・テオスという名の回復ポーションの効果は素晴らしく、マレンゴは数分で走り回れるまでの回復っぷりを見せてくれた。身体に纏わりつく臭いも水できれいに洗い流し、これにて完全復活。


だが異変はこれだけに留まらず、その他家畜小屋にいる生き物たちの大半は死亡しており、なんなら死人種に変貌している個体もいた。こうなってしまっては俺に治す手段は無く、苦しませないよう高い火力で一撃で葬り、収納という形で供養した。



「本当にここなのか?」



「ここのはず.....なんだが」


おやじが家畜の世話をしないなどおかしい。これは何らかの非常事態。おやじを急いで探すため二手に別れ、近くの区域の捜索を開始した。


近隣の村々を訪れ話を聞くも、おやじの姿を最近見た者はいないらしい。村人の様子がおかしいことが気になるが.....

結局1時間の捜索虚しく足取りを掴むことができず、エレナと合流した上で一度屋敷の中へと入ることにした。



「・・・」



「これは.....酷いな」



屋敷に入ってすぐだった。茶色に変色した液体が床や壁一面にこべりつき、その中心には腐りかけたおやじの亡骸が転がっていた。血の飛び散り方がこの屋敷で起こった惨劇を物語る。


俺は無言で親父を抱き抱え、肉体を収納し綺麗にした上で屋敷の布団の上へと寝かせた。



「ただいま.....」



エレナは俺の肩を摩りながら、ゆっくりおやじの顔元へと近づく。



「初めまして。アスタより貴方は父親のような存在だと伺っております。私はアスタの妃となる予定のエレナと申します。アスタを育てていただきありがとうございます」



いつもの砕けた口調とは違い綺麗な言葉遣いで丁寧におやじに挨拶をしてくれた。父親に初めて挨拶をする彼女の姿はこんな感じなのだろうか。悲しい気持ちが照れくささで少し紛れた。


親父の亡骸の隣に無造作に置かれた紙を読む。


[王に対する不敬を働くとどうなるかその目に焼き付けよ。ウルム国王]


デカデカとそれだけの文字が書かれていた。



「アスタ。これを」



エレナは申し訳なさそうな表情を浮かべながら、俺に箱と手紙を渡してきた。


[タイガ。この手紙をお前さんが読むってことは俺は死んだということだろう。お前さんが何をしでかしたかも知ってる。

だから自分の責任だと思ってんだろ?

でもそれは違う。話したことなかったが、俺にはメティエって名の息子がいたんだ。俺なんかと違って優秀で、王に仕える優秀な武具職人をしていてなぁ。そりゃ自慢の息子だった。

だがある時・・・あいつは大量に人を殺せる兵器の開発を任されたらしい。それに反発した結果、心を壊され無理矢理兵器開発をさせられ、その上で殺された。

だから俺は王に対して開くと爆発する小包を送りつけてやった。

タイガ。孫とか言ったが本当は死んだ息子のように思ってたんだ。

お前は生きろよ。じゃあな。

それとこの箱に入って刀は俺の最高傑作だ。いらなかったら売ってくれて構わないが・・・使えそうなら使ってやってくれ。

名前は・・・]



爆弾送ったって何やってんだ。


でも親父らしいな。目から次から次へと涙が溢れてきた。わかったよ。とりあえずはウルムを今すぐに滅ぼすのは勘弁してやる。気を取り直した箱を開けてみると、綺麗な刀が入っていた。それを取り出し鞘から出してみた。

刃は黒く乱刃でよく斬れそうだ。



「すげぇ…」



その美しさに思わず言葉がこぼれた。


名前は確かダインスレイフ。魔剣らしい。

確かに手に電気が走るような感覚はするが、魔剣って何?その逆の聖剣もあるのだろうか?



(アテナ。魔剣ってなんだ?あと聖剣もあるのか?)



【はい。魔剣とは、鍛治士が稀に作成できる剣の通称です。魔剣は何らかの力が秘められており、通常の武器とは比べものになりません。聖剣とは、魔剣とは違い鍛治士では生み出すことができない剣で、この世界に10本しか存在しません。その力は魔剣の力を凌駕するほど圧倒的な力が秘められています。しかし聖剣は、使用者を選ぶため、未熟な者は剣を振るどころか鞘から抜くことすらできません】


【追加補足ですが、この世界にある聖剣はそれぞれ[アスカロン][フロッティ][レジル][フラガラッハ][カラドボルグ][ミスティルテイン][ホヴズ][ベガルタ][レーヴァテイン][アメノハバキリ]です】



(それでこの魔剣はどんな力があるんだ?)



