閑章 シレーネとジョン それと地上のお話

第50話 のんびりぶらり2人と1匹の旅路

 シレーネと共に拠点へと戻る旅を始めて1日。

 歩きながら、俺は彼女と色々な話をしていた。

 といっても話す内容は魔法の構成であったり、彼女の女王としての活動だったりと、あまりこの世界全体に触れるような大きな話はしないようにしているが。


 彼女の知るこの世界のこと、そして彼女が言う他の都市、王国のこと。

 これらは基本的にはまだ配信先に聞かせたい話ではない。


 シレーネという、知的生命体、人間とほとんど同じ存在がいる、という事実だけでも、地上は阿鼻叫喚になっているだろう。

 ダンジョンからは鉱石やモンスターの素材など様々な資源が手に入るが、土地というものは手に入らない。

 そしてそれは隅々まで国が決められた地上でも一緒。

 故にそれを俺のいるダンジョンの先の世界で手にしようと考える上の人間だっているだろう。

 そんな地上の国家の上層部は、この情報でまずは一混乱するはずだ。


 その混乱がある程度収束を見るか、受け入れられる1か月程度はせめて次の情報を出すための猶予は持っておきたい。

 俺が出した情報で、地上の秩序が怪しくなるほど荒れるのは見たくはない。

 一応シレーネにも、完全に理解して貰えたかは怪しいが、遠くから来た俺達にとってこの世界のことは興味深すぎるので、あんまり他の国とかの話はしないようにしてくれ、とお願いをしている。


「シレーネは、女王やってた頃は遠出とかしたのか?」

「よく馬に乗って遠乗りに出ていました。今では山に囲まれた場所になっていますけど、あの街、昔はもっと平らな場所にあったんですよ?」


 地形が変わるほどの時間経過。

 その間街を守り続けたシレーネの魔法が凄いのか、あるいはシレーネの魔法という強大な魔力に地脈だか龍脈だかが反応して山を作り出してしまったこの世界が凄いのか。

 あくまで予想に過ぎないが、あの山は地球の山と同じような形成のされ方ではなく、魔力関連で形成されたのではないか、と俺は思っている。

 それぐらいこの世界の魔力というのは、世界の根幹に、法則に大きな影響を与えている。


「じゃあ、砂漠を見に来たことも? 帰りにも寄ろうと思っているんだが」

「砂漠というと、シャラング砂漠のことでしょうか」

「名称はわからない。ここから俺の拠点に行くまでの道中から見えるんだ。見たことが無いなら見れると良いと思ってな」


 女王様だったというシレーネだが、ちゃんと鍛えていたのか、それとも風の民というのがそもそも身体能力に秀でているのかはわからないが、山の中をサクサク歩いていく俺に対してもそれなりについてこれている。

 流石に俺がシレーネの歩きやすい道を選んでペースは落としているが、それでもこれについてこれるのはなかなかなものだ。

 シレーネは魔力操作とかそういった技能は出来るだろうか、と気になるが、今は話の途中なのでそれは後に回しておく。


「あの小さな国の女王として有り続けようと思っていたため、そこまで遠出をしたことは無いのです。ただ噂程度に聞いただけで」

「なるほどな。なら、きっと驚くようなものが見れるだろう」


 今回の旅も、そしてこれからの旅でも。

 

 配信をやっていてわかったのだが、俺は1人旅するのが好きなのと同時に、人と旅をすることも結構好きらしい。

 というよりは、俺が見ているこの目の前の最高の景色を他の誰かにも見せてやりたい、という思いだろうか。

 そういう思いがあったようで、視聴者たちに世界樹だの大砂漠だのそこを泳ぐ生物だのを見せているときというのは実は結構俺としても楽しかったりする。

 

 彼らの驚く反応、そして感動の言葉。

 そう言ったものを嬉しいと思う程度には、俺は人間のことが好きでいるらしい。


「それは嬉しいですわ」

「ま、世界は広い。俺だって未だに回れていない場所ばかりだよ」


 本当に。

 今回も結局シレーネを拾ってしまったので一旦帰還することになったわけだし。

 最近どうも怪我して転移してくる人と良い世界樹のドラゴンといい凍った都市と良い、イベントごとが続きすぎている気がする。

 もっと気楽に何ヶ月もブラブラと散歩をしてみたいものだ。


 まあ、しかしそれもシレーネという客人を迎えて、この世界について知る機会とその知識源が増えたと考えればそう悪くはない。

 嘘だ、少しばかり不満ではあるが。


 さてもおき、考えたいのはシレーネには今後どうしてもらおうか、という話である。

 そんな事を考えながら歩いていると、来るときにもキャンプ地とした山間のちょっとした盆地にたどり着く。

 

