第272話 再びのクウちゃん。

「『時空魔法について詳しい文献や伝承なんかは無いか?』ということではないのかなのじゃ?」


 なんと。


 たしかに、オレがこの地、セタン王国に来た目的の一つには、アキン・ドーが地球と自在に行き来していたと思われる方法、時空魔法についての情報を集めるためでもある。


 そのことが、すでに予見されていただと?


 時空魔法。


 時間と空間を意のままに操れるとすれば。


 その、『操る』というカテゴリの中に未来視や千里眼のようなものも含まれるとするならば、今この時のことを知られていたとしても不思議ではない。


 だけど、だけどもだ。


 たまたま200年後のとある場所をのぞいたら、たまたまそこにオレの姿が映っていたなんて偶然はほぼあり得ない。


 間違いなく、オレが今ここに来ることを何かしらの方法で見ることもかなわないのではないか。


 なら、どうやって知ったのだ?


 オレが知りたいのは、そういう事だ。


 

 このまま軽トラのレベルを上げて、時空魔法のレベルも上げていけば地球に戻る時空間ゲートを開けることは分かった。


 だが、ゲートを開いたとして、それはどこに繋がるのだ?


 場所、日時、それはどうやって決まるのだ?


 はたして恣意的に決められるものなのか?


 わからないことが多すぎるのだ。



 たとえば、人は走ろうと思えば走ることはできるが、具体的に脳からの指令がどうやって筋肉まで届き、筋肉をどの程度動かせば走ると呼ぶに値する動きができるのかなどと考えることがないように、自然にできるようになるものなのだろうか?



「ふふ、とまどっているようじゃのじゃ?」


 目の前のトラニャリス王女がどや顔、いや、ネコっぽいからドラ顔? まあいいや。

 あ、そういえばこの人の無理やり『のじゃ』をつけたしゃべり方少しイラっとするな。


「そろそろ答えが見えるころなのじゃ」



 そんな言葉が終わるや否や、オレの頭の中にオレの物ではない意識の奔流が流れ込んできた!


『はーい! おひさしぶりぶり! あなたのクウちゃんよ!』


 おまえかい!


『もう、シンジったら、すっかりわたしのことなんて忘れちゃったのねー! んもう! あいかわらず冷たいんだからー!』



 あいかわらずなのはお前だよとツッコミたい。



「で、このタイミングでクウちゃんが出てきたってことは、オレが今ここにいるのもクウちゃんの掌の上のことだとでもいうのかな?」


『正解よ!』



「って、それじゃあ、この世界での200年前のアキン・ドーの出現? 転移? のこととか、アキン・ドーが昭和初期頃の人間なのに現代の知識を持っていることとか、いろいろなことの黒幕ってことなのか?」


『半分正解ってところかしらね? でも、そのお話はあとに取っておくのよー! 今、シンジにはやるべきことが二つあるわ!』



「二つも?」


『そうよ! しかも、そのうち一つは超特急で解決が必要なのよ!』



「……! もしかして、すでに魔王が顕現していて一刻も早くそいつを倒さなければならないということか!」


『ブッブー! 違うわよ!』



 違うんかい!



 あれ? どう考えてもこれまでの話の流れからすればオレが魔王を倒すことになって物語は大団円ってことになる展開だったんじゃないの?




『シンジ? いい? そもそも闇の勢力ってのはね、人間たちのマイナスの感情をエネルギーにするの。』


 うん、それは知ってる。


『それでね。そのマイナス感情をたくさん絞り出すために、魔王という存在を作り上げ、恐怖や絶望をより生み出しやすくするのよね!』


 うんうん。


『で、その魔王を生み出すためにも一定のマイナスエネルギーが必要になるという矛盾も抱えているわけなのよねー。』


 確かに、エネルギーを生み出すためにエネルギーを使うなんて、言われてみればそこには矛盾があることになる。


『その魔王にされかかったのがシンジなんだけどー!。シンジはわたしが与えた光の加護と、いい出会いと良い行動によって闇落ちを免れたから!』


 お前に貰ったのは加護ではなくて過誤のような気もするが黙っておこう。


 ドパンッ!


 そして落ちてくる安定の金タライ。痛いじゃないか。8時に全員集合したらどうするつもりだ。だめだこりゃ。


『それでねー、シンジに集中するはずだったマイナス感情のエネルギーが行き所を失って時空を超えて拡散してるのよ!』


 人にタライを落としておいてなにごともなかったように話を続けやがって。


 えーと、でも、拡散されたって、それっていいことじゃないのかな?


『ところがね? 拡散されたマイナスエネルギーは、そのまま霧散しなかったのよ! 霧というより、大小の粒になって時空のあちこちに散らばっちゃった感じなのー!』


 それってつまり、大きな熊を倒さなくてもいい代わりに小さな蚊とか蜂を無数に倒さなくてはならないってことじゃないか?


『そうなのよ! かえって面倒くさい状態なのよ!』


 あー、まあ、クウちゃんが携わったからより面倒くさくなったと。



 ドパンッ! ドパンッ!


 タライ多いな!



 で、魔王の話はどうなったんだ?









 









































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