【この魔剣は、魔力の濃い血を浴びせると一定時間の間、魔力の濃さに比例して斬れ味が上がる。刃が欠けても折れても、血を浴びせると元に戻ります】



面白いと言うか怖い刀だ…

魔王の俺にぴったりかもしれない。


つまり転生者クラスの血を吸わせれば、もしかすると聖剣にも匹敵するかもしれない。


俺はありがたくその刀を貰った。


死体を放置するわけにもいかないので、この世界の風習に従って死体を燃やした後に、その灰を混ぜたセメントで墓石を建てる。これは死人アンデット化しないための行いらしい。



「これ。よければ供えてやってくれ」



「ありがとうエレナ」



墓にエレナが持ってきてくれた花を供え、手を合わせた。まぁ、今回の件は親父の独断らしいのでとりあえずは保留にしてやるが.....次に潰す国は決まったな。

おやじからもらった魔剣を腰に差すと、俺は小屋を後にした。親父の遺骨の少々は、袋に入れて持って帰り、村にも墓を建ててやることにした。エレナに肩をさすられながら、俺たちは街へ戻り食料を購入したが、道中寄り道をしながら買い物をしていたため、集合時間には遅れてしまい.....



「おっそーーーーーーーーい!」



合流して早々に、頬を大きく膨らませたココに説教をくらった。



「悪かったって…」



「すまなかったよココ」



「いいじゃない。恋人同士で楽しく買い物できたみたいだし」



メロのフォローが入り、ココの頬が少し萎んだ。しかし依然として怒っていることには変わりない。



「ココ…これはお土産なんだけど…」



こうなったら仕方がない。

俺は懐に忍ばせた秘密兵器をゆっくりと出した。秘密兵器を見るなりココは目を輝かせた。

それも当然。ココの大好物の蜂蜜を焦がして固めた飴だからだ。



「ありがと〜あすた!!じゃあ行こっか!」



ココは上機嫌で飴を舐め始めた。すっかり怒りは覚めたようで安心した。そして4人で、ハイルブロン行きの大型の馬車に乗り込んだ。


通常の馬車とは違い、バスっぽい内装。


このタイプの馬車は長時間移動するためのもので、長いく仕切りのない最大で四人ほどが座れる座席があり、背もたれがやや後ろに倒れており寝やすい仕組みになっている。ご丁寧に座席の下には、寝るために必要な掛け布と枕が用意されていた。


出発して最初こそは4人で楽しく話していたが、時間が経つにつれて3人とも、うとうとし始めると次々と寝ていった。


俺は揺れる車内では昔から寝ることができないため、1人でボケっとしており、窓側に座っていたため、暇つぶしに外を覗こうとしたが、エレナの頭に右肩が拉致されていたので、動くことができなかった。


ふとメロたちの方を見ると、ココの姿がない。慌てて当たりを見渡したがどこにもいなかった。



「もう食べられにゃい…」



突然床から声が聞こえ、下を見てみると座席の下で眠っているココの姿があった。

本来なら抱き抱えて上に戻すのだが、生憎俺は動くことができず、本当にすることがない。


こんな時にスマホでもあれば・・・あたりもすっかり暗くなった頃、ようやく国に近づいてきた。



「カラス」



【スパイス】



「酢昆布」



【ブーケトス】



「スイカ」



【カシス】



「スタンド」



暇を持て余した結果、俺はアテナとしりとり対決をしていた。

結果は0勝15敗…


ひたすら同じ字で攻められ全く勝てない。


そんなことをしていると、ゴン!という大きな音と、ココの叫び声が聞こえた。

どうやら起き上がろうとした時に、座席に頭を打ったらしい。



「いたぁぁぁい!」



その声を聞いて、エレナとメロも起きたようだ。起きてからは4人で再び雑談をしていると、馬車が止まった。


どうやら着いたようだ。


ココが我先にと俺たちの膝の上を四つん這いで通路に降り、走って馬車の外に飛び出していった。俺たちもココの後を追い急いで馬車を降りた。


統一された青い色の建物。ライトアップされて幻想的な巨大な噴水。その先に広がる大きな海。その眺めはまさに絶景だ。すぐに4人で浜辺に行き、創造でバーベキューをするためのセットを作り出した。その間にココは薪に使う流木を集めに行き、メロとエレナで食材の調理を行う。創造にも慣れて、最近では実際に目で見たことのある物は大抵、簡単に作り出せるように進歩したのだ!


