第13話 ダンジョンにかける熱

「調味料まであるんか! ジョンさん凄いな!」

「下には無いから。今回丁度いいから買い込んでおいたの」


“なんか料理配信始まった?”

“料理道具一式持ってるの準備良すぎだろ”

“いやでもすげえ、戦闘してないのになんかこれこそダンジョンって感じするわ”


 俺の配信の視聴者も一旦増えたところからは減ってないので、見に来た人全員が見てくれているらしい。


「えーと、リスナーの皆さん! 今から深層より深いところのモンスターで料理をします! 鹿っぽいモンスターです。でも上層のワイルドディアと比べて皮とか角がとんでもなく強靭です!」

「ホンマに硬かったで! うちらのナイフじゃ切れんかったからな! これ皮と角持って帰れんやろか」


 焚き火の隣では、解体を終えたモンスターを前にかなた嬢と茜嬢が、ドローンを前に何やら明るく話している。何でも、今回はトラブルとはいえ深層よりも先にこれたので、配信者たるものチャンスを逃してはいけない、ということらしい。


 すげえな、という思いで見ていたら慌てたように俺にこれ以上迷惑をかけることはしないと説明された。そのあたりは2人との会話からわかっていたので実はあんまり心配していないし、ぶっちゃけ移動以外のときはモンスター避けの魔法陣のエリアから出ないでいてくれれば何をしてもらっても構わないので気にしないように伝えておいた。


 料理をしている間俺は休んでいてほしいと言われて、近くの岩の上に腰掛けている状態だ。



“あれが配信者だぞ”

“配信者の鑑”

“ジョンさん、俺達のこと話し相手ぐらいに思ってるから……”


「こっちは配信初心者やぞ労れよ」


“こんな初心者がいるか”

“いや探索はとんでもないのに配信は初心者だから……”

“初配信視聴者一人は流石に泣く”

“配信タイトルが『探索 解説』は流石に”


「まああれだから。今は2人を地上に送ってく過程を一応公開してるだけだから。普段は真面目にやるから」


“真面目……真面目?”

“いやでも、前半は一応ちゃんと説明はしてたが……”

“内容がぶっ飛んでて理解に時間がかかる”


「なんでや! 絶対みんな気になってるだろうから解説したんやぞ」


“唐突すぎるんだよなあ”

“まずあれよ。みんなあの雨宮かなたの行方不明事件知ってるっていう体で行くのがだめよ”

“最初に軽く説明したほうがいい”

“ただでさえ『どうやってわかったの!?』『なんで知ってるの!?』みたいな内容だったから”


 コメント欄の言うことももっともなのはわかる。そもそも深層までの世界しか知らない彼らには、下が100層もある、というのも眉唾ものなので。


 とはいえ。


「そうねえ。俺の常識と地上の常識は違うもんな。まあそんなの知らんけど」


 そこまで気にしてたらキリが無いのでね。俺が重要と思わない限り細かい説明をするつもりはない。


“開き直ったぞこいつ!”

“らしいなって思っちゃったのが悔しい”

“いやでもこの人の知ってる知識の大半この人しか知らないだろうしな……”

“人増えたら面倒くさい人増えそう”


「やっぱ視聴者増えたらめんどくさい人増えるかな」


“信じられない、って人は多いだろうなあ”

“自分贔屓のギルドに入ってほしいって人も来そう”

“そういうのジョンが一番嫌いやろ”

“絶対あかん”


「まああんまりうるさくなったら配信やめるかもしれんけど、基本は無視するから気にせんでいいよ」


 どうも俺の配信の視聴者たちは俺が気を悪くして配信をやめるのを警戒しているようだ。


“気分屋は気分で配信しなくなるので見てる方はドキドキする”

“前にも結構有名だったのに急に配信やめた人いたからみんな結構警戒してる”

“ギルド勢はともかく、ソロ勢はフットワーク軽いからな”

“撤退の判断もはやい”


