第212話 『ナイン・ガーデン』の職業。
「実は僕たち、まだレベル2なんです」
なんと、衝撃の告白であった。
レベル2と言えば、1階層の雑魚敵を苦戦せずに倒せるようにはなるが、少し強い敵や団体相手にはまだ心細く、決して3階層に向かえる実力ではない。いや、2階層だって危ない。
「あの社長、いつも僕たちにさんざん嫌味を言ってきて、『そんなに弱くて恥ずかしくないのか』とか、『探索者なんてやめて、御園と美夏に愛人になれ』とか堂々と言ってきやがって……。それで、オレ達はレベル3に上がったんだなんて大風呂敷広げちゃって……」
そうか、そんなことがあったのか。
「にゃー、あんにゃろう、キン〇マ刎ね飛ばしておけばよかったニャ」
美剣のその発言に、なぜかオレと陽介君が身震いする。
「で、あの社長、ダンジョンでの上がりに執着してたから、装備とかには金を使ってたんです。で、僕たち3人は貸し出された連射クロスボウを使っていたので、あの時はどうにか気合で3階層まで行けたというのが正直なところです。実際は、3階層に行った証拠となる魔物の魔石を1個でも手に入れたら戻る予定だったんですが……真っ暗で何も見えなくなって、美夏が落とし穴で怪我しちゃって……。っていうのが、あの日の顛末なんですよ。」
「事情は分かった……。大変だったね。教えてくれてありがとう。でも、もう大丈夫だ。ここで、自分たちのペースで頑張ればいいんだから。もちろん、できる限りの協力はするし」
「……本当に、何から何までありがとうございます。武田さんと知り合いになれてよかったです」
なんか、しんみりしてしまったな。
「よし、じゃあ気を取り直して、とりあえず2階層までは一通り案内を続けようか。」
そして訪れた2階層。
せっかくなのだから今日だけでもパーティーを組んでみようかと提案したのだけれど、陽介君たちは前衛を置いての戦闘経験がないので、誤射が怖いからと遠慮してきた。
確かに
オークや大ガエル、齧歯ウサギなどは陽介君たちにはまだ手ごわそうだったのでオレ達が倒していく。
それでも一緒に行動していればパーティーと見做されて陽介君たちにも経験値が入るのではと思ったが、ダンジョンの謎仕様は問屋が卸してくれなかったようで、結構な数を倒したのにもかかわらず陽介君たちに経験値は入っていないようだ。
姉や梢たちの時は全く戦闘に参加していなくても経験値が入っていたのに。
パーティー登録とかをする某酒場もないのだが、どんな基準なんだろう?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
2階層案内を始め、そこそこの時間が経過した。
残すは3階層への階段やボス部屋くらいのものだ。
そのボス部屋の一つ手前の玄室、未だ開けられていない宝箱がそこには鎮座している。
「へえ、まだ開けてない宝箱もあるんすね~」
「ああ、なにやら罠が厄介なんだよ。安全策ってやつだな」
九嶋兄妹の妹ちゃん、美夏が宝箱に反応を示す。
確かこの妹さん、高校を出て1年目とか言ってたな。という事はマナミサンと同い年か。
同い年の同性が一つ所に居ればそれなりに仲良くなったりするかと思いきや、この二人は特に会話らしい会話もしていない。
というか、この妹さん。最初のお礼以降、言葉を発したのは初めてではないだろうか。
見たところ、人見知りというわけでもないように思うが、無口なのだろうか。まあ、あまり打ち解ける前からぺちゃくちゃしゃべられてもそれはそれでいかがなものかとも思うのでちょうどいいのかな。
それに、陽介君の彼女さんである御園さんは一言もしゃべらないし。
あれ?そういえば、御園さんの声をまだ聞いたことないかも。
そんなことを考えていたとき、
「あの~、もしよかったら、その宝箱、開けるのチャレンジしてみていいっすか~? あーしもなんかお礼したいって言うか、お役に立ちたいって言うか~?」
まあ、別に構わないが……開けられるのかな?
「ああ、美夏は弓持ちの『
「そうだったんですね」
「ちなみに、僕はたぶん『戦士』で、御園は弓装備の『僧侶』かな? まあ、もうちょっとレベルがあがればなんかのスキルとか覚えられるのかもしれないけど、僕は魔法とか覚えられるイメージ湧かないし、御園も攻撃力が上がらないところからみても『君主』ではなく僧侶でしょう。命中率はいいんですけど……」
そうなのか。というか職業とか普通に教えてもらっちゃったな。その辺は探索者によってはひたすらシークレットにする人もいるって聞いたけど。
「いや、命も助けてもらったし、なによりこれからもお世話になりますからね。秘密にしておくのは失礼だし、それに、逆に僕たちの事をもっと知ってもらいたいですから。」
陽介君のその言葉に美夏さんと御園さんも頷いている。
まあそうだな。下手に秘密を持つとやりにくくて仕方がないのは、軽トラや美剣の件で心にオレも沁みている。
こっちだって、既に美剣の秘密は明かしているからな。
そんなことを陽介君と話していると、
「あ、なんとかイケそうっすよ~」
宝箱に取り付いていた美夏さんが声を上げた。
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