3つの世界線が交わる時。

シンジ、異世界の虎の穴へ。

第300話 おーさかすたいる。

「さて、着いたのじゃ! シンジよ! ここがキャンプ『アキ』のメイン、『虎の穴』なのじゃ!」


 セタン王国の王女、トラニャリスさんに案内されて到着した場所。


 そこにあった看板には、


「なんばんウォーク‥‥‥」


 そんな、いかにもどこかで見聞きしたような名前が書かれた地下に向かう階段が。


 そして、その脇には取ってつけたような、昔のマラソン選手の格好をして両手を上げてゴールテープを切っていそうな男性の地上絵。うん、一粒で300メートル走れるお菓子メーカーの絵だよね?


 呆然としていると、トラニャリス女王が語りだす。


「いやー、アキン・ドーは『本当は電飾付きの立看板にしたかった』と言っていたのじゃがその当時のではこれが精いっぱいだったのじゃ!」



 そんなのどうでもいいよ!


 無駄なところにこだわるのはいい加減にやめてくれと言いたい。


 いや、こだわりではなくこじつけか。



 目の前にある地下道の入り口のような階段は、おそらく大阪の地下街の入り口を模しているんだろう。お菓子メーカーの看板もどきの地上絵がそれを物語っている。


 それにしても、『キャンプ安芸』の設定はどこに行ったのだと問い詰めたい。




「アキン・ドーいわく、自分と同じように『にっぽん』から来た人間だったらこれを見て絶対に反応するはずだと言っていたのじゃ」


 さすが関西人。東北生まれのオレとしては日本にこじつけるのなら東京タワーとか東京メトロのほうが良いのではと思うのだが、関西人にとってはこういうセレクトになるんだろうな。


「で、その階段をおりるとダンジョン『虎の穴』になるのじゃ。アキン・ドーはこうも言っていたのじゃ。『にっぽんからきたりし者。そこに潜ればすべてを悟り、目を見張る成長を遂げて再び地上に現れるであろう』とな。」


 アキン・ドー結構しゃべってるな!


 これだけしゃべっていたらもっとこの異世界に地球の情報とかがあふれていてもいいと思うのだが。


「そして、ここからが、われが『言継ぐの巫女』として。アキン・ドーより託された言葉になるのじゃ」



 『言継ぐの巫女』ってなんだよ! 初めて聞いたよ! また新しい要素出てきたよ! 設定過多で渋滞してるよ!


 虎の穴を目の前にして、すでにお腹いっぱいになってしまったが、ここまで来たら聞かない訳にはいかないだろうな。



「『トラ』のチカラが最大限に高まる時。3つのヒカリもまたチカラを得て、チカラを合わせて悪の根源祓うべし」


 

 トラのチカラ高まる時‥‥‥?


 どういうことだ?


 具体的な言葉のようにも思えるが抽象的でもある。


 どう解釈すればいいんだ?



「あー。『トラ』のチカラ云々のところはの、大阪タイガースが優勝するときってことらしいのじゃ」


 最近の具体的な話じゃねえか!


 それならそれで普通に『阪神優勝』って言い伝えとけよ!



 ほんとうにいちいちツッコミどころが満載な‥‥‥はっ! そうか! 大阪はお笑い文化の中心地! だからこそ『ツッコミ』を常に求めるような『ボケ』の性質を各所にちりばめているのだな!



「まあ、しらんけど(なのじゃ)」


「知らんのかーい!」




 しまった。


 すっかりトラニャリス女王のペースに乗せられてしまっている。


 救いと言えば、さらに面倒くさい存在のクウちゃんが今も助手席で爆睡していることだろうか。


 このまま永遠に寝ていてくんないかな?










 とりあえず、落ち着けオレ。


 周りに流されるな。


 日本のサラリーマンとして、理不尽という荒波の激流にもまれて生きてきたオッサンの培ったスキルを思い出すのだ。


 そうだ、こんな時は『今やるべきこと』を思い出せ。


 心のTo-Doリストを思い出すのだ!






 今やることは‥‥‥えーっと、ボケとツッコミがひと段落したから‥‥‥







「もうええわ」


「「ありがとうございましたーー(なのじゃ)」」



 終幕からの、



「じゃあ、次の演目、『虎の穴』に潜りますねー」


「はーい、いってらっしゃいなのじゃー!」


 

 場面転換だ!


◇ ◇ ◇ ◇






「ふう、どうにかボケツッコミ無間地獄からは逃れられたようだな」



 ここは『虎の穴』と呼ばれたダンジョンの地下1階層。


 地下街アーケードに向かうような階段を軽トラで降り、ようやくここにたどり着いた。


 軽トラって階段降りられるの? という質問が飛んできそうだが、それはまあ、何とかなったぞ。






『にっぽんからきたりし者。そこに潜ればすべてを悟り、目を見張る成長を遂げて再び地上に現れるであろう』

 


 アキン・ドーはそんな言葉を言い残していたという。



 その言葉の通りならば、まごうことなく日本から来たオレならば、こうして潜っているのだからすべてを察することが出来るはずなのだが。



 いまのところ、それらしき情報は目に前に現れてきてはいない。


 一体何があるというのだろうか?


 

 せめて、隣で爆睡しているクウちゃんが起きてややこしくなる前に手掛かりくらいは見つけておきたい。



 そんなことを思っていた矢先――





 ― なにものかにであった! ―

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