 そんなこともあったのか、とコメント欄を眺めていると、視界の端に料理をしている2人の後ろに忍び寄っているロボが見えた。


「ロボ! まだ待て! 出来るまで!」

『グゥゥルルルル、クゥーン』

「料理中に突っ込んだらひっくり返るだろ!」


 悲しげな声を上げているロボに、驚いていた2人も可哀相なペットを見る目になる。


「ジョンさん! この子に先に食べさせてあげてもいいですか!?」

「良いよー!」

「ありがとうございます!」


 俺の許可を得た茜嬢が、串で焼いていた肉をロボ用の皿の上に串から外して入れていく。それを待つロボは、餌の前で待てをされている犬そのものだ。


“腹ペコわんこ”

“あのサイズの腹ペコなのに怖くない”

“むしろ可愛い”

“今なんで止めたの?”


「あいつたまに料理中の鍋に突っ込んでひっくり返すから。料理した肉のほうが美味いの知ってるくせに料理するのを待ちきれんのよ」


 本当に何度ひっくり返されたことか。我慢ができないんだよな基本的に。後は本来のあいつの生態、あいつのお袋とか見てるともっと大食いでもおかしくないのだが、料理したものしか食わないので食べる量が根本的に足りないのだと思う。


“ワロタww”

“待ちきれないのか”

“ちゃんと躾けろよな!”


「まあ適当で良いねん。俺も適当だし」


 実際、ロボと俺の立場の位置付けは曖昧である。俺はあくまでロボを預かっただけであり、ペットの飼い主のように所有者ではない。そしてロボの本来の在処は野生なので、人間のルールを叩き込むというのもそれはそれで違う気がするのだ。


「ああ、そうそう。それで忘れてたわボッチ君。質問思いついた?」


“もうボッチ君で名前確定してるやん”

“もう、それで良いです……一応思いついたけど、聞いてもいいの?”

“何? 質問ってなんかあったの?”


「視聴者が一人のときに、答えれる質問なら答えてやるって言ったのよ。今暇だし聞いておこうかと思って」


“は? そんなの俺だって聞きたいこといっぱいあるんだが????”

“ぐぅ裏山”

“やっぱ初めての視聴者には甘くなるよな”

“あああああ、最初に見つけていれば……!”


「そりゃまあね。他の人より長い時間やりとりしたし。それに全員から質問受付始めたらきりがないから。今日は一番乗りだけな」


 まあ別にここにいる全員ぐらいなら質問に答えても良いのだが。料理の完成具合も考えてそれは明日以降にすべきだろう。


「ボッチ君良いよ。なんでも」


“じゃあ質問します。ジョンさんはどれぐらい強いんですか?”

“割と無難なとこ?”

“いやまあ当然気になるが”

“もっと深層の秘密とか攻略方法とかかと思った”

“どこまで踏み込んでいいか悩んだんですよ!”


「ああ、他の探索者にとってネタバレになりそうな内容は答えないって俺が言ったからね。だからまあ、深層の攻略方法とかボスの弱点とかはなし。それで、俺の強さ、なあ」


“ソロで深層より先に進んでるなら相当では?”

“ハイドが強くて探索特化かもしれんだろ”

“強さにも色々あるしな”


「先に言っておくと、俺の手の内を全部明かすつもりは一切ない。それはOK?」


“OK”

“OK”

“OK”

“OK”

“普通手の内すべてはギルドメンバーですら明かさないから”


「まあその上で、大まかな戦い方とどの程度のモンスターを倒せる、っていう評価方法でいくなら、俺は型としては魔法剣士っぽいかな。魔法剣士わかる?」


“魔法使いながら戦う剣士”

“ほとんどおらんぞ”

“おらんな”

“魔法使いはそれだけで十分に活躍できるから”

下級コモンの魔法スキルを補助にする人はおるけど、そっちは逆に魔法よりも武器の方が強いから”

“魔法剣士ってマジでいない……?”

