第44話 黒幕には容赦しない

 インターネットカフェをあとにした俺は、その足でイザナギの防犯システム管理会社の目指す。


 着慣れないスーツをまとい、偽造した社員データと社員証を使って、会社に侵入。社内の防犯カメラにも映らないよう細工済みなので、俺は堂々と問題の社員がいる部署へと立ち入ることが出来た。


 すぐに該当の社員を発見し、静かにその後ろに立つ。


「退魔師との密会の件で話がある」


 周囲の人間に聞こえないよう、小声でそう伝えると、彼は観念したのか、大人しくついて来てくれた。


 連れて行った先は、この時間だと社員の行き来がほとんどないフロアーの一画。ここならば人目につくこともあるまい。


「おっと、こちらの顔は見るなよ? 極秘任務だからな。何かあれば、あんたの首が物理手気に飛びかねない」

「……わかった」

「単刀直入に聞く。あんたが協力したのはどこの誰だ?」

「東雲と名乗っていたが、本名かどうかはわからない。会う時は必ず顔を隠していたし……」

「そんな怪しい奴に協力したのか?」

「金払いがよかったんだ。会社の給料だけじゃいろいろと厳しかったし……」


 彼に家庭があることは、事前の調べでわかっていた。家庭を支えるために、何かと入用だったというのはわからないでもない。


 しかし、それとこれとは話が別。彼の行動の結果として、天理あまりが命を落としているのだ。


「あんたのおこないの結果として、人が死んでるんだ。事情がどうであれ、いずれあんたは司法の裁きを受けることになる」

「そんな! それじゃあどうすればよかったんだ! いくら働いても給料は上がらない! 仕事柄、副業も出来ない! それでも家庭を守ろうと必死だったんだぞ!」

「それに関して問答をするつもりはない。俺の管轄外だからな」


 同情の余地はあれど、かばいだてするつもりはない。そもそも先に仕掛けて来たのは向こうだ。俺が情報を世間に流せば、彼はそう遠くないうちに警察に捕まり、法の下で裁かれる。退魔師が関わっていたという点は報道されるかわからないが、それはそれ。俺のやることは変らない。


 俺はあらかじめ用意しておいた退路を使って、素早くその場をあとにした。彼の目からは、俺の姿が突然消えたように見えたことだろう。


 会社の敷地外まで来てから、俺は本土のある方角を見据えた。


「東雲か。なかなかの相手じゃないか」


 東雲家は、五柱に次いで実績と影響力を持つ退魔師の一族の1つ。彼等が五柱入りを狙っていても何ら不思議はない。東雲家ほどの影響力があれば、偽名など使わなくても、大抵のことは握りつぶせるだろうし、これはビンゴと見ていいだろう。


 とは言え、今回は相手が悪かった。まさか東雲家も、俺が単独でここまでの情報収集が可能だったとは思うまい。八神やつがみ家が動いていない以上、自分達の悪事は露見しないと踏んでいることだろう。


 俺は早速、本土に渡る準備を済ませ、あらゆる情報操作を行った上で、本土行きの船へと乗り込んだ。


 基本的に、俺は管轄であるイザナギから出ることは許されない。なので、このことが周囲に露見すれば、俺も立場が危うい訳だ。この件に関しては夕菜も参加したかっただろうが、もちろん連れて行くことはしない。彼女には五柱の一人として、輝かしい道を歩んでもらう必要がある。こんなしみったれた復讐なんかで、その栄光の道に陰を差すのはもったいない。


 そう。これは俺の個人的な復讐。誰に知られることもなく果たされる、後ろ暗い闇の世界の行いだ。


 本土に到着した俺は、その足で東雲家のある東北地方を目指す。完成した転移術式を使えば、帰りは一飛びで済むので、時間的アリバイも完璧。俺が東雲家を襲撃したと言う事実は、誰にも知られることはないだろう。


 そして翌日。東雲家は、文字通りこの世から姿を消した。後に残ったのは広大な面積の更地。襲撃者の痕跡も一切なく、退魔師界隈は大層騒いだが、結局犯人は不明のまま。


 俺は早々に転移術式でイザナギへと舞い戻り、そ知らぬ顔で日常へと帰った。騒がしかった天理のいなくなった日常は、何とも物足りなかったが、これもしばらく知れば慣れてしまうのかと、小さくため息をつく。


 そんな俺の視線の先では、天理の席に飾られた花が、美しいきらめきを放っていた。

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