忌み子だった侯爵家の『捨てら令嬢』は謎スキル『もふり』で獣に『攫わ令嬢』に
安ころもっち
アテナイ王国編
第1話
ここは双子が滅多に生まれない剣と魔法の世界。
今から12年前、国王軍を指揮する侯爵家で生まれた落ちたのは双子であった。
その双子の妹がアールグレイ・マリアント。
それが私……今の私……
今は屋敷の離れに一人寂しく暮らしている。
少ない人数で最低限の世話はされているが、捨てら令嬢、いずれ捨てら令嬢、忌子、いらない子、などと口を開けば聞こえるように悪口を言うような、そんな粗末な侍女が仕えている。
そんな私、マリアントは実は前世の記憶を持っていた。
田舎の街で暮らしていたが、10才の時に愛犬のジロと留守番中、強盗に押し入られジロに守られるも死んでしまった。
ジロは必死で吠えて私と強盗の前に立ちはだかって牙を剥いていたのに、結局ナイフで首を刺され動かなくなった。
私は恐怖より悲しみの方が強く、ジロを見つめていた。
そして胸に激しい痛みを感じて意識を失った。
私がこの世界に生まれ落ちた時のこともしっかりと覚えている。というよりもその死んで意識を失ったすぐ後に、光を感じて目を開けたら頭を抱えている外国人の男女を見たのが最初だった。
母と思われる女性は嘆き悲しんだ。
「どうしてこんな子が生まれてしまったのか」と……
父と思われる男性は、頭を抱えながらも冷静であった。
「まずは12の洗礼の儀まではどこかに隠さなくては……我が侯爵家に誕生したのは一人の娘だ。スキルが凄いものでない限り、その場で処分したらいいだろう」
唯一、双子の姉だけはやさしく接してくれた。
毎日英才教育で忙しいと言っているが、一週間に1回はかならず顔を見せてくれる。
「何か欲し物はない?」
「絵本持ってきたの。読んであげるね」
「ごめんね。ここに置いて行くとママが怒っちゃうから……」
「いつか私がここから連れ出してあげるね!」
姉のことだけを支えにしてなんとか生きてきた。
そんな私も12才。
洗礼の儀だと久しぶりに部屋から出された私は、屋敷の礼拝堂に連れてこられ「ここで祈れ」といつもの侍女に言われ頭を押さえつけられた。
祈れと言われてもこの世界の方式は分からない。そんなことを思って隣を見ると、姉が両手を合わせて目をつぶっていた。
なんだ。この世界でも一緒なんだ。そう思って祈っていた。
「アールグレイ・ロズエリア様……『導き手』としての力がお目覚めになりました」
おお、という歓声とともに祝福の拍手が鳴り響く。
ここにいるのは、洗礼の儀を取り仕切る教会の神父様。
そして両親の他には姉と私と、何名かの男性。
「導き手は人々の未来の道しるべとなる素晴らしいスキル!よくやったロズ!」
こっそり片目を開けてみると、喜ぶ姉が父に抱き着いていた。
そして……
「ぜひ私のお嫁さんになってくれませんか?」
近くにいた男の子が膝をついて求婚していた。
「ありがたき幸せ」
父が膝をついて頭を下げている。
「不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします。グリーンヒル・レイドック皇太子殿下」
姉がドレスの両端を指でつまんでうつむいた。
私は心の中で姉の幸せを願った。そして早く次に進めてほしいとも願った。鍛えられていない腰が、膝が、正直もう辛いです。
「アールグレイ・マリアント様……も……もっ……『もふり』?としての力が……お目覚めになりました?」
『もふり』ってなんだ?
私は想像もできない謎スキルを引いてしまった。
いや、この世界ではこういったのも過去に出ているのかもしれない……
そう思って私は目を開けて両親を見る。
母はぷるぷると体を震わせていた。
「やっぱりいらない子!そんなスキル聞いたことがない!いらない!やっぱり私にはいらない子だった!」
正直本気で悲しい。
父はいつものように冷静であった。
「やはりな。まあいい。ロズが居ればそれで……」
予想通りだったので何も思わなかった。
その時、姉は私を悲しそうに見つめていた。どういった感情だったのかは想像できなかったが、仕方ないんだよ。大丈夫。もう忘れて。できる事ならそう言って慰めてあげたかった。
「それでは、レイドック皇太子殿下。このことは内密に……」
「分かっている。アールグレイ侯爵家の娘は一人。ということで良いのだな」
「感謝いたします!」
なんだ。初めからこうなることは決まっていたのだ。この世界で12年も生きてきて結局最後はこうなった。もう絶望も感じない。
うつむいている私に、いつも私をバカにしている侍女がやってきて袖を引っ張った。
「早く帰るわよ」
そういって部屋に戻れと催促される。
「はーこれでせいせいする。あんたもこれで終わりね!まっあんな生活するぐらいならコロっと死んで来世にかけた方が良いだろうし。まあ精々がんばってー」
部屋につくと、開いた扉に向かって侍女が私を突き飛ばし、言葉もなくドアを閉めていった。
途端に悔しさと悲しさがないまぜもまって涙が出てきた。
歯を食いしばり泣き声を上げることを拒絶した。
悔しくて、悲しくて、これからあるであろう死への恐怖に、前世での死を重ね合わせた。
「誰か……助けて……、助けて……ジロ……」
部屋には相変わらずの静寂が流れていた。
しばらくして突然部屋のガラスが割れ、部屋の中に黒い何かが飛び込んできた。
私は悲鳴を上げてその物体を見る。
「黒い……狼?」
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