第41話 城内探索

 明けて翌朝、いよいよあの城の調査に向かおうと、また何も見えなくなっている場所へ向かって歩を進める。

 どうやらあの城は、ある程度の距離が離れると見えなくなるような魔法がかけられているらしい。

 

 その空白に近づくと再び城が姿を現し、かつ俺達に指していた日が遮られる形となる。


「あーん? ロボ、ちょっとここにいてくれ」

『バウッ』


 :なにか気づいた感じ?

 :ロボ残して城から離れたな

 :どしたんやろか

 :あー日陰あるってそゆことかなるほどね


 少し気づいたことがあったので、ロボを城の真下に残したまま移動し、城が見えなかった位置間で移動する。

 しかし、城は見えている。


「なーるほどな。近づかないと見えないってのは確かにそうだが、誰かが近くにいないと出現しない、逆に言えば誰かが近くにいれば出現しっぱなしの城か。なるほど、通りでモンスターの気配がないわけだ」


 おそらく、モンスターが来たり住み着いたりすることで城が出現しっぱなしになることを避けていたのだろう。


 しかし、ただ近づかなければ見えず、陽の光も影も幻影を見せる、というたぐいの魔法をかけておけば、わざわざ普段は日光すら透過しておいて、人が近づいたら出現するような面倒な魔法をかけるような必要はないだろうに。

 いやまあ魔法の面倒くささや好みは使い手次第熟練度次第ではあるのだが。


「けどなんか違和感あるな……。ただの幻影魔法じゃ駄目だったのか?」


 しかしどーも、この近づいたときにだけ出現する、というのに違和感がある。

 陽の光を透過させる形の幻影魔法もそうだ。

 そんな手間なことをしなくても、大きな一つの幻影魔法をかけてしまえば城の存在を隠すことは容易いはずなのだ。


「ロボ、ちょっとこっち来てくれ!」

『バウッ!』


 ロボを呼び寄せると、近くに誰もいなくなったことで再び城が透明になり、陽の光が問題なく透過するようになる。


 そして気になることが出来た俺は、ブレスレットからナイフを取り出すと、それを城の門があるあたりに向かってブンッ、と投げた。


 :えちょっと?

 :投げた!?

 :せっかくの城がああ!!

 :何してんのおおおおお!!

 :遺跡の保全!!!!!!


 コメント欄がうるさいが、しかし、実際は俺の予想通り。

 ほぼ直線で飛んだナイフは、、突き抜けてその向こうの山肌に突き刺さった。


「んーなるほどなあ。本当に普段は存在してないのか」


 どおりで。

 普段は日光透過したり、近づけば出現したりするような面倒くさい魔法がかけられていると思ったら。

 そうではなかったのだ。


 そもそも、人やモンスターが近づいていない瞬間には、あの城はこの世界の、少なくともこのテクスチャの上には存在していないのである。


 :つまり、どゆこと? 

 :時空間の異常的な?

 :普段はそこにあるけどそこにない、近づいた瞬間に存在が確定する感じか

 :じゃあ普段はどこにあるのあれ?

 :今のは結局何を示唆してるの?


「多分だけど、あの城、時空間系の厄介な魔法がかかってるんだろうな。そんで、人が近づいたときだけそれが落ち着いてちゃんとこの世界に出現する。多分な、多分」

  

 もちろん単純に普段はどこか別の場所にあって、近づいたときだけ出現してくるとかいう可能性も考えられるが──


「日光の屈折率がおかしくなってんのも、時空間がバグってるからならわかるんだよなあ」


 そう話しながら、俺とロボは再び城へと近づいていく。

 

 :純粋に疑問なんだけどそんなところ入って大丈夫なのか?

 :確かに、また消えたりしたら巻き込まれないのか?

 :流石に危ない気がしてきた。

 :城の中早く見せてー!!


