第270話 王女トラニャリス。
「申し遅れたのじゃ。我の名はトラニャリス・タイガース! ここセタン王国を治めるものなのじゃ!」
えーと、状況を整理したい。
まずはこの、目の前にいるおばちゃんだ。
セタン王国の王様?
ということは女王様ってことだよな。
普通、こういった異世界ものの定番なら女王と言えば年端も行かない幼女とか、うら若き女性とか、せいぜいドレス姿の美魔女が出てくると思うのだが、なんというか、髪の毛がド紫でヒョウ柄のコートなのはいただけない。
まあ、いろんな要素を差っ引いてみれば美人と言えなくもないのではあるが、その、いろんな要素で台無しである。
それで、その紫の髪の間からのぞきでているケモノ耳。
みたところ、黄色と黒色の縞模様。
耳の色を見る限りでは、トラの獣人さんなのだろう。
でも、その名前はなんなんだ。
『トラニャリス』って。
トラなのかネコなのかリスなのかはっきりしろと言いたい。
「あのー、つかぬことをお伺いいたしますが?」
「いいのじゃ。なんでも聞いてくれなのじゃ!」
「……虎の獣人さんで、合ってますよね?」
「その通りなのじゃ! 我は猛虎! セタン王国の国王でもあり、偉大なるタイガース軍団の首領でもあるのじゃ!」
「えーと、そのタイガース軍団って、
「おお! その通りなのじゃ! そのなかでも栄えある
うん、苗字が『タイガース』ですからね。
「で、メンバーは片手に敵の攻撃を受止める
「なんじゃと?! お主、そこまで我が軍勢の詳細を知っておるのか? さては、お主、わが軍の
ちがいますー。
「おお、そういえば、お主! 噂には聞いていたが、わが軍のものに負けずとも劣らない
だからちがいますってば。
「おお、話に夢中になっていて忘れておったのじゃ。タイヤたちよ、今日はもうよいぞ。お疲れ様なのじゃ!」
王女様がそういうと、王女様ののる『リリーフカー』の脇がパカッと開いて、中からアルマジロっぽい人とかハリネズミっぽい人が合計4人ほど続々と出てきたではないか。
リリーフカーから出てきた人たちは肩で息をしており、かなりの重労働なことが伺える。うん、ご苦労様。
たしかに、アルマジロさんとか4足歩行になって背中にリリーフカーを乗せたりするのには適しているのかもしれないけど、本物のアルマジロさんじゃなくて獣人さんなんだよな。ほら、2足歩行になって反り返って腰を伸ばしているし。
ハリネズミさんなんて、車体を傷つけないように配慮しているのか体中のハリをジェルみたいなものでオールバックにしているし。
え? そのハリって整髪料で何とかなるの?
あ、ハリのセットが汗で乱れたのを気にしてるのかな? 帽子をかぶったぞ。
で、『タイヤ』の皆さんは日当らしき封筒を受け取って三々五々帰宅の途についていく。いや、リリーフカーの車体その場に放置されているんですがいいんですかね?
「おう、シンジよ! すまぬが、お主の
いや、それはいいんだが、最初からオレの軽トラを当てにするような運行計画を立てるなと言いたい。
というか、この王女様どこから来たんだ?
まさか、はるか遠い王城とかがある場所から、わざわざこの国境までリリーフカーでやってきたんだろうか?
「さて、シンジよ! このまま立ち話もなんなのじゃ。我の居城に参ろうではないか!」
王女様はそう言って軽トラに乗り込んでくる。おっと、助手席にいたライムが気を利かせてオレの膝に移動してくれたな。
「たしか、このタイプの『りりーふかー』はしーとべるととかいうのをそうちゃくするのであったな!」
その知識はどこから?
いや、あのアキン・ドーの教えとか言い伝えが残っていたとしても、確かオート三輪の時代から来た人だったはずだよな?
その時代にシートベルトとかはなかったと思うのだが?
オレの疑問をよそに、王女様はなかなかスムーズな動きでシートベルトを装着して助手席に収まる。
こうして隣に座っているのを見てわかったのだが、この王女様は結構小柄だ。
ヒョウ柄のコートと紫頭のインパクトが強すぎて体の大きさにまで注意力が行き届いていなかったことを思い知る。
「で、王女様? どこに向かえばいいんですか?」
「うむ。これから向かうのは我が猛虎軍の聖地、コーシエンなのじゃ!」
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