『バウッ』


 そう一吠えしたロボは、俺が、ここをキャンプ地とする、と宣言する前に獲物を探しに走り出していってしまった。

 最近彼女は以前にもまして大食いになってきている。

 おそらく彼女の肉体が次へと成長する時期に差し掛かっているのだろう。


「今日はここでテントを張るとしようか」


 そう宣言した俺に、シレーネが申し訳無さ気な表情をする。


「申し訳ありません、いつも私のために」

「いやあ、別にシレーネのためじゃないというか。女性が直ぐ側で寝ているというのはこっちも落ち着かないし、夜間もドローンで配信したままだからな。女性の寝顔を晒すわけにはいかんよ」


 彼女が言っているのは、普段自分のためだけなら布にくるまって寝る俺が、彼女がいることでわざわざ地上から持ち込んだテントを使っている事を言っているのだろう。

 だが、こちらにもちゃんと事情があって、まあほとんどはシレーネという美しい女性の隣で寝るのは許さんという視聴者たちの声だったりするのだが、普通に俺は女性相手の関わり方を知らないので、ある程度丁寧な対応を心がけているだけである。


「この辺りで良いか。シレーネ手伝ってくれ」

「はい」


 俺の持っているテントはワンタッチで開いたりするようなタイプのものではなく、自分で展開して骨組みを通してペグを打つタイプのものなので、設置には少しばかり手間がかかる。

 そこにシレーネの手があることで、俺の作業時間は減っている、俺が助かっている。

 ということを見せつけておかないと、シレーネはまたいらない方向へと思考を向けて、自分には何も出来ないと反省を始めてしまう。


 民を守れなかったことも尾を引いているし、今こうやって旅をしているのも、彼女からすれば俺におんぶにだっこになっているように思えてしまうらしい。

 まあ、あながち間違いではないのが正直なところだが。

 だからこそ、彼女が出来ることは彼女に任せる必要がある。


「シレーネ、これ玉ねぎとじゃがいもと人参、切っておいてくれ。水汲んでくる」

「わかりました。シチューの粉はどちらでしょう?」


 俺の食材と俺の言葉の先を読んだシレーネの問いに、俺は首を振る。


「いや、今晩はシレーネには俺の国発祥の料理を食べて貰いたくてな。ちょっと違う味付けをするんだ」

「そうなんですね。では、取り敢えず切っておきますね」

「ああ、ありがとう」


 シレーネに食材のカットを頼んでいる間に、俺は薪を集めてきて焚き火を焚いて、ついでに近場の川から水を汲んでくる。

 俺がそうやってアレコレしている横で、シレーネは器用にも魔法を使って複数の野菜を同時に皮を向いたりスパスパとカットしたりしていく。

 今のところ攻撃魔法しか手札にない俺達と比べて大分生活に魔法が根付いている感じのある使い方だ。

 

 そしてそうこうしているとロボが鹿を仕留めて帰ってきたので、俺はそれを解体して今夜の料理に使う分と、それとは別にロボの食事として焚き火で焼く分などを捌いていく。


「ジョンさん、切り終わりました。次は何をすれば良いですか?」

「煮る直前まではシチューととほとんど変わらないから、野菜炒めて、の前にこっちか。この鹿肉今日の料理に使うから小さめに切って、それが出来たらシチューのときと同じように炒めておいてくれ」

「はい、頑張りますね」

「おう」


 ロボがいつも獲物を仕留めてくるので解体するのと料理を並行でやるのがけっこう大変なのだが、シレーネがいることでそれも楽になっている。

 そのあたりを言っても彼女が卑屈になって受け入れてくれないのが歯がゆいところだが。


 肉を解体し終えて川で手を洗ってきた俺は、野菜などを炒める彼女の隣で複数の調味料のボトルを取り出して、容器の中で混ぜ合わせて。


「……そんな真っ黒なので大丈夫なんですか?」

「大丈夫大丈夫」


 まあ初見で醤油を見るとその真っ黒さにビビるよな。

 しかしそうなると彼女のところにはソース的なのも無かったのだろうか。

 まあ現代で簡単に買えるソースも、色んな野菜のエキスが煮込まれていたりと作るのには結構な工程がかかっている、文明が強力であってこその代物って感じはあるけども。


 そして炒めるのが丁度良いぐらいになったところで、調味料と一緒に水を鍋に入れて蓋をする。

 このあたりで、焚き火の火は強力すぎるので魔法で多少火加減をしておくのがポイントだ。

 