食材の調理にはまだまだ時間がかかりそうだたので釣竿とルアーを作り出し、暇つぶしがてら釣りをすることに。


釣りは俺ができる数の少ないアウトドアのスポーツ。正直釣れる自信はなかったが、10投あたりで初のアタリが。タイミングを合わせ竿を立てる。直後激しい引きと共に竿がしなりを見せた。これこそ釣りの醍醐味。釣れるまでの過程が一番楽しい。長き格闘の末に引き上げるとそこには、単眼で紫色のプルプルの皮膚に長い背びれを持つ禍々しい魚が1匹。大きさは40センチほど。とりあえずバケツの中に放り込み、次なる戦いへ。その後しばらくアタリはなかったが、俺が釣りをしているところに物珍しそうな顔をしたココがやってきた。



「なにしてるの〜?」



「ん?釣りだよ」



「つり.....?」



もしかしてだが、こっちの世界に釣りという文化は無いのか?確かにこちらに来てから釣りをしている人を見たことがない。



「知らないのか?この釣竿って道具に糸つけて、糸の先に針をつけて魚を引っ掛けるやつ」



「うんうん?聞いたことないよ〜?」



ココは確かに馬鹿な行動や言動が目立つが、しっかり者のメロよりも情報面では優れてるから信頼してないわけではないが、確認程度にメロやエレナに聞くがやはり知らないと言う。


やりたそうな目でココは俺を見つめるので、仕方なく竿をもう1セット作ると、2人で釣りを開始した。もしかしたらコレ商売になるのでは?と良からぬ事を考えつつ釣りを楽しむも釣れる魚は全て同じ種類のみ。

どうしていいかわからなかったので、とりあえず調理担当のメロのところに持っていくと、華麗な手捌きで下処理を終え、串刺しにした上で俺に手渡してきた。



「この粘液鮟鱇ローションアングラーって魚はとっても美味しいから、ココと食べてみて!」



「わかった…」



メロに言われるがまま俺は、コンロに薪を入れ燃やして、その小魚の串を焼いてみた。


ココは楽しみだと言っていたが、俺は美味しいのかと疑問に思い続けていた。焼けてみると、まだ先ほどよりは見た目はマシだったがやはり食べるのが怖い。


とりあえず毒見役として、ココに渡すと、ココは嬉しそうにそれを受け取り、大きく口を開け小魚を頬張った。


美味しそうに食べているココをみて、俺も恐る恐る一口かじると.....見た目は気持ち悪いくせに、意外と美味しい。


そうこうしているうちに、食材の調理も終わったようでメロとエレナもこちらにお皿を持って来た。流石にバーベキューは先客がいるようで、こちらの世界でもバーベキュー文化が既に根付いており、見た目は違えど食材はに通った物となっている。


どれも美味しそうだ。


最初は多めに食材をコンロに乗せて…メロたちが買って来たお酒をそれぞれのコップに注ぎ…



『かんぱーい!』



人のいない夜の浜辺で、小さな宴が幕を開けた。食事もそこそこに、みんな浴びるようにお酒を飲んでいる。


最初に脱落したのは、意外にもメロだった。

離れたところで、キラキラと嘔吐した後、こっちへ戻ってくるなり、寝てしまった。


次に脱落したのは、エレナだった。だんだん俺にデレデレし始めたかと思うと、すぐに寝てしまった。もっとデレデレしたエレナを見ていたかったが残念だ。


そしてココはまだまだ元気だった。気になって鑑定してもらったら、驚くことに毒耐性を獲得していた。



「2人とも寝ちゃったねー」



「そうだな」



正直ココだけでもまだ起きていてくれて助かる。3人を担いで宿屋に行くのは俺の筋肉量では不可能だ。



「ココこいつらを宿屋にいつれていくぞ」



「はいはーい!」



ココはメロを、俺はエレナを担いで宿屋まで行った。生憎一部屋しか借りれなかったので、とりあえずメロとエレナをベッドの上に投げると、ココもソファーの上で寝始めてしまった。


楽しい時間というのはあっという間だな。

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INSURGENT〜正義の魔王〜 あるご @6143natuki

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