第137話 着信あり。


 アンデッドコボルドは、マナミサンが火魔法で6匹ほど倒したが、そこで打ち止めになってしまった。


 玄室には、まだ7匹ほどの敵が残っている。



 ここで、オレの新技も披露したいところではあるが、いかんせん、オレの技では臭い汁が飛ぶ。

 

 という事で、軽トラに乗って撥ね飛ばす。


 その分の経験値は入らなくなるが、魔石は回収できるからな。こんどからアンデッドはこの方法で倒そう。



 だが、ことはそううまくはいかなかった。



「あーあ、フロント部分がベコベコだ」


 

 軽トラには『結界防御』があるから、どんなにぶつけても大丈夫だと思っていた時期がオレにもありましたが、『防御』ではなく『攻撃』の時はどうやら適用されないようなのだ。なかなかすべてがうまくはいかないものだ。

 

 スライムをタイヤで轢き潰すのとは違い、相手はぐちゃぐちゃに肉が腐って溶けているとはいえ、骨格のある人型の魔物。


 で、『結界防御』が働かない状態で人型のモノを軽トラで轢いたのならば、軽トラにもダメージが乗るわけで。



「うーん、こうなったら意を決して外に持ち出すか。安い板金屋ってどこだろうな?」


 軽トラを修理するために、ダンジョンの外に持ち出すことを真剣に考える。板金塗装の修理を業者に依頼しなくてはならない。


 でも板金だと「叩き」を攻撃と捉えて結界発動しちゃうかな? そうなるとパーツ交換しないと修理は不可能という事になってしまう。それはとてもお金がかかりそうだ。


 近所にメカドッ○よろしくとかはないだろうか? そこなら、近所の解体屋で部品見つけてくれるんだよな。確か。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 ダンジョンの入口扉が両開きだったことが判明し、軽トラを地上に出すことはできるのだが、その『収納』と『防御結界』の能力が地上でも生きていて超戦略級の兵器にもなってしまうため、秘密の暴露を恐れて外には出さない方向だった。

 

 それに、なぜかそのとき乗っていた美剣まで外でも人型のままになっていて、その原因もわからずじまいだ。他にも何が起こるか分からない。

 


 せめて、美剣の現象の原因でも分かれば少しは安心するのだが。



 そんなことを考えながら、最初の玄室に戻ってきた。ここにはダンジョンの入口のほか、ダンジョンが出来た時に軽トラと一緒に巻き込まれた車庫のコンクリートの床も残っている。


 なんとなく、そのコンクリート部分に上に置くのがおさまりがよくて今までもそこに停めていたのだが、今日も同じように停めたところ、いつもと違う現象が現れた。


 軽トラが、その床も含めて淡く光を発し始めた。

 へこんだフロント部分が、べこん、ベコンと音を立てて、ゆっくりと直っていく。

 


「これは……修理基地リペアベース?」





どうやら、車庫の床も【異質化】していたようである。


 まるで修理も出来るガレージのような感じ? 

 

「おお、なんかテンションあがるぅ!  この床の名前何にしよう?  やっぱりメ○ドック?  それともラビア○ローズ?  それとも所〇ョージの世田〇ベース?」

 

 ということで、軽トラは無料で修理できたのである。



 アンデッドコボルドを撥ね飛ばし、ベコベコにへこんだ軽トラのフロント部分が無事修復された。


 ダンジョンの発生時に、軽トラと一緒に巻き込まれていた車庫のコンクリート床。これもまた【異質化】していたことが判明し、その効果は破損した軽トラを修復してくれる基地ベースであった。


「車庫の床まで【異質化】するんですね~。不思議です。」


「ああ、たぶん建造物の一部が【異質化】したって例は世界でもほとんどないんじゃないのかな? まあ、そもそも乗り物軽トラがそうなったって話も聞かないけど」


「にゃー、謎が多いですのにゃ」


「一番の謎のお前が言うな」


「にゃー」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 とりあえずは、無事に軽トラが治った? 直ったので、攻略を再開する。


 現在地はいまだに地下の1階層。もっとも浅い階層だ。


 この階層の探索も、すでに半分ほど終えているとは思われる。疑問形なのは、マッピングはしているのだが、階層全体の広さがまだ判別していないからだ。


 これまでに攻略した玄室を、一つ一つ再度確認しながらポップする魔物を倒し、美剣みけの恩恵でとてもよくドロップする宝箱を、これまた美剣がひょいひょい罠を外してドロップ品を手に入れる。


 いつもと同じように攻略を進め、軽トラに乗ってダンジョンの通路を進んでいると、突然、オレのスマホの着信音が鳴り始めた。



「……知らない番号だな。詐欺とかだったら嫌だから出ないで無視しよう」


 そう言ってオレはスマホをインナーのポケットに仕舞い直した。のだが、なんだか違和感が否めない。



「あれ? 先輩? ダンジョンの中って、スマホとか使えないんじゃなかったですか?」


「!」



 そうだ! 今はダンジョンの中。


 ここでスマホが鳴るなんてありえない!



「なんで? なぜ? ホワイ? スマホが使えるんだ?」


 オレは仕舞ったスマホをもう一度取り出し、確認すると電源が入っている。本来は電源すら入らないはずなのに。そう思いながら無料通話アプリをタップする。



「真奈美、今スマホ持ってるか?」


「はい。一応は。」


 もしかしてと思い、スマホを使ってマナミサンにメッセージを送ってみる。すると、



    ピロリン♪



「わたしのも……使えますね。」


「ご主人、美剣にもメッセージほしいのにゃ」


「おまえスマホ持ってないだろ」



「にゃー、スマホ欲しいのにゃー」



 お前は外に出たらネコの姿なはずだが? ネコがスマホを持つなんてどこのネコ型ロボットだ。肉球でタップとかできるのかな?


 それに人型になれるダンジョンの中だとスマホは使えない。はずだったのだが――。



 まあ、美剣は稼ぎ頭だから、ダンジョン内でスマホが本当に使えるんだったら買うのはやぶさかではない。もし攻略中にはぐれた時とかスマホが使えると便利だからな。こんど買ってやろう。




 だが、

 


 『なぜ、ダンジョン内で使えないはずのスマホが使えるのか』

 



 この疑問を解いてからだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る