 後は時々かき混ぜつつ30分程煮込めば、だんだんいい香りがしてくる。

 醤油と砂糖とみりんと、後は出汁の匂いだろうか。

 いい匂いというのはわかるが、どいつがいい匂いの正体か実は俺は知らない。


「いい匂いがしてきました」

『バウッ』


 座って書物を開いていたシレーネの言葉に、ロボも待ち切れないとばかりに立ち上がって尻尾を振っている。

 お座りしなさい、って時々ほんとに犬みたいだなお前。


「そろそろかな」


 蓋を開ければ多くの蒸気とともにいい匂いが当たりに広がった。

 肉、玉ねぎ、じゃがいも、人参。

 そしてそれらが沈む半透明の茶色の液体。

 漂うのは甘辛く味付けをするための醤油と砂糖の香り。


 そう、俺が今回作ったのは肉じゃがである。

 ちなみに隣でお米も焚いている。


「俺の国の料理でな。肉じゃがっていうんだ。まあ本当は使う肉が違うんだが」


 ちなみに今回はロボの捕まえてきた鹿の親戚みたいな感じのモンスターの肉だ。

 もちろん毒がないかは事前に魔法で調査済みである。


「これとご飯を一緒に食うと美味いんだ」


 そう言いながら、同じく炊きあがったホカホカのご飯を器によそってシレーネにわたす。

 1人ずつ木で作った小さなテーブルの上に、ほかほかのご飯と湯気を上げている肉じゃが。

 これはもう犯罪的だろう。


「いただきます」

「いた、だきます」


 俺の食前の挨拶にもシレーネは付き合ってくれる。

 というか最初に聞かれたときにどういう意味かと尋ねられ、万物への感謝という意味合いを教えたらいたく感動した様子で真似し始めたのだ。

 そういう考え方は無かったらしく、新鮮だそうだ。

 八百万の神とか大丈夫かな、発狂しそう。

 でもこの世界は、あのドラゴンの存在を見るにモンスター信仰とか精霊信仰とかありそうな気もする。


 まずはじゃがいもを一口。

 ホクリと噛み切れて、程よく味がしみたじゃがいもは本当によくご飯に合う。


 続けて鹿もどきの肉。

 ロボにあげる分の焼いた肉をちょっと食べてみたが、臭みはそれほどなく、豚とは違うもののこれはこれで美味しい。

 そして汁を吸った玉ねぎをご飯に載せて、汁とご飯ごと食べる。


「「うま/おいしい」」


 2人の言葉が自然と被り、互いに顔を見合わせた俺達は思わず笑ってしまう。

 そんな俺達2人を、ぺろりと俺達の十倍以上の肉じゃがと肉を平らげたロボが不思議そうな顔で見ている。


 こうやって、俺達の旅の夜はふけていくのだった。


~~~~~~~~


カクヨムにアンケート機能が無いのでツイッターの方でアンケートを実施します

内容については、改めて本作に求められている需要の調査です


https://x.com/hoshikuzunotabi/status/1784373595483041881


「この系統(ダンジョンでの配信をする感じの話)のテンプレ的には、他のキャラとの絡みをそろそろちゃんと書いてほしい」という感想をいただき、読者の方たちがテンプレに飢えているかもしれないと考えてアンケートをとっています


①ジョンがこのままシレーネと共に他の場所へ冒険に行く話

②シレーネを他に預けてまた1人旅する話

③地上の話(ダンジョンエースの没落や地上の探索者達の努力の様子)

 ジョンの視点は無し

④ジョン視点も混ざってガッツリ地上の話

 ジョンがシレーネに地上を見せてやろうと地上にシレーネを連れて出た際に他の探索者と遭遇し、なんだかんだで手伝う感じに。サポートしたり鍛えたりします

 その場合は第5層のキャンプ地建設まで話が進む


またこれにあたり、最初の頃にした「ダンジョン内では配信しか出来ない」という設定を変えて、「ダンジョン内では配信の視聴も出来る」という感じに変えます

この設定いい加減きついな、と思っていたので。

配信や連絡アプリのみ閲覧可能という感じで。

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