第285話 ルンの靄祓い。
異世界の佐藤真治さんからの電話に出たら、なんかとんでもないことになってしまった。
あのうざい声の女性は、クウちゃんという名前でなんと高次元の存在であり、時空の女神様なんだとか。
いろいろ失礼なことを考えていたので内心ビビってしまっている。
佐藤さん曰く、「金属タライが落ちてこなければ大丈夫」って言ってたが意味が解らない。
ルンはルンで、自分に『黒い靄』を祓う力があるという事に驚いてフリーズしているし、緒方巡査は――寝ているな。
徹夜で疲れたあとに朝飯たらふく食えばこうなるわな。オレも眠い。
うん、なんか嫌な予感がしてきたぞ。
日本、いや、世界中で多発する犯罪。
それらに関わってくる黒い靄を即時に祓えるのは世界中でルン一人。
時間をかけて塩水飲ませれば祓えるとはいえ、全国各地の警察署の留置所のキャパが間に合わない。
と、なれば。
キャパオーバーになったところからルンに応援要請がきて、ルンは軽トラから離れられないから軽トラに乗っての靄祓い全国ツアーが開始されるかもしれない。
そんなことを考えているうちに、体の疲れは睡魔に対する抵抗力を奪っていき、オレはいつのまにか机に突っ伏して眠りに落ちていたようだ。
…………
……いちゃん――
……晴兄ちゃん――
ん――?
ルンがオレを呼んでいる―――
あ、オレは寝ていたのか?
「晴兄ちゃん! 電話だよ!」
見ると、ルンが警察電話の受話器を持ってオレの方に差し出してきている。
ああ、ルンが電話に出てくれたのか。
オレは受話器を受け取り、電話に出る。
電話は警務課長からで、昨日からの流れで署内の留置場がさっそくパンク状態になりそうなので、なんとかルンを連れてきて欲しいとのことだ。
なお、ルンにはすでに了承をもらっているとのこと。
「はい、了解しました。これから向かいます。」
まだ寝ている緒方巡査――机に突っ伏しながら、背中に毛布が掛かっている。多分ルンが掛けてくれたんだな。というか、オレにも毛布が掛かっている。ルンよ、ありがとうな。
緒方巡査を置いて、ルンとハヌーを伴って軽トラに乗り本署に向かう。
昨夜のようなことが起きないように、今日はしっかり施錠して、ブラインドも閉める。
向かう道すがら、オレはさっき寝ていた間の事――夢?
夢のような、靄のかかった記憶を呼び起こす。
あ、そうだ。
あれは夢じゃないな。
たしか、あのクウちゃんとかいう人の上司みたいな人だったはずだ。
えーと、内容は。
地球での闇を祓うことに協力させることになってしまい、手間をかけてすまない。
時が来れば、
状況は一気に改善する。
それまで、申し訳ないが頑張ってもらいたい。
そんな内容だったはずだ。
時が来れば。
時っていつだろう?
そんな事を考えているうちに本署に着いた。
本署2階の奥、留置場、通称監房に向かう。
留置場の中には、鉄格子につかみかかって大声を発している人や、うつろな目をしてただたたずんでいる人など様々な人たちが留置されていた。
内訳は男性が若干多いが、女性もそれなりの数がいる。
まさに老若男女、多くの人の心に闇は巣食っていたようであった。
ちなみに、2階に位置するこの場所までルンは来ることが出来ない。
軽トラからの距離が離れているからだ。
なので、一人一人、警察官が留置所から出して軽トラの前まで連れていく。
ルンは、連れてこられた人たちの額のあたりに手をかざすと、たちまち黒い靄が立ち上り、周囲に霧散して消えていく。
その光景は、なにか神話の中にでも登場するシーンのようでもあり、その場にいた人たちは警察官も、靄を解かれたあとの犯罪者も、言葉を失ってその光景を見つめている。
靄を解かれた犯罪者たちは、皆一様に正気に戻ったようで、それでも自分の犯した罪を悔いていて。
取調室で調書を取った後は、逃亡の恐れなしという事で釈放され、在宅起訴という流れに持っていくことが出来た。
これで、留置所がパンクすることもないだろう。
「で、ルンちゃん、武藤巡査長。大変申し訳ないが、県内外の警察署から『闇祓い』の依頼がたくさん来ている。どうにか頼めないだろうか?」
署長がきて、申し訳ないような表情で話しかけてくる。
おかしいな?
オレは昨夜この人から一晩中説教を受けていたはずだが?
ルンがいるのといないのとでこんなに態度が違うのかな?
まあいい。
やらかしたのは自分達だったからな。
罪を憎んで人を憎まずとは良く言ったものだ。
結局、睡眠不足のまま軽トラを運転して各署を周るのは危険だという事で、一晩ゆっくり寝てからという事になった。
◇ ◇ ◇ ◇
と、いう事で翌日訪れたのは、晴田県の県庁所在地である晴田市の警察本部。
そこには、晴田市近郊の警察署のみならず、県内各署から護送車が多数集まり、ルンの祓い待ちの行列が出来ていた。
護送車で足りないのか、観光バスの姿も多数。何のツアーだこれ。
で、いざ『お祓い』を始めようとしたら、本部のビルから本部長様が出てきてルンに面会したいと言い始めたとかで、実際のお祓いが始まる時間が30分ほど押してしまい、各署から来た警察官はとっても不機嫌そうであった。
次々と集まってくる県内各所からの護送車から吐き出されてくる犯罪者を全て祓い終えたのは夜の20時を過ぎた頃であった。
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