“トップギルドにちょっといるぐらい”


「ほーん、そんな感じか。まあ、そうね。別に両方使わんでもやっていけるか。まあ俺はその奇特な魔法剣士で、倒せる強さ……どの程度が想像出来る? 深層のエリアボスとかわかるか?」


 深層のエリアボス討伐は、最前線はともかく第1エリアあたりは配信がされているらしく、見たことはある人が殆どらしい。ちなみに強さの体感は想像出来ないそうだ。つまりここにいるのは良くて下層に挑める程度の人たちばかり、と。


「深層の第1エリアってボスなんだったっけ」


“死霊騎士”

“正式名称は死霊騎士だけど見た目はデュラハン”

“首のない騎士”

“ゾンビよりはゴーストの方のデュラハン”

“デュラハンは本来は馬に乗ってるからあれはただの首のない剣士”



「ああ、なんか思い出したわ。あれな、あー、あれ」


 思い出した。確か純物理攻撃だと依代である甲冑と肉体を散らせてもとどめが刺せず、魔力の塊であるコアが健在である限り何度でも復活してしまうという、深層1発目にしてはたちの悪いモンスターだ。


 コア、核の破壊にはスキル由来の武技であったりとか魔法などが必要で、後はあの依代である甲冑と肉体がコアと比較して非常に頑丈である、という点か。


「あれ、あれかあ……」


“ん?”

“何か悩んでる?”

“思い出せんか?”

“10年も前じゃあなあ”


「いや、思い出せるんだけど。あれねえ。あいつ別に強く無くね?」


“は?”

“は?”

“なんて?”

“ちょっと何言ってるか”


 混乱を示すコメント欄に、自分の言葉が足りなかったのを理解して慌てて説明する。


「すまんすまん。ちゃんと説明する。まず、デュラハンは完全物理攻撃じゃあとどめをさせない。そしてコア、核を叩かないと倒せず、そのうち依代の鎧の傷も回復する。そんでもって鎧があのレベル帯にしてはめちゃくちゃ硬い。これぐらいよな?」


 丁寧な説明に同意が得られただろう、とコメント欄を見ると、俺の予想だにしない反応が帰ってきた。


“は、核?”

“コア? 急所ってことか?”

“デュラハンにそんなのあるのか?”

“物理じゃあ倒せないから魔法火力で叩き潰すんじゃないの?”

“硬すぎて物理じゃ無理だと思われてた”

“え、待ってこれって凄い発見なのでは?”

“深層のボスの攻略方法わかっちゃったな”

“ジョンさん、そんな常識は出回ってないです”


「は、ええ? まじ? じゃあ何? 偶然魔法がコアを破壊するまで延々と魔法ぶつけ続けるか、確実に依代を貫通してコアを飲み込む威力の魔法を打つってこと?」


“そう”

“前衛10人、魔法職6人とかで前衛支えてる間に叩く”

“火力馬鹿が重宝される”

“倒せるまで魔法を叩き込むかな。お陰で素材が残らないけど”

“ジョンさんはどう倒すって?”


「ええ、まじか。俺は普通にコア真っ二つに斬ってワンパンするんだが……」


“ええ……(ドン引き)”

“ちょっと何言ってるかよくわからない”

“やっぱり俺たちと常識が違う生物なんだって”


「いや、まじ? 普通に考えて効率的に倒せる急所探すだろ。なんでウルフの首とか頭狙うのにデュラハンにはしないわけ?」


“あー? 言われてみれば?”

“的確に相手の急所狙えるのなんて上位層だけだぞ”

“俺今日ウルフ相手にひたすら剣振り回して毛皮ボロボロにしてしまったわ”

“近接戦は慣れないと難しいから”

“現代で近接戦とかしないもんな”


「あそう。もうちょい頑張れよ探索者諸君」


 思わず、そう思わず、素でそんな感想が出てしまった。俺自身独学ではある。ひたすらに剣を振って、敵を斬るために最適な振り方を。力の入れ方を。力の抜き方を。そんなのを必死に考えた。


 そして振って、失敗して、振って、失敗して、振って、失敗して。トライアルアンドエラーは普通は出来ないのかもしれないが、それでも多少のやりようはあるのではないだろうか。地上にも真剣を使った居合斬りぐらいはあるはずだ。


(戦闘技術の集積、されてないんかな)


「前提が崩れたけど。基本的にデュラハンの鎧が硬いから、深層レベルの探索者だと物理で鎧をどうにかするのはかなり厳しいし、破壊できても時間がかかる、ってのを言いたかったわけ。そんで俺はそれをワンパンで破壊できるよ、って感じで俺の強さを説明したかったんだが」


“常識じゃない常識出してくるのやめてもろて”

“まあ確かに物理でデュラハンの体破壊できて無かったな”

“鎧がへこんだぐらい”

“レベル差がありすぎると説明が難しいんか?”

