第31話 衝撃の事実
ほとんど情報を引き出せなかったし、相手の方も粘らなかった。眷属の時間制限か何か知らないが、本当に一度見に来ただけだったのだろう。真面目に話を聞きたいなら、俺の方から出向いて時間を作ったほうが良いかも知れない。
さておき。
「びっくりしたな。急に訪問してくるとは」
“いっぱい説明して”
“今のがさっきのドラゴンってこと? 女体化か”
“近づいてくるの気づいてたの?”
“会話の中身がよくわからなかったんだが?”
“一体何だったの今の人。ジョン以外にも人いた?”
配信を切る暇が無かったから今の女性、ドラゴン……めんどくさいからドラゴンと呼ぶことにするが、ドラゴンとの会話も全て垂れ流しになってしまった。まあ無理やり配信を切断しようとすれば出来たが、いずれ知られることだし少しずつ情報を出していこうと考えてあえてそのままにしたのだが。
だが、それを見ていた視聴者達としては混乱するものだったらしい。人数を見るにまだ他所から人は来てないようだが。
「まあ、落ち着け。とりあえず今来てたのは人間じゃなくて、さっき俺が世界樹で見たって言ったドラゴンだ。ってもそのまま来たんじゃなくて、あのドラゴンの眷属の身体を借りてきたって言ってたから精神だけ乗り移ったとかそういう感じだと思う」
“まじ???”
“ジョンさん、最初から今の流れを出来る範囲で良いので順番に説明してほしい。ジョンさんがわかってることも内心で考えたことも俺たちにはわからないから”
“いつドラゴンだって気づいたの?”
“意味深な発言が多くてわからんかった”
意味深な発言か。確かに、俺は自分でドラゴンに対して色々推測していたし、こちら側の世界での経験をふまえて自分が必要だと思うことだけを、ドラゴンを刺激しないように話していた。
例えばこれが、ドラゴンに配慮しなかったり、あるいは俺が全くの無知であれば、『お前は誰だ』『どういう存在なのだ』『この世界はなんなんだ』とか尋ねていたのかもしれない。それをしなかったのは、こちらの事情をドラゴンは知らないだろうという推測と、無闇に相手を刺激したくないという俺の配慮だ。
そしてそれは、ただ見ていただけの視聴者たちにはわからないものだろう。だからこそ説明を求めている。
「順番にか。まずば、そうね。結構前から、なんか近づいてきてんなって気はしてた。ただこのときはまだモンスターかなぐらいに思ってたけど」
気配が弱く薄かったから察知が難しかったというのもある。近づいてみればそれは、眷属の身体を借りていたために気配が弱かったのだと気づいた。
「そんでイラストるぐら描いていから、これあのドラゴンと似た気配してるな、ってわかった。でも気配の強さが明らかに弱かったから、分身か身体の一部か、まあ本体が来てはいないなってのもわかったからとりあえず近づいてくるの待ってた感じかな」
“気づいてたなら言ってくれたら良いのに”
“配信見返してるけどあまりにも自然にスルーしてたな”
“気づいた上で無視してたってこと?”
“ビビらんのかあれ”
「気づいた上で無視、っていうか近づいてくるのを待ってた感じだな。向こうから出張ってくれるなら話したいことも一応あったにはあったし」
まあ急だったので流石にそれを尋ねることはしなかったけど。
「それで覗き込まれて、まずは挨拶したっけな」
“どうも、さっきぶりです、って言ってたな”
“急に挨拶出るから何かと思った”
“なぜそこで挨拶がするっと出るのか”
“心臓ダイヤモンドで出来てたりする?”
酷い言われようである。これでも色々と考えていたのだ。
「俺びっくりしたときに大声が出たり行動にあんまり出ないタイプなんよ。いやまあ口調とか行動が堅くはなるけど、焦って騒いだりとかはしないから。挨拶したのは、とりあえず礼儀よく? あとは普通の初対面の会話の流れに出来たらなとも思ってた」
というか、あそこで変に挨拶が出たのが俺の緊張を示していたのだと思って欲しい。普通に考えたら相手が話し出すまで待つか、何の用だ、と問いただしていたはずだ。
「それでその後は、会話の中で、相手が本体じゃないって気づいてますよ、って暗に示したかな。まあ話の流れで向こうが『わしが来たのに逃げないとはやるな』みたいなこと言ってきたから、まずあんた本体じゃないですやん、ってのっかった感じ」
“はえー”
“相手の話に答えつつ、気づいていることを示したのか”
“そんな高度な駆け引きをしてたの?”
“なんでそれを伝えたかったわけ?”