 ほとんどのコメントが、近づくことに対する危険性を訴えてくる。

 確かに俺も時空間的にバグっているとしたら、入った直後に再びバグって時空間異常で変なところに飲み込まれる可能性も疑っている。

 

 だが逆に言えば、これだけおかしければ、この都市が氷漬けになっている秘密もこの城に残っているかもしれない。

 そう考えることだって出来るだろう。


 それに、冒険を求める俺にとっては、この城に突入しないだけの理由が存在しないのだ。

 危険、のはこの世界の全てだ。

 魔力が存在する以上、急に局所的な魔力の歪みによって消滅させられたりする可能性だってある。

 あるいは、かつての世界樹の上のドラゴンを引いてしまったように、勝ちようのない絶対強者を叩き起こしてしまう可能性もある。


 それでも、俺は冒険がしたいのである。


「ということで、ロボだけ残して行ってくる」


 ロボを残して、城の正門を乗り越えて城の敷地に入る。

 なお門は押したり引いたりした結果、そもそもあかないことが判明している。


 そのまま城の敷地内の道を通り、城の建物の方の扉に手をかける。

 瞬間。


『爺や、爺や!』

『おお、姫様……』


 なにかの映像らしきものが脳裏にちらついて、思わず扉から手を離してしまう。

 あれは、お姫様と、爺やと呼ばれていたのは召使い長か執事だろうか。

 爺やと呼ばれた男性がベッドに横になり、その隣で泣きそうな顔で手を握る女性の姿が見えた。


 映像の続きが見えるかと考えて扉に手をかけてみるが、今度は何もなく。

 そのまま引くと、普通に扉が開いた。


 :普通に開くじゃん

 :というか途中でなんで離したの?

 :静電気が!! とか?

 :普通にお白だな。けど薄暗くね


 城の内部は、美しいままの状態を保ってはいるものの、よく城などで見られるようなあかりなどがないためか薄暗く見える。

 そもそも日を背中側に浴びる構造になっているこの城が普通ではない、というのもあるのだが。


 その城の中に踏み込み、入ってすぐの階段下まで歩いたところで横合いから声をかけられ、思わず飛び退ってしまった。

 直前まで気配を感じていなかったのだ。


「お客様ですね。女王様がお待ちです。さあ、こちらへ」

「あ、いや、俺は──」


 応えようとした俺はそれ以上言葉を続けられなかった。

 俺に話しかけ案内しようとした女中さんが、振り返り階段に足をかける途中ですうっとそのまま空気に溶けるように消えたのである。


「……お化け、的な?」 


 :ガチでお化けやん!

 :普通に消えたじゃん!

 :どうすんの? あれ行ってみるの?

 :おばけじゃないとしたら残響かもね


 コメント欄も大混乱している様子である。

 俺も流石にいきなりお化けに遭遇するとは思わなかった。

 ただダンジョンのモンスターとしてゴースト系の奴らが存在しているので、いてもビビらないと言えばとくにビビることはない。

 まあ今のはモンスターには見えなかったけど。

 

