第219話 熊岱市ダンジョン③
暗視スキルを取得できる可能性を見出したオレ達は、レベルが上がるまでコウモリモドキたちを狩り続け……はしなかった。
この前レベルが上がったばかりだし、なによりコウモリモドキを何百匹倒せばレベルが上がるのかわからない。おそらく相当数倒すことが必要だろう。
どれほど時間が必要なのかわからないので、今日はここで切り上げることにした。
「陽介君たちのレベルが上がってきたら、ここで『暗視』スキルが取れるか試してもらいたいな」
「はい。篝火みたいにたいまつを固定する金具とかも買わないとですね。ホームセンターによさげなのがあればいいんですけど」
って、ちょっと待てーーー!
なんか、ダンジョン買い取る方向で話が進んでないか?
「いや、お金とか、陽介君たちの同意とか、いろいろ詰める事あるからね。」
「あら、お金のことなら心配いりませんよ? 私と
「いや、文句というか、そんな、個人(猫)の金を使わせるわけには……」
「私のお金ですよね? じゃあ、私が使い道を決めても問題ないじゃないですか?」
「いや、そんな言葉遊びじゃなくてだな……」
「そもそも、このダンジョンを買うのは将来を見越した不労所得のためなんですから。妻が老後の生活に備えて自分のへそくりで不動産を買っておくだけですよ?」
くっ、そこまで言われたら反対できないじゃないか。
「わかったよ。買おう。ただし、オレも金を出す。というか、ここのダンジョンを買うために金を稼ごう。名義は真奈美でいいし、経営も任せる。それでいこうか」
「はいっ! ありがとうございます! さすが先輩! 大好きです!」
「にゃー、美剣がネコ社長になって、お客をたくさん集めるのにゃー!」
え? 社長? 法人化するのか? まあ、確かに従業員301人以上じゃないとダンジョン購入条件は個人売買と変わらないし、いいのかな?
じゃあ、有限会社かな? いや、たしかもう有限会社は新規に設立できないはずだ。ということは、合同会社という事になるのだろうか。詳しい所は帰ってからネットで調べてみないとな。
「設立は私に任せておいてくださいね! 代表社員(社長的な人)は美剣ちゃんにしたいですね!」
「人化した美剣を社長にして法人化させるなんていいえて妙なのニャ」
「それ、漢字で書かないと意味わかんないからな?」
というか、美剣は戸籍がないから社長は無理だと思うのだが。それに、目立つことは避けるべきだしな。まあ、無難にオレかマナミサンだろう。
ということで、なにやら探索者のほかに経営者にもなってしまうことになってしまったのである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
と、いうことで自宅に戻ってきた。
熊岱市のダンジョンを辞する際にはちゃんと入口のバリケードの鎖を元に戻し、監視カメラに黙礼してから熊岱署に電話をかけ、間引きの内容を概ねながら口頭で報告した。
熊岱署の応対してくれた人は「お疲れ様です」と言ってくれたがなにやら他人行儀だった。まあ、あまりフレンドリーに来られても困るので別にいい。
自宅に着くと、ちょうど陽介君たちが我が家の車庫ダンジョンから出てきたところだった。もう夕方だし、いい時間だろう。
「あ、武田さん、お帰りなさいです」
「ああ、ただいまだ。狩りはどうだった?」
「はい、お陰様で全員レベル3に上げることが出来ました。今度は1階層を周ってみたいと思います。」
「うん、無理はしないようにね。あ、そういうことなら、ドロップで出るコボルドのこん棒はこっちで買取させてもらえないかな?」
「?」
オレは陽介君たちに、今日の帰りに寄ってきた熊岱市のダンジョンの話をした。
良くない思い出のあるダンジョンなので、話を聞くのにも嫌悪感があるかもしれないとは思ったが、どのみちいつかは話をしておきたい。
ならば、いろいろ思いついたこの日に勢いに任せて話してしまおうと決意したのだ。
その結果、思いのほか陽介くんたちに忌避感や嫌悪感が感じられなかったのは良かったと思う。
「というわけで、
「……なるほど、お話いただいてありがとうございます。いい話だとは思うのですが、お返事には時間をいただいてもいいですか? 正直、自分たちはもっとレベルを上げる必要もありますし」
「ああ、もちろんだよ。というか、買うのも今すぐの話じゃなくて、何回か間引き攻略をしてからと思ってるし、その間に買い手が現れたらそれはそれで仕方ないとも思ってるし。まあ、いちおう考えておいてくれると嬉しいかなって感じだな」
「はい、わかりました! まずはレベル上げ頑張りたいので、これからも車庫のダンジョンお借りしますね!」
ということで、いまできることはこんなもんだと思う。
陽介君たちも帰ったし、テイクアウトのマンガ肉で晩酌にしようか。
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