第287話 晴田市観光。
「お、おはよう……ございまふ」
「は、晴兄ちゃん……お、おはよー」
おいおい、二人とも。
どうしてお目めが真っ赤っかになっているのかな?
さては?
「エート、アノアトハスグネマシタヨー」
「ほ、ほんとだよー」
ビデオ見やがったな?
まあ、好奇心があるのは致し方ない。
オレも鬼ではないのでこれ以上は何も言わない。
だが、こんなビデオがある宿を予約した県警の担当者には一言モノ申したくはある。
そんなもやもやした気持ちを振り切り、チェックアウトして朝食を摂りに行く。
朝食は全国チェーンの牛丼店。
オレたちは昨日から寝るとき以外は着の身着のままでまだ制服なのだが、最近は制服のまま飲食店を利用するのもアリになってきている傾向にある。
ちょっと前だと、『勤務中に警察官がさぼっている』などと指摘されるためコンビニでの買い物ですら私服に着替えなければならなかったのだ。
だが、警察官が制服のままお店に立ち寄るということは、それだけで犯罪の抑止効果があると世間が認めつつあるのだろう。
オレはチーズをのせたやつにタバスコをふりかけ、安定の豚汁を追加。緒方巡査は迷った挙句焼き鮭朝定食大盛り。ルンはと言えばキムチ牛丼の大盛りだ。いつも思うがよく食べる人たちだ。
ハヌーはお店に入れないので、お持ち帰りを買って軽トラ内で食べてもらった。
なに? ギガ盛りがよかった?
お前もよく食べるな!
制服という事もあり、周囲の注目を浴びながらの朝食を終えたオレたちは、急に降ってわいた休暇の日にさて何をしようかという事になった。
「休みになることがわかっていたら、着替え持ってきたんですけどね」
「ほんとそれな」
「キュー」
「初めてくる街は楽しいです! 晴兄ちゃん! 志穂姉! いろいろ見て回りたいよ!」
「ああ、といってもルンは軽トラから離れられないからな。晴田市近郊のドライブになっちゃうがそれでもいいか? それに制服だし。」
「うんっ! オンダトーチャンにお土産も買いたいな!」
おお。恩田課長のうれしむせび泣く姿が幻視できるぜ……
◇ ◇ ◇ ◇
オレたちは、晴田市内の主な幹線道路やら駅前周辺をはじめとして、大型ショッピングモールの屋上駐車場に車を停めて、可能な限りルンに店内を楽しんでもらったり。
お土産に晴田市名物の28個食べるのがデフォと言われる銀萬というお菓子を買ったりした。
その後、一応『ダンジョン課』に配属されている身として、ここ晴田市に設置予定の探索者支援センターの建物を見学させてもらった。
ここは、各都道府県や政令指定都市に最低一つは設置することと定められた支援センターの設立予定地。
建物はすでに立っていた児童会館の建物を利用する事になっており、外観や内装のリフォームが行われていた。
子供の遊具が多く置かれていたであろう1階エントランスにはダンジョン内でのドロップ品を買取するカウンターや、武器や防具の類が販売されるスペース、そしてお土産品の販売スペースが整然と区切られていた。
2階にはダンジョン産の食材を取り扱う食堂が設置され、3階以上には探索者としての訓練等を行う講習スペースが広がっているのだとか。
推測なのは、ルンが入口より奥まで移動できないがため、案内の人に話を聞いたにとどまったからだ。
なお、本来この建物は安全性と保秘性の観点から探索者登録していない者の立ち入りは制限されるようだが、警察官は関係者として立ち入ることが出来るらしい。
というか、建物内には警察官詰め所のスペースもあり、有事に速やかに情報提供が行われるよう、完成後は警察官が常駐するらしい。
うーん、ここに配属になったら楽かもしれないなんて思ってしまったのは内緒だ。
いや、むしろ何かあることが想定されているので天手古舞の忙しさになるかもしれないな。
なにしろ、以前調査で立ち入ったことのある熊岱市のダンジョンのような例もあるのだ。
あのとき、社長命令でダンジョンに突入させられて怪我をした従業員たちは労災の届出と合わせ、事前に就業規則に無い業務を強要されたことで強要罪の刑事裁判まで視野に入れているのだとか。
あんな惨事が起きたとしたらダンジョンへの救出から、数夜続けての書類仕事やらで大変だろう。くわばらくわばら。
帰り際に、売店で販売予定というダンジョンまんじゅうを人数分いただき、ご機嫌の女性陣。ハヌーの分はなかったのでオレのをあげた。
その後は隣の市である男馬市まで足を延ばし、ガメラ岩とか、真山神社に出来たなまはげダンジョンの外観をチラ見しに行く。
なまはげ館は建物のすぐそばに軽トラを停められたので、なまはげの立ち並ぶ内部もルンと一緒に見学することが出来て良かった。
そして、突然の休暇をそれなりに楽しんで丸舘署に帰着の報告をしに行った時の事。
「お疲れ様だったな。武藤巡査部長、緒方巡査長、そしてルンちゃん」
署長が謎の言葉でオレたちを出迎えたのであった。
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