第1話 約束
「どうぞ〜、開いてるわよ〜、まってたわよ〜!」
不用心だなと、呼び鈴を鳴らすべきだったかなと思いながら一呼吸置いてドアを開け、合わせる顔が無いなと思い目を伏せつつ中に入り、
「先生…………駄目でした。」
目を合わす事ができずにおずおずと報告すると、いきなり駆け寄ってきた『彼女』に抱きしめられてしまった。
「!ちょっ、まっ、あっ?」
色々不味いものが当たってるんですけど、嬉しいけれど………………
暫く固まって、彼女の『思い遣り』に癒やされてから、必死に彼女を引き剥がした。
「も〜、『先生』は無しって言ったよね!」
正面から見つめられながら、詰め寄られる。
「じゃぁ、姉さん?」
「駄〜目だよ?名前で呼んで!」
「僕が勘違いしそうだから嫌だって言ったよね?」
「勘違いって、何をかな?」
おでこをくっつけながら、天然なのか養殖なのか?
「……………………沙友理さん、分かってて言ってますよね?意識して、寄ってますよね!」
名前で呼ばれて、パァ〜っと明るい笑顔で、
「敬語は無しって!」
「!無理!!」
吐息が近すぎます!笑顔が眩しすぎます!
少しでも引き寄せれば、唇を合わせられる位に近いです!
そう、色々と無理なんだからね!
『彼女』は僕の初恋の人。
『女性』として意識した、初めての人。
彼女もそれを知っていながら、僕をからかってるんだけどね。
でも、叶わないんだ。
彼女は、長兄の婚約者だから。
何処で知り合ったのかは話してはくれないけど、いつの間にか長兄が沙友理さんのスポンサーになっていて、気がついたら婚約者として家族に紹介されていた。
僕が沙友理さんを意識したときには、もう手の届かない処へ行ってしまっていたから。
「も〜、ほんっとに、合格をっ、期待してっ、色々と『楽しみに』していたんだからねっ!」
もう一度、ギュ〜っと抱き締められながら、耳元で一言ずつ、区切るように囁かれた後、耳たぶを甘噛みされてしまった。
「……………………えっ?!」
それって、『あの約束』を、本気にしていてくれたって事だよね?
冗談のつもりだったのに。
いや、それは、嘘だね。僕は、本気だったんだ。
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