“そもそも刃が弾かれる”


「まあ今の俺はデュラハンに困る要素が一切ないと思ってもらえたら良いわ」


 それすらも俺の強さを示す適切な表現ではないのかもしれないが、彼らに説明するそれ以上適切な言葉を俺は持たない。


「というかデュラハン倒すもっと簡単な方法あるんだが。まあ誰も実践してないんだろうな」


“何?”

“必殺技的なやつ?”

“コア抜けと言われてもそのコアがなんなのかどうやったら抜けるかわからないんですがそれは”

“意味深なこと言うならサクッと話してもろて”


「まあ概要ぐらいは話すよ。というか普通にそれぐらいやってほしいから」


 他の探索者がいないと困る、というわけではない。しかし、ダンジョンの下に広がるあの世界は、俺一人で探索するには少々どころではなく広すぎる。それにダンジョン内にも、層まるごと安全地帯な層もある。


 そういうところを大型拠点化して常に探索者がいるようになれば、俺がいちいち地上に行く必要もなくなるのだ。


 というかダンジョンの攻略ってそういうのこそ必要だと思う。モンスターをただ倒せば良いわけではないのだ。


 人はただ大自然を踏破したわけではない。切り開き、家を築き、田畑を耕し。大自然のものだった土地を、人の生活圏へと変えていく。

 

 そうして自然を侵略していった。


 正直に言えば、それは寂しい。かつてダンジョンが開放される前、日本でただ大自然の中で生きれるような場所が殆どないのだと、冒険出来る自然はないのだと知って寂しく思った。

 

 それでも。人がダンジョンに挑むなら、そこを切り開き征服し。片隅にでも、人の土地を作らなければならないと思う。かつての大自然のようにそのすべてを人が支配する必要はない。けれど、人が全く支配しないのもまた、俺は嫌なのだ。


 だからこそ、俺以外の冒険者にもより先へと進んで欲しい。


「魔力ってあるだろ? 多分探索者なら誰でも持ってると思うんだが。これの扱い方の1つの技術、だな」


“魔力か”

“魔法、魔術系のスキルないとほとんど使わんよな”

“スキルの大半は魔力を消費してるらしいぞ”

“まじ? 使ってるイメージ無かったわ”

“技術って魔法じゃなくてか?”


「とりあえず一気に行くからちゃんと聞いておけよ? 魔力ってのは、言ってみれば不定形のエネルギーだ。電力、ともちょっと違うな。もっと純粋な、熱や電気、振動、光なんかに変換されていない、純粋な、ただあるだけの。ある種概念的なエネルギーが魔力だ。そんでそれを『スキル』っていう変換器を使って様々な形にして出力しているのが魔法であり、その他のスキルだ」


“なる、ほど?”

“電力を振動とか熱とか光に変換するイメージかな?”

“それわかりやすいな”

“あーなんとなくわかった”


「そんで、さっきも言った通りデュラハンは依代として頑丈な鎧を持ち、コアは内部に隠れてる。その上コア自体は非物理的な、それこそ魔力の塊みたいなもんだから、例え鎧を貫いたところでただの物理攻撃では破壊出来ない。魔法でデュラハンが倒せるのは、元々は魔力から発生している魔法がコアに直撃することでダメージを与えているからだ。だから例えば火炎瓶や科学で作った火炎放射器じゃあデュラハンを倒せなくても、火魔法で作ったファイア・ボールならデュラハンのコアを破壊できる、ってわけだな。まあこの辺りは色々とあるから一概には言えないんだが」


“火炎放射器じゃ駄目なんか”

“ダンジョン内だと何故か使えない銃火器、使えてもお荷物だったか”

“つまり『魔力っていう要素』が大事、ってことか?”