 それよりも問題は、「女王様がお待ちです」という言葉。


 あれが真実なのかどうなのか。

 それが真実ならば行ってみるべきだし、おばけの定型文のようなものなら、この城には女王がかつていたことになる。


 いずれにしろ、そのつもりで調査をしてみる必要がある。。


「取り敢えず一階部分から見て回ってみるな。下から順に行こう」


コメント欄にそう宣言して、一階部分から見て回る。


:それがいい

:見落とし無いようにな。

:城とか構造複雑そうだから1.5階とか2.5階とか有りそう

:そうじゃなくても、あっちとこっちで二階の高さが違うぐらいのことは起きそう。


「ああ、それはありそう。特に王族とかその家族の当たりは隠し部屋とか秘密の通路とか持ってそうだ」 


 たまには視聴者達の意見も役に立つらしい(傲慢)。

 実際彼らの集合知というのは凄いもので、俺が許可しているので砂漠だったり森だったりに行ったときも、知識がコメント欄を飛び交っていてとても勉強になった。


 と言っても一階部分は王族の場所というよりは、城に詰めて働く人達のための場所だったようで、最初に入ったのは調理場だった。


 周囲を軽く見て回りながら、この世界の文明水準について話す。


「やっぱ基本は中世なんだけど、時々魔道具って言えばいいのか? なんかそういう系統の道具あるな」


 :技術がそっちに育ったんだろうな

 :魔力を電気代わりとかはやってないんかな

 :実際魔力を電気より扱いやすいエネルギーと考えると色々出来そうだけどな

 :魔術刻印師のスキルを持ってるけど、使い道わからん


「魔術刻印師は多分正しい魔法陣とか文様、文字の知識があったらなんか出来そうな響きしてる。というかそれ大分レアなスキルじゃないか?」


 :俺は聞いたことない

 :俺も

 :俺もないし検索にもひっかからない

 :おめでとう、君が一人目だ

 :お、おう? そんな貴重なのこれ……?


 実際俺が【加工】などのスキルで無理やりやっていることを自然にできるスキルなのだろう。


「今度こっちの世界の魔法陣とか俺の魔法陣とかいくつか見せるわ」


 :そういうの大好き

 :当事者じゃないけど大好きよ 

 :なんか俺のためにありがとう。これでやっと極貧冒険者生活からも抜け出せるか……!

 :考察捗るう!


 そんな会話をしながら、食堂を見終えて隣の小規模な食料庫へ。

 とはいえ規模はそう大きくない。

 おそらく一度どこか別の場所にまとめてある食材を、恭使う分だけ持って来ているのだろう。


 時折壊れているが保管用の魔道具らしき者が見つかり、それについて視聴者と話したりながら探索を続ける。

 

 その途中で、日誌、のようなものを見つけた。

 手で触れようとして、こういうときは手袋をした方が良いかとマジックインベントリから手袋を取り出して装着し、改めてその日誌、の断片らしきものを拾い上げる。

 ほとんどがにじみ薄れ読むことが出来る場所はほんのわずかだ。


「『……今日は』なんだこれ、ここだけ文字化けだ。〇〇にしとくか『〇〇が眠りから覚めなかった。これでもう10人目だ。……目覚めないかも……女王様が……氷……』。これ以上読めんな」


 いやというか待てよ。


「そもそもなぜ俺はこの言語を読める。これは読めないで諦めたはずのやつだぞ」


 その瞬間俺が持っていた日誌の断片が、空気に溶けるようにして消えていく。

 慌てて掴み直そうとするが、そこには何もなかったかのようにすぅーと消えていってしまった。


 :はーん

 :さてはお化け屋敷ですな

 :異世界まで行ってオカルトしないでも良いのに

 :読めない言語が読めたの何だろよんでほしかったのかな

 :誰がだよ


 内容を整理する。

 この城、あるいは街では謎に目覚めない人が増えていた。

 『目覚めないかも』というのは自分が目覚めないかもしれないという心配だろうか。

 それに『女王様』と『氷』。

 この街の様子をよく現している。


 が。


「駄目だ、結局わからん」


 結局何が言いたいのかが理解が出来ない。

 なにかがこの街にあったのであろうことはわかるのだが。


「とりあえず探索続けるわ。またなんか資料がありそうな部屋があったら丁寧に探すってことで」


 :だな

 :女王様かあ。綺麗なんやろか

 :そもそも生きてないだろ

 :美人やったらちゃんと撮ってね


 好き勝手言うコメント欄を無視しながら、俺は探索を続行した。



~~~~~~~~~~~~


この続きをファンボックスと近況ノートのサポーター限定で先行公開してます。

第49話で、今の処は一旦きりが良いところまで行っています。


ちょっとぐらいお金上げるか、と思っていただけたら、是非是非、そちらをお願いします。


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