第218話 熊岱市ダンジョン②



「きゃー、くらくてこわいわー(棒)」


 3階層のダークゾーンに入った瞬間、マナミサンが何か言いながらオレの左腕に抱きついてきた。何やってんの?



「なんて、こんな感じでお化け屋敷とかになりませんかね?」


「いや、落とし穴があって魔物が出るお化け屋敷なんて命の危険があるからな?!」


 マナミサンはこのダンジョンをテーマパークかなにかにするつもりなのだろうか? 


 というか、すっかりこのダンジョンを買う気だな。





 しかし、本当に真っ暗だな。光源が全くない。


 この階層に入る前に片目をつむって暗さに慣れさせようとしたのだが、そんな事前準備すらも無効化される暗さだ。


 まあ、それでも壁に手を付けばなんとなくの把握はできるが、陽介君たちは良くこの状態で先に進もうと思ったものだ。


 それだけあの強欲社長のプレッシャーが強かったのだろうけど。



「あ、美剣ちゃんがまだ人型ってことは、スマホの電源入りますね。これで明かりは確保できますけど……軽トラさんと一緒に来るか地上に置いておかなきゃ無理ですしね。」



 そうなのだ。


 オレ達はこのダークゾーンを難なく攻略できることはできるのだが、それは軽トラの能力ありきのことなのである。


 ヘッドライトやカーナビはもちろんの事、美剣のネコ特有の暗視能力だって、軽トラがそばにあって美剣が人化していられるから魔物を倒せるのであって、軽トラ無しで猫の姿のままではさすがに魔物とは戦えないだろう。

 

 今、スマホの電源が入るのだって軽トラと「500m以内」という制約の範囲内にいるからであるし。








 オレ達がこのダンジョンを買ったとして、マナミサンは一般開放、観光地化して収益化することに前向きだ。


 だが、所有者となれば定期的な間引きによる近隣住民の安全確保も必要だし、一般に開放するとなれば探索者の安全確保のための管理人もおかなければいけないだろう。


 オレ達が管理人になればいいのだろうが、実際問題自宅にダンジョンを持つ身となれば手が足りない。


 で、ここのダンジョンに潜ったことのある陽介君たちにここの管理をお願いすればいいかなとも一瞬頭をよぎったのだが、このダークゾーンがある限りそれも難しい。


 陽介君たちは文字通りここで命の危険に遭ったのだから。




「んー、陽介君たちに『暗視』のスキルが生えてくれれば何とかなりそうなんだけどな。レベルの不足はウチのダンジョンで灰色狼倒してあげてもらうとしても。」


「そうですね。何か、簡単に暗視のスキルを得られる方法でもあればいいんでしょうけど」



 そういえば、暗視スキルの取得方法については以前隊長ズに聞いたことがあるな。




 隊長ズに聞いたところによると、『暗視』スキルは射撃等の遠距離攻撃に特化した者が暗闇の中での戦闘を繰り返すと、レベルアップの恩恵等で手に入ることがあるらしい。


 スキルはほとんどの場合、ダンジョン内で手に入る。マナミサンみたいに地上で手に入ることもあるが、そのスキルの素養を得るにはやはりダンジョン内で鍛錬を積むことが必要だろう。



 で、暗闇で戦闘をくりかえすとなれば、ダンジョン内の暗闇と言えばダークゾーン。


 ということは、『暗視』スキルを持っている人ってのはこんな真っ暗なところで射撃武器で戦って、レベルを上げているということか!

 

 レベルを上げるという事は、戦闘に勝利しているという事であり、つまりはこの暗闇で敵に射撃を当てていることに他ならない。


 その人たちは軽トラのヘッドライトもなしに、どうしてそんなことが出来たのか……







「……普通に、たいまつでいいんじゃないですか?」


「……はっ!」


 そうか、たしかにダンジョン内で火は使えるんだから、たいまつは有効だ。


 ああ、某線画ダンジョンのゲームでは明かりは魔法しかないこととか、軽トラのライトのことに固執するあまり、単純なことを見落としていた!


 普通に、国民的RPGドラク〇のことを思い出せば解決できたじゃないか!



 陽介君たちだって、あの時はダークゾーンがあるなんて知らなかったからたいまつなんて準備していなかったのであって、心と時間に余裕さえあれば引き返してたいまつを準備したはずではないか。


「にゃー、ご主人。また考えすぎたにゃね」


「灯台下暗しとは、言いえて妙ですね」




 くっ……! オレのばか!










 と、いうことで、さっきドロップしたコボルドのこん棒にマナミサンのファイヤーで火をつけてみた。


「うん。薄暗いけど見えるな。」


「篝火みたいにこのこん棒を高い所にたくさん設置しておけば、『暗視』スキルを覚えられるスポットとして探索者に人気が出るかもですよ!」



 たしかに、高い所に複数設置すれば飛んでるコウモリモドキを撃ち落とすのはそれほど難しい事ではなさそうだ。


「なにか射撃か投擲の武器なかったっけ?」


「割り箸投げるかニャ?」



 いや、割り箸投擲は美剣じゃないとまっすぐ飛ぶ気がしないし敵に刺さるとも思えない。オレにはフォークだって無理だ。


「これならいいんじゃないですか?」



 マナミサンが取り出したのは、我が家のダンジョンの大カエルがドロップした金鞠のラグビーボールバージョン。


 よし、ハイパントだ!



 オレが蹴ったラグビーボールは、昔の5人組色別戦隊の赤の人のように、見事敵の中で爆発し、多くのコウモリモドキを魔石へと変えた。


 足で蹴っても投擲になるのかは微妙だが遠距離攻撃には間違いないだろう。


 これをレベルアップまで繰り返せば、『暗視』スキルが手に入るかもしれない!


 




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