第110話 ミノタウロス。


 魔羊たちのスペックがヤバい。


 ただでさえ、斬撃に強いのと魔法防御に強い魔羊毛を提供してくれていて、それだけでも十分すぎるほどだったのに、なんと今度は魔法を使って農作物の収穫までもやってのけた。


 あの土魔法と風魔法、レベル3くらいはあるんじゃないだろうか。


 そのレベルで、しかも総勢97匹という数で土塊を発射したり、ウインドカッターを炸裂させたりした日にはそんじょそこらの軍勢なんぞ一蹴しそうである。


 見ると、収穫を終えた羊たちは次の作物を植えるべく、黒魔羊が土魔法でうねを整えている。すると、白魔羊達が前足で穴をあけ、そこに風魔法で浮かせた種を次々と播いていくではないか。


「これって……オレ軽トラがいなくても全て自分たちでできるってことか……」



 何という事だ。これで、辺境伯領の食料事情がずいぶん改善されてしまうではないか!


 メオン男爵領と同様に、これから辺境伯領も各村を回って農地拡大をしなくてはと思っていたところだったので、うれしい誤算だ。


 まあ、領民たちの生活向上のためにもある程度回っては歩くつもりではあるのだが。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 この階層でやりたいことをやり終えたオレは、当初の目的に立ち返る。


 そう、4階層以下に出現すると思われる、牛肉とトリニクを収穫? しに行くのだ。



 なにやら魔羊達が土魔法を使って、どこぞの神殿のように周りを囲って異様に立派にしてしまった第4層へ下りる階段に軽トラを進ませる。


 すると、やはりというかなんというか、魔羊達の約半分が後ろをついてくるではないか。


「あれ? おまえら、階層またいで移動できるの?」


 つじちゃんがこくりと頷く。


 通常、ダンジョンの魔物はその生息階から別階層への移動は出来ないというのがデフォだと思うのだが。


 なんでも、スタンピード時には力を付けた魔物たちが階層を超えて出口からあふれ出ることが可能になるのと同じで、今の魔羊達はテイムと名付けで、魔素のチカラを潤沢に取り込むことが出来るそうな。


 え? なぜそんなことが分かったのかって?


 なんと、ライム君が、カーナビの液晶画面の「目的地検索」の入力画面をタッチして日本語の文章を書いて教えてくれたのだ!


 むむむ、魔羊達もヤバいがライムももっとヤバい。とうとう日本語まで習得しちゃったよ!



 ちなみに、ライムのボディではスマホの画面とか、タッチパネルのセンサーに反応しなかったのだが、先日お買い物アプリでタッチペンを買って手渡したところ器用にペンを操って問題なく使用できた。最初からこうすればよかったぜ。


 これで、ライムもスマホを使って魔法を行使できる!


 と思ったら、助手席にいるノエル様が自分の役割を奪われたような泣きそうな顔をしていたので、これからも魔法の行使はノエル様にお願いすると宥めてどうにか機嫌を直してもらった。


 あ……。ノエル様でもこうなんだから、ミネットやセレス様も悲し気な顔をしそうだなこれは……。うん、ライムにはタッチペンを封印してもらおう!






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







 地下4階層に移動する。


 魔羊達が後をついてくる。




 地下4階もフィールド型で、草原だった3階に比べ、こちらは林や森が散在している。どれだけ広いんだこのフロア。


 果てしない地平線があるかのように見える広大さだが、ダンジョンである以上はどこかに『階層のはじっこ』が存在するはずだ。


 実際、軽トラカーナビにも、探索を終えた地下3階のマップにははじっこが表示されていた。


 地下3階のはじっこは、なんというか、鏡張りになって地平続きに見えるような形で存在していた。


 はじっこの壁は、叩こうが軽トラでどつこうがびくともしなかった。まあ、当たり前か。





 地下4階を探索する。3階と違って樹々があるので軽トラでの移動はしずらい。

 

 なので、軽トラ『土魔法レベル5』を発動。

 

 樹々を根っこの土ごと寄せて軽トラの通れる道を作っていく。

 

 魔法の発動係はノエル様に任せたので、ノエル様もご機嫌だ。



 ダンジョンにある復元性によって、寄せた樹々が直ぐ元に戻るのではと危惧していたのだが、それならば3階の畑も元に戻っているはずだと思い直す。



 そうして、探索を続けていったところ、


「いたぞ」



 目の前には、どこから調達したのか大きな鉄製ハンマーを持った半人半牛の巨体の魔物、ミノタウロスが現れた。


「よーし、牛肉と言えばミノタウロスだからな!」



 オレの予想は見事に的中した! どうやらこのダンジョンの2階以降は『お肉』ダンジョンのようである。


 さっそく軽トラで倒そうか轢いて撥ねてと車体正面に捉えようとしていたところ、



 「「「「「メ”ェェェェェェェェェェ!!!!」」」」」」



 つじちゃん率いる魔羊達がミノタウロスに突進していった!





 縮まる羊と牛の距離!



「ンヴォォオォオオオオオオオオ!!!」



 振り上げられる大きなハンマー!





「あぶない!」



 ノエル様が叫びながら手で目を覆う!






  もふっ





 え?



 ミノタウロスの大きなハンマーの一撃は、白毛魔羊のもふもふ羊毛に威力を吸収されている。



 うわあ……



 おそるべし羊のもふもふパワー。


 あんな羊毛に包まれて眠れたら、さぞかしやわらかくてあったかいんだろうな~


 なんてことを思っていると睡魔が襲ってくる。


 ふわあぁぁぁ~、羊は睡眠魔法も使えるのか……zzzzz


 




 はっ!


 あぶない、居眠り運転するところだった。


 隣ではノエル様が船をこいでいる。うん、ほほえましい。



 で、羊たちの方を見ると、眠らせたミノタウロスの頸動脈を『風魔法ウインドカッター』で切り裂き、とどめを刺している。そして、ドロップされたブロック肉を丁寧に扱うべく、風魔法で集めた草の上に置いているではないか。





 あれ? 羊ってこんなバイオレンスな生き物だったっけ?



 

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