第111話 コカトリス。



 羊たちの躍進は続く。


 なんと、ミノタウロスを仕留めた羊たちは、土魔法を使って軽トラの道を作り出す黒魔羊組と、モフモフで相手の攻撃を無効化させてひつじ催眠で眠らせた後に風魔法ウインドカッターで頸動脈を掻っ切って仕留める白魔羊組の二手に分かれて、おのおの自分たちの受け持ち作業? に取り組み始める。




 ……やることがねえ。


 あっけにとられている間に、目の前にはミノタウロスのドロップ品の硫酸紙にくるまれた牛ブロック肉が1ブロック、また1ブロックと積み重ねられていく。


 ミノタウロスのドロップ肉は、どうやら部位ごとに出てくるらしく、中には牛タンっぽいのもちらほら見える。


 という事は内臓のホルモン系もあるのかな? オークもたくさん狩れば豚足とか落としていたかもしれない。



 ちなみに、ミノタウロスが持っていた大きなハンマーもそのままドロップ品となるようだ。兵隊さんたちの武器がまた増えたな。


 羊たちの働きはありがたいし素晴らしいのだが、なんか釈然としないオレは、牛肉狩りは羊たちにまかせ5階層への階段を探しに行く。






 

 軽トラカーナビのオートマッピングのおかげで、順調にマップを埋めていく中、突然軽トラを淡い光が覆う。


「今のは……レベルアップ? そうか! 羊たちが魔物を倒した経験値が軽トラにも流れ込んでいるのか!」


 なんということでしょうか。


 ひつじたちのおかげで、放置レベルアップまでできるようになってしまいました。





 これは……主役をひつじに譲って連載終了か?


 ふと、そのことが頭をよぎるが気にしないことにしよう。



 そうこうしている間に地下5階への階段を見つけ、オレたちは活躍している羊たちを置いて下の階層へと足を踏み入れる。


 え? 羊たちを置いていくのはかわいそうだって?


 だって、あいつらがいると軽トラの出番がないんだもん……。


 ノエル様だって、ここ数話セリフすらないんだよ! ちゃんと助手席に乗っているのに!






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 



 地下5階は灌木や長い草が生い茂るフロア。足元の視界が利かないので小さな魔物の奇襲に気を付けなければ。


 まあ、軽トラカーナビの索敵機能を常にオンにして警戒していれば大丈夫だろう。


 と、いきなり目の前の草の生い茂る中にうごくトサカのようなものを発見する。




「よし、トリニク発見だ!」


「ニワトリさん、って、いうの?」



「いや、似ているが違うやつだな」



 目の前にいるのは大きなニワトリ。だが、尻尾が蛇のような形をしている。


「あれは、コカトリスというらしい」


「こか、とりす、ですか。かわいく、は、ないです。」



 ニワトリに似ているというから、もしかして可愛い姿だったらトリニクにするのは忍びないなどとちょっとだけ思ってました。ハイ。


 もし可愛かったら羊軍団のほかにニワトリ軍団もできるのかなどとも思ってましたし。ええ。


 でも、見るからに禍々しい感じである。コカトリスっていうよりキメラっぽい。



 よし、さっそくトリニク狩りだ!


 


 いざ、草の間に見えるトサカに向かって軽トラを走らせようとしたところ、



「「「ヴェェェェェエェェェェエェェェェェ!」」」




「ひつじが!」



 おいていかれたと思った羊たちが必死で後を追ってきたようだ。なんかゴメン。


 そして、羊たちは目の前のコカトリスと相対する。




「クックドゥードゥードゥー!!」


 欧米か!



 いやいや、芸人さんのネタパクリをしている場合ではない。


 魔力の乗ったと思われる鳴き声と共に、コカトリスのトサカとあごの下のぷよぷよが激しく揺れる!


 やばい! あれは、何らかの特殊攻撃だ!



 コカトリスの特殊能力と言えば――


「石化攻撃か!」


 まずい。この無機物? の軽トラと、中にいるオレやノエル様やライムには石化攻撃は効かないだろうが、羊たちは生身だ!


 有能な羊たちが石にされてしまえば、回復能力ヒーリングもどきのある軽トラの荷台でも治せるのかはわからない。


 白魔羊達の羊毛には魔法防御能力があるが、コカトリスのアレは魔法ではなく特殊攻撃だ。魔法防御は役に立たないだろう。


 羊たちの石像ができてしまうのかと思ったその瞬間、



  パキッ


 羊毛の一部が石化した。



「へっ……?」



 なんと、羊たちは羊毛ガードで、羊毛の表層のみを石化させることでコカトリスの特殊攻撃を耐えきった!


 そして次々とコカトリスを屠っていく。





「……なんかもう、羊がいればそれでいいんじゃね?」



 目の前にはトリニクのブロック。モモニク、ムネニク、テバサキ、トリモツ……。



 まあいい。これで、当初の目的である牛肉とトリニクはゲットできたのだから……。



 これで、うまみたっぷりの合いびき肉ハンバーグを作ることが出来るし、ヤキニクメニューも充実するだろう。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 羊たちの本拠地、3階層に戻ってきたオレたちは目の前にうずたかく積まれた各種肉類を見上げる、


 どうやら別動隊がオーク肉も狩っていたらしく、牛、豚、トリニクのそろい踏みである。


「さて、この肉をどうするか……。ヤキニクとハンバーグだけというのもな……なにかバリエーションが欲しい所だが……。まあ、しばらくは収納に入れておけばいいのは確かなんだが」




 そんなことを思った瞬間、脳裏にある警告が発せられる。



「この先には、一部不快感を招く恐れのある描写が出ます! ご注意ください!」


「だんなさま? なに、を、いって、いるの?」



「アナウンスだ! 特に食事中の人と、ソーセージ大好きな人は閲覧注意!」




 ※ここから下は閲覧注意でお願いいたします※











 羊たちは、目の前の牛肉、豚肉、トリニクを絶妙なバランスでその口に入れる。


「羊が肉を食べるのか?!」


 いや、羊の肉食も怪しいが、目の前にいるのは魔羊。魔羊は、ダンジョン内の魔素をエネルギー源とするため、通常の食事は必要としないはずなのだ。


 すると、咀嚼を始めた羊たち。


 そして……飲み込んだ肉をまた口に戻して……


「反芻だ!」



 数度反芻していい感じに挽かれた肉が、羊の体内に入っていく。


「まさか……そんな」


 そして、羊の口から再度出てきたモノ。



「自分の腸を使ってソーセージを作っただと!」


 うん、見た目はアレだが食事をしない魔羊達の消化器官は清潔なはずだ。変な病原菌などあるはずがない。たぶん。


 『清潔クリーン』もかけるし。


 それに、ソーセージが後ろの消化器官から出てこないビジュアルもまあ、最悪の場合を想定すればまあ許容できる? だろう。



 そうして、地上に戻りスモークしたソーセージを使ったホットドックは人気の定番メニューとなるのだが、オレもノエル様もそのホットドックを食することは一度もなかった……。






 どうもすみませんでした。





 



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