“うーん、よくわからん”


「これは逆に考えれば、デュラハンのコアを破壊するのは別に魔法じゃなくても魔力であれば問題無いわけだ。魔法のうち現象は物理的に鎧に干渉して、魔力の要素がコアにダメージを与えてるわけだからな。というか基本属性魔法なんかは魔力を変換して物理現象にしてしまってるから、コアに対する攻撃としては効率が悪い。デュラハンはコア自体は脆いからそれでも鎧が破壊できてれば倒せるんだろうけどな。これをもっと端的に言うと、『スキルに頼らずに魔力を活用し、それを一切物理的な現象、攻撃に変換することないまま攻撃としてデュラハンにぶつけられれば、特に苦労せずにデュラハンを倒せる』って話になる」


“な、るほど?”

“1回じゃ理解できんかったから後で聞き直すわ”

“つまり魔力をスキル以外の方法で活用しろ、ってこと?”

“理論派なのはよくわかりました”

“魔力をそのまま動かす、っていうのがそもそもスキルがないと無理では?”

“スキルがないと魔力を動かそうとはならん、っていうかそもそも魔力を認識出来ないわ”

“魔法系スキル持ちなら違うんかね”


「まあ簡単な話じゃないのはわかってるよ。俺も最初は出来なかったし。初めて出来たときはあれだな。敵のモンスターの攻撃で周りから魔力を吸い上げててさ。そのときに魔力の流れみたいなのに触れたんだよな。そんでその感覚を頼りにあれやこれややったら、『魔力操作』っていう後天的スキルが発現した」


 ちなみにこの『魔力操作』スキルだが、後天的スキルなのに、何故か先天的スキル同様にスキルクラスがある。俺はこれを『魔力操作』の才能ではないかと思っている。


 本来は誰もが持っているのに使うことが出来ない『魔力操作』のスキルは、その人が魔力の流れを意識して自発的に魔力を認識し動かしたときに初めて覚醒し、スキルとして表示されるようになるんではないか、という仮説だ。


 つまり、才能はあるもののそれが片鱗どころか1ミリも目覚めていないために、スキルそのものが隠れている、というわけだ。


 そんな仮説を説明しても理解されないだろうから、あえてごまかす形で説明する。


「多分な、各種耐性スキルと一緒で『魔力操作』も後天的に得られる技術から派生するスキルなんだよ。先に技術があって、それを証明するようにスキルが発現する特殊な例だけど。そんでこれがあると、ダンジョン探索がかなり便利になる」


“後天的に獲得できるスキルになるのか”

“それは、ありかな”

“狙ってみるのもありか?”

“才能関係ないからな後天的スキルは”

“個人差はあるけど誰でも取れるしな”

“手がかり少ないけど使えるなら狙ってみるかあ”

“具体的にはどう使える? デュラハン退治以外で”


「まあ一番はあれだな。自分で魔力を体に流すことで強化スキルと似た効果が得られる。パワーとか耐久性があがる感じだ。足なら走る速度とかも。その代わりよっぽど熟達しないと魔力は外に流れ出てくから、使ってる限りは魔力を消費する。他にも、それを応用して武器に魔力を流して切れ味とか耐久性を強化したりも出来るな。後はこんな感じで──」


 そう言いながら、ドローンの前に手を手刀の形にして出し、その先に刃状に魔力を収束させる。バチバチと音を立てながら放出される魔力が、おおよそ刃状に収束したものだ。


「こんな感じで、体外に出した魔力を収束させて攻撃手段として使える。ちなみにこれはめっちゃむずいし魔力も深層基準とかだとめちゃくちゃ使うけど、出来たらこんな感じ」


 座っていた石から立ち、その先端に魔力刃を当てる。ストン、と抵抗らしい抵抗なく石が真っ二つに切断された。


「言っておくけど、魔力を任意の形に出力するのはめっちゃ難しい。これみたいに体の延長として刃とか作るでも相当厳しい。例えばこれなら刃が鋭くならなかったり歪んだり、敵に当てたときに崩れたりする。こればっかりは、それなりに出来てくると、とかじゃなくてめっちゃ出来ないと無理。ちなみに俺はこういうことも出来る」