「まず下に見られないように、かな。気づいてるって示して、俺はあなたと最低限話せるレベルの相手だぞ、っていうのを伝えたかった。イメージとしては威嚇みたいなもんかな。高度な駆け引きって言うけど、話してる中で『俺は〇〇と△△と✕✕に気づいています』とか意思表示するのはなんか変な感じするやん? だから会話の中に挟んでいくってだけよ」
まあ駆け引きと言えば駆け引きなんだけど。
「その後椅子勧めたのは、まあ座って貰ったら落ち着いて会話になるかなと思って。後ろに立たれてるといつ攻撃されるか落ち着かんからさ」
で、それに対して相手は微妙そうな表情をしてたわけだが。
「その後の言動だけど……あのドラゴン、多分人との交流があったんじゃないかな」
“ドラゴンと人が?”
“人ってどの人だよ。ジョン以外にいないだろ”
“え、は? 人がいたの?”
“なんでわかったの?”
「俺があのドラゴンが本体じゃないことに気づいてたことに対して『つまらん』って言ったり、反応が鈍いやつとかいう感じで、俺を確実に何かと比較してたよね。というか、俺に期待していた動きを俺がしなかったって感じか。多分人が自分見て驚くの好きだったんじゃないかな。そんで、俺が確認のためにあの世界樹にいたドラゴンなのか、って聞いたらまた問い返してきたし」
“長々と回答してたやつか?”
“これなんでこんな長く答えたの?”
“人が驚くの見るのが好きて”
“ドラゴンって言われたのが不満だったんかな”
結局そこは答えてくれなかったから俺もどうなのかわからない。地上で遊んだゲームとかだと、ドラゴン、龍という単語に特別な意味があるゲームとかもあったし、この世界でもそういう理屈があるのだろうか。
「あれは、相手が『自分をあのドラゴンだと特定したのはなぜか』って聞いているのか、それとも『なぜ自分をドラゴンという存在だと思ったのか』って聞いているのかわからなかったの。『ドラゴンか。なぜそう思う?』って言われても両方のパターンがあるからさ。だからもう両方答えようと思ったわけ。まあそれが相手にはめんどくさかったみたいだけど」
“普通に聞いてあの答えが帰ってきたらそれはそう”
“確かにあの返しするやつはめんどくさいってなる”
“これはジョンが悪い”
“仕方ない”
「いや、言わせてほしいけどこっちは対応に悩んでたのよ。ほんとに。どう刺激しないように話そうかとかな。間違えた答え方して、『はぐらかすのか』みたいな感じで機嫌損ねてもことだろ。だからもう両方答えてしまえって思ったわけ」
“違う、そうじゃない”
“言いたいことはわかるけどわからない”
“なぜベストを尽くしてしまったのか”
「俺も今思い返してちょっと柔軟性に欠いたかなとは思ってる。んでもまあ相手が俺の対応を見てめんどくさいやつだなって言ってきたから、いつも通りで良いですか? 良いよね? ね? って感じで聞いて、OKが出たから普通に話し方に戻したわけ」
結構気を使っていたし混乱していたのがよく分かる話し方をしていたとは思う。人間相手ならともかく、こういう相手だと流石に気を張る。
「で、後はなんで追いかけてきたのか聞いて、あのドラゴンが俺に興味を持ったからって答えてたな。んで後はドラゴンの今の状態が眷属に身体を借りている状態ってことを聞いてお開きになった感じだな。まあまた遊びに来るらしいけど」
“そうそこ疑問”
“最後端折ったな。人の子とか風の子って言ってたのは何?”
“人の子が途絶えて長い、って言ってるよな”
“どういうことなの?”
“ドラゴンのインパクトで内容あんま入ってこなかったけど、見返したらそこが一番気になるぞ”
まあ真面目に聞いてればそれが気になるよね。さて、どうしたものか。ここで説明してしまってもいいが、いきなり全部説明するのはちと面倒だし、押し付けても受け入れられない可能性もある。
それよりは、これからじっくり俺の配信を見つつこの世界のことを知って、その上で事実を受け入れていってくれた方がありがたい。となると、今日のところは曖昧に匂わせる程度にしておいた方が良いか。
「この、ダンジョンの先の世界にはさ」
“おん?”
“ほうほう”
「大地があって、水があって、自然があって、命があって。そして空には太陽があって、月があって、星があって」
まあ星座とか全く違うだろうし月は2つあるんだけど。それでも、地球にあるほとんどのものがこの世界にはある。これがどこか宇宙の彼方にある球形の星なのか、あるいは完全に異なる法則の敷かれた異世界なのかは知らないが。
「これだけあれば、地球と何も変わらんよなって話よ」
“は?”
“待って、まって?”
“え、どういうこと?”
“わからない”
“え、人いんの!?”
視聴者達が混乱しているが、まずは自分たちで考えてみて欲しい。
「じゃあ、そういうことで今回の配信はここまで。次はまた近日中にやる予定なので、通知オンにして待っててな」
混乱の様相を示すコメントを見つつ、俺は配信を切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます