第309話 同時侵攻作戦①
来日するアメリカ大統領の闇を祓え。
そんなミッションがクウちゃんからもたらされた翌週、オレたちははるばる成田空港の滑走路の中に軽トラごと入り込んでいた。
もちろん、警視総監を通して許可は得ている。
え? こんな大それたことをしちゃっていいのか?
アメリカ大統領と言えば、警察官という立場上からして最重要警護対象なのだが。
守るんじゃなくて襲う方になろうとは、人生とはわからないものだ。
そんなことを考えているうちに、大統領専用機のエアフォースワンが着陸した。
タラップが降ろされ、ウリデン大統領が降りてくる。
クウちゃん曰く、こいつは闇の支配者である悪の魔族が姿を変えた存在。
地球世界を支配するために、争いと貧困、差別を増長させるために陰で世界に混乱をもたらしている。
金のために戦争を起こし、人々の嘆きや苦しみの感情を吸い上げる。
そんな、悪の存在なんだとか。
あ、大統領の前にハヌーが飛び出していった。
大統領が驚いて尻もちをついた時に、客室乗務員に成りすましたルンが近寄り、『祓い』をかける!
すると、なんとウリデン大統領の頭からは隠されていた2本の角が現れ、その顔もまるで爬虫類のような様相を見せる。
そんな混乱の隙をついて、空港警備としてその場にいたオレと緒方巡査長で元大統領である魔人の身柄を確保し、特別な手錠をかけて軽トラの荷台に放り込んだ。
あ、ルンはレベルがたくさん上がって軽トラから1㎞は離れることが出来るようになっているから一連の動きに問題はなかったよ。
この時の様子は、光の勢力の運営する動画サイトのチャンネル、『クウチャンネル』で生放送されている。
ちなみに、『クウチャンネル』というチャンネル名を聞いて『クウちゃん、寝る』とかで静かにならないかなとか思ったのは内緒だ。
そして、ウリデン大統領の正体が看破されて身柄を拘束された数分後、アメリカ本土ではトラハナフダ元大統領が、大統領の座に返り咲いたとのニュースが全世界に流れたのであった。
このトラハナフダ大統領。
前回の選挙では票を操作したウリデンに負けた形となっているが、その不正を証拠を揃えて明らかにした結果、正当な大統領として返り咲いたのだ。
トラハナフダ大統領は、『トラ』という文字がついていることからもわかるように光の勢力の一員であり、この日を境に全世界の闇が、地球に住む人間の主導の元次々に暴かれていくこととなったのである。
世界は歓喜に包まれた。
◇ ◇ ◇ ◇
同時刻。
ここは異世界の惑星デパテラエンス。
獣人たちの国、セタン王国から遠く離れた名もなき土地にある魔王城。
どぱーん
「‥‥‥なあ、これでいいのか?」
「シンジ! お疲れ様! これで、この惑星の悪は滅びたわよ!」
「いや、オレが言いたいのはだな、こんなにあっさりと悪の親玉を倒しちゃっていいのかってことなのだが‥‥‥。ナレ死よりひどくないか?」
「もう、シンジったら! 細かいところばっかり気にしちゃって! だからあそこが粗末なのよ!」
うるせえ。
「まあ、わかったわ。だったら、わたしが説明の長文セリフを言ってあげるわよ! この異世界のあくの総本山、コウリ教の枢機卿とか騎士団長に化けていた魔人は倒されたのよ! これでこの惑星の悪の因子は一掃されたわ!」
「いや、その魔人さんの名前くらい言ってあげなよ!」
「はーい!
〇ストライム・ドゥーガル
聖騎士団騎士団長。コウリ教幹部。闇の勢力。悪魔。
〇マルティム・ ガロワ
コウリ教枢機卿。闇の勢力。悪魔。
これでいい?」
「いや、『人物紹介』からのコピペじゃねえか! なんか敵ながらこの扱いはかわいそうじゃないか?!」
「面倒くさいからこれでいいのよ!」
「さいですか‥‥‥」
哀れ、悪の脇役どもよ‥‥‥。
◇ ◇ ◇ ◇
同時刻。
ここは日本の晴田県丸舘市のとある民家。
そこの車庫に出来たダンジョンの地下10階層。
「にゃー、ここのボスをやっつければいいのにゃね?」
「ええ。クウちゃん様からはそのように仰せつかりました。」
「‥‥‥なんだかなあ」
武田佳樹と早坂真奈美、そして
オレたちは今、最終決戦の場所にいる。
なぜ、世界の未来を決める最終決戦の場が我が家の車庫のダンジョンなのかという点にものすごくツッコミを入れたい。
思えば、あの日。
『夜明けの日』とよばれるあの日からすべては加速度的に進んでいった。
時空の女神と名乗るクウちゃんという存在によって世界の事象が改変されたあの日を境に。
全世界にあるダンジョンは次々と攻略されていくことになる。
なんと、我がダンジョンでドロップしていた、あの『黒いカートリッジ』が世界各地のダンジョンでもドロップしはじめた。
そう、軽トラがダンジョン内でも動く原因となったアイテムである。
それにより、各国の軍隊は戦車等や近代兵器をダンジョン内で運用できるようになり、次々とダンジョンの完全攻略が急速に進んでいったのだ。
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