 今度は手刀の延長線上ではなく、手から出力した魔力を操作し、ガッチリと個体状の、一本のナイフを作り出す。


「純魔力製のナイフ。ちなみにこいつは物理に干渉するように出力してるけど、さっき言ったみたいに刃部分を物理に干渉しない魔力として出力したら、物理的な防御を全部無視して敵の魔力的なコアとかを攻撃できる。まあ下の方には純粋な魔力で防壁はるようなやつも普通にいるけど」


“もう凄すぎて何を言っているのか”

“ポカーンだわ”

“武器いらんやん”

“やっぱこの人やべえわ”


 すっ、と腕を振ってナイフを投擲すると、先程両断した岩に根本までサクッと突き刺さった。


「まあここまでしろとは言わんよ。正直自分でも異常だと思う。でも最初の魔力を流して身体能力を強化するのと、それを武器に流して武器を強化するのぐらいは、死にものぐるいで習得して欲しい。深層レベルの探索者がこれができればデュラハンの腕を叩き切るぐらい出来るはずなんだよ」


 俺がそれを出来る前提で話していた、というのもあるだろう。だが、深層に挑むような探索者がデュラハンの鎧を物理攻撃で破壊できないというのはそれはそれで問題ではないだろうか。


 戦いというのは、互いに互いに傷をつけられるからこそ始まる。デュラハンに対して深層の探索者たちは、まず戦いの土俵にすら上がれていないのだ。


“うーん、でも魔力とかは自分では感じんな”

“魔法使えたら違うんだろうか”

“スキル使う時もわからんなあ”

“何かヒント無いの?”


「ヒントか……。とにかくイメージだ。魔力がどう動くか、どう出力されるか。体に宿しているはずの魔力はどうなってるか。スキルを使う時、何が提供されてスキルが効果を発揮しているか。魔法を唱える時消費する魔力はどういう挙動をしているか。そのエネルギーはどこから来たのか。魔力が認識出来るようになってからもそうだ。魔力はどう動くのか。魔力を体に流して体を強化するって何か。体に流すってどう流すのか。手足が魔力で満ちるのか。それとも魔力を手足に纏うのか。本来人が持たない、自分では操作できない魔力を、思考力と想像力で操るんだ。とにかく想像する。色んな形のイメージを持て。そしたらそれが形になって現れる」


 魔力で体を強化する際もそうだ。体を魔力の鎧でおおうと想像すれば防御力に傾くし、四肢という器に魔力という水が満ちると想像すればパワーに傾く。あるいは、魔力そのものがギアとして、歯車として体の機能に働くさまを想像できれば、速度の上昇に傾くかもしれない。


「最初に言っただろ? 魔力はエネルギーだ。そのエネルギーを、お前たちがどう使うのか。俺はさ、荒唐無稽な話かもしんないけど魔法系のスキルとかその他のスキルって全部チュートリアルなんじゃないかと思ってる。『こうやって魔力を使うんですよ』って教えてくれてるんだ。だから逆に言えば、魔力の扱いに精通すれば、魔法系スキルが無くても魔法が使えて、スキルと同じ効果を魔力だけで再現できるんじゃないかって。魔力というエネルギーを、スキルというシステムにあずけてそこから出力される結果を受け取るのか。あるいは、自分でそのエネルギーを操って、望むままの結果を引き出すのか。楽に逃げるかどうかは君ら次第だよ」


 コメント欄がシンと沈黙しているが、人が減っていないのは見える。だから、俺は自分の思いを語る。無理だ、難しい、と言葉にするだけの視聴者たちに。


 立って歩いてみろよ赤ちゃんども、と。


「ダンジョン探索に命をかけろとは言わんよ。現代ならダンジョンなんて関わらなくても生きていける。けど、自分から進んで関わるって言うなら、命のかからない範囲で全力でやってみんか? さっき言ってたよな? モンスターの急所を狙えるのは上位層ぐらいだって。けどさ、それ、やろうと思えば誰でも狙えるだろ? 成功するかどうかは別として、試みることは誰でも出来るはずだ。

