令成5年。武田佳樹宅の車庫にできたダンジョンのお話。

ネコミミ娘を乗せた軽トラ。ダンジョン攻略を進める。

第195話 美剣の探索者証。

――――佐藤真治が軽トラごと失踪するという事件が起き。

 とある駐在所の軽トラに突然少女が現れるといった出来事が起きてから3年後(令成5年)の時間軸において。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「わーい、お出かけニャ」


 美剣みけはネコの姿だ。そう、今は軽トラではなくマナミサンの車に乗っている。

 

 なぜかと言われれば目立ちたくないからの一言に尽きる。



 ましてや今は陽介君たちの救助に参加&成功させたとして探索者支援協会からの謝礼金を受け取りに行くところなのだ。


 もはや、軽トラと美剣の情報は支援協会にも流れているだろうが、それでも極力悪目立ちは避けたい。


 支援協会の職員などから「軽トラを見せてほしい」などと言われかねないのだ。美剣も人型ならば同様に興味を引くだろうから、ネコの姿のままが望ましいと判断したのだ。



 それに、


「にゃー、美剣も人のままで、センターのレストランでお食事したかったのにゃ」


「いや、何回も言っているが、お前は軽トラから離れると猫に戻るからな? せいぜいドライブスルーが関の山だ。」


「アメリカとかみたいに屋外シアターとかあれば車に乗ったまま注文して飲食できますのにね」


 どっちみち、美剣は軽トラから降りれば猫に戻ってしまう。あえて軽トラで人型の姿で出かけるメリットがほとんどないのだ。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「それでは、これが捜索参加の謝礼金と、あとは人命救助の感謝状、そして金一封です。この度はほんとうにありがとうございました。」


 探索者支援センターの事務室にはいり、所長さんから諸々を受け取る。周りにいるのは事務の数人のみで、目立ちたくないオレたちに配慮してくれているようである。


 ちなみに謝礼金は一人頭10万円。美剣はネコ扱いで探索者証がないのでオレとマナミサンの二人分。それに金一封も10万円。合計30万円を受け取った。



「あ、遭難者の九嶋さんたちから支払われる捜索の日当ですけど、どうしても本人たちが直接手渡したいというので後日受け取って下さい。」


 なるほど、遭難者からの日当という名目のお礼は、本来はこの場で一緒に手渡されるものなのか。



 たしかに、通常であれば遭難者と捜索者とは赤の他人だし、直接顔を合わせることが互いに気まずい場合も多いだろう。


 例えば、探索者が無理な探索をして遭難した場合とか、捜索むなしく遭難者の救助がかなわずに命を落としてしまった場合などは特に……。



 ちなみに、本来であれば捜索中に倒した魔物の魔石やドロップ品はそれを倒した捜索者のものになるのが通例という事だが、あの欲塗れのおっさんにいらぬ言質を与えたくなかったので、忘れたふりをしてみんな置いてきた。腐れ縁を切ったと思えば安いものだ。





 そして――



「はい、これは美剣さんの探索者証です。あ、非公式ですので、他の方とか他のネコには見せないで下さいね?」 


 オレ達は、陽介君たちの捜索の謝礼と金一封、それに、ネコでは日本唯一となる美剣みけの探索者証を受けとり、探索者センターを後にした。



 もちろん、売店でのダンジョンまんじゅうの購入は忘れていない。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「先輩? センターの所長さん、気になることを言ってましたね? どうします?」


 所長さんが帰り際に放った一言。それは、



『あ、そういえば、皆さんが捜索しに行ったあのダンジョン。どうやら売りに出されるみたいですね。もしよかったら買いませんか?』


 あの強欲な社長さんがダンジョンを売るといった決断をしたのに驚きはしたが、真に驚いた点はその状況の移りかわるスピードだ。



 陽介君たちの救助からまだ一週間もたっていない。美夏さんはまだ病院のベッドの上だし、陽介君も彼女さんも自身の身体を休めながら美夏さんの看病をしているらしい。


 なんでも、あの捜索騒ぎで警察やら自衛隊が物々しく訪れたのを見た近隣住民から、『そんな危険なダンジョンはしかるべきところに管理をしてもらわないと、夜もおちおち眠れない』などといった内容の苦情があり、社長さんはいろいろつるし上げにあったらしく、手放す決断をしたんだとか。


 だが、その先はさすがに強欲社長と言うべきか、国に売却すればいいものを、民間相手にオークションにかけるというのだ。少しでも高く売りたいのだろう。



 あのダンジョンの評価額は、迷宮型、類推で深度5層、【脅威度】は下から3番目のEランク、【資産期待値】も下から3番目のEランク。【成長可能性】はFランクとのこと。


 国の評価額は160万円とのことで、最低入札金額もその値段から開始されるらしい。


 もし購入したばあいは、購入価格がいくらになったにせよ、国への税金は年間で国の評価額の5割と言うのは動かないので年80万円となる。




「買う人いるのかな? たしか、買うにもそれなりの条件があるんだよな?」



 もうひとつ驚いた点は、民間同士で、しかも個人でもダンジョンが売買できるという事実だ。


 これまでは、ダンジョンの発生した土地の所有者がそのまま所有するか、または国に売却するかの2択しかないと思っていたのだが、どうやら民間でも売買できるらしいのだ。


 言われてみれば、国を代表するような大企業が所有しているダンジョンも数多くあった。それは単に大企業が有している土地が多いことから、そこにダンジョンが発生する確率が高いからなのかなとも思っていたが、ある条件を満たせば売買できるらしい。




「知らないことが多すぎるな」


「わたしたち普通の人間は、法律の細かい所とか、国の通達や白書なんて読みませんからね。探索者でも知らない人も多いと思いますよ?」


「にゃー、難しい話は眠くなるのにゃ。おやすみにゃ。」




 美剣は寝てしまったが、もうすこしマナミサンと難しい話を続けようか。


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