 剣の振り方もさ、ただ振り回すだけじゃないだろ? どう振ればより速く、鋭く。より正確に振れるか。腕の、体のどこに力を入れて、どこを脱力するか。どの切り方をすれば次に繋がるか。振る時の体勢、重心、視線。そういうのを少しでも進歩させて行こうや。

 別にモンスター相手に試さんでも良いわ。藁人形でも、マネキンでも、幻影魔法でも良い。君ら、剣片手に一日中素振りしたことある? 無いだろ? やってみようぜ。素振りするのに命はかからん。魔力操作もそう。自分の持ってるスキルを使ってみて、そこで起こってるエネルギーの流れを想像し、魔力っていう本来は無いエネルギーを見つける。そしてそれを使えるように想像力を鍛える。筋トレして筋肉を鍛えるのよりも遥かにわかりにくいかもしれん。でも本質は変わらんよ。自分の持っているものをどう使えるようになるか。どう鍛えたら何がどう強くなるか。そういうのをさ、一辺真剣にやってみようや」


 じゃないと、終わらんぜ? 


「ダンジョンは、君らが深層だと思ってた浅瀬の下に100層以上重なってる。厳しい言い方をするなら、深層で命がけで探索してるつもりの君らは浅瀬でパチャパチャ遊んでる子供だ。そんでその先に地球と同じぐらい広い世界が存在していて、その世界にもまたダンジョンが存在している。はっきり言って、俺もどれだけ先が続いているかわからんよ。しかもダンジョンは1つだけじゃない。さっきスキルがチュートリアルだって言ったろ? ダンジョンだってそうだ。上層~深層までの4層は何故か最初から開放されてて、上層や中層を飛ばして下層、深層に挑む事もできる。でも深層の先は塞がってて、深層をきっちり攻略してからじゃないと下に進めない。その先が新宿ダンジョンと他のダンジョンで同じなのかどうかは俺にもわからんわ。もしかしたら深層を攻略したところがスタートラインなのかもしれん。俺が知ってるのは新宿だけで、もしかしたら熊本ダンジョンの下には200層広がってたり、札幌ダンジョンの下は10層しかないかもしれん。そんななんもかんも、わかってねーのよ今は」


 なんて。思いを語ったところで、話がずれたのを察して修正することにする。ついつい熱くなってしまった。もともとやる限りは全力でやってみようというタイプなので、こういうところは熱くなってしまうのだ。


「悪い、話がずれた。まあとにかく、なんだっけ……。魔力操作のヒントだったな。まずはとにかく魔力を感じること。電気みたいに触ったらパチっとするわけでもないし、水みたいに冷たくも火みたいに熱くもない。けど、たしかにスキルや魔法を使うときに魔力は動いてる。まずはそれをなんとか見つけ出せ。そんで見つけ出したら、今度はそれを動かす。イメージはほんとに人それぞれだと思うわ。燃料みたいに燃やすイメージの人もいれば、電気みたいに流れるイメージの人もいる。水みたいに満たすイメージだって出来る。そこらへんは、みんなでやって、みんなで効率のいい方法を探せよ。技術は一人で積み上げるもんじゃねえ。魔力の動かし方のイメージの仕方にしろ、剣の振り方にしろ。大勢で正解を探したほうが効率が良いだろ」


 俺の配信で話した声が漏れないように貼っていた遮音障壁の外から2人が声をかけてきている。どうやら料理が出来たらしい。


「まあ、やるかどうかは君らに任せるけど。俺好きに話してると人にやる気押し付けちゃうから、今後配信見るなら気をつけてな」


 沈黙したままのコメント欄を一瞥し、ウインドウを畳む。せっかく作ってくれた食事の間にコメント欄を見るのが無粋なのは俺でも理解出来るのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る