第6話 女神による凡人補正は伊達じゃない!
そしてやって来た、巫力測定の日。車に乗せられた俺は、うちに勝るとも劣らない立派な門構えの家へと連れて来られていた。門をくぐった瞬間に、何やら不思議な感覚に陥ったが、今はそれどころではない。
「さぁ、朝陽君。こちらへ」
五柱の筆頭である
今から俺は巫力の測定を受けるのだ。今から落胆する父の顔が脳裏に浮かび、申し訳ない気持ちになる。
「心配することはないぞ、朝陽! お前は赤ん坊の頃から、何かと強い力を使っていたからな! 巫力もさぞ高いに違いない!」
申し訳ないが、父よ。それは俺が、これまでの知識を生かして、何とかやりくりして来た結果であって、あなたの息子の巫力はせいぜい1500程度。期待には、たぶん
「では、朝陽君。これに触れてくれるかな?」
目の前に差し出されたのは、一点の曇りもない見事な水晶球。サイズも大きく、相当高価なものであることがわかる。そんなものに素手で触れていいのだろうかと躊躇するが、触れと言われているのだから、ここは指示に従った方がいいだろう。
俺が両手で水晶球に触れると、水晶は淡い光を放った。今までのチート能力持ちの俺だったら、ここで視界が白飛びするくらい強烈に発光して、そのあと水晶が割れてしまうといった感じになっただろうが、今回は淡く光るだけ。光の色は白だろうか。それが何を意味しているか、正確なところはわからないが、これはハズレの予感がする。
「……無系統、第1位階。巫力は1750ですね」
「そんな馬鹿な!? 第1位階なのは、まだ子どもだからと見過ごすにしても、巫力1700代はあり得んだろ! これではちょっと霊感のある一般人と変わらないではないか!」
父の様子を見る限り、俺の能力の低さに驚いているらしい。まぁ、凡人であることを願ったのは他でもない俺自身なのだから、これは予定調和なのだが。
「この子は生まれたばかりの頃に、俺の張った結界をコントロールして見せたのだぞ!? 俺が結界に込めた巫力を操れたのだから、最低でもそれと同じくらいの巫力を持っているはずだ!」
なるほど。この世界においては巫力の数値の高さだけでなく、それを操る能力も『力』に含まれるのか。昔から莫大な力を操ることが多かったから、その時の感覚が残っていたのかも知れない。
とは言え、巫力の絶対値そのものが少ないのだから、いかに多くの巫力を扱える才があったところで無意味。修行によって巫力は伸びるらしいが、いくら何でも一般人レベルから父親の数値に届くことなど、まずあり得ないと言える。
「しかし計測の結果が間違うことなどありません。残念ですが、朝陽君に退魔師としての才能はないと言わざるを得ない」
すまない、父よ。こちらもまさか転生に失敗するとは思っていなかったのだ。
「まだ才能が開花していないだけと言う可能性は!?」
「ゼロと断言は出来ませんが、それはあくまで可能性の話です。天文学的な確率の中に、そういった未来がある可能性は否定出来ない。それだけのことですよ」
よほど俺の能力に自身があったのだろう。父はがっくりと肩を落とし、その場に膝を着いた。こんな風に父親を落胆させるくらいなら、能力を引き継いだままでもよかったかも知れないが、今更それを考えたところで、あとの祭りである。
「何と言うことだ! 巫力の遺伝は
ちょっと待て。それは初耳だ。
巫力の遺伝が長子、すなわち一番最初の子どもにしか起こらないというのであれば、俺が先日考えていた、有能な弟という望みは、完全に絶たれたことになる。父が落胆する訳だ。八神家の血筋が、自分の代で絶たれたに等しいのだから。
「お父さん。ごめんね。僕がいけないんだよね」
俺のわがままのせいで、一つの有能な血族を絶やしたとあっては、申し訳ないにもほどがある。流石にこれは、謝罪して許されるものではない。
「――っ!? いいや! 朝陽が悪いのではないぞ!? もちろん芳乃のせいでもない! 俺が不甲斐ないのが悪いのだ!」
そう言った父が懐から取り出したのは、いつも護身用にと持ち歩いている小刀だ。何をするのかと思えば、父は上半身の服を脱ぎ捨て、小刀の切っ先を自らの腹に向けたのである。
「
俺の父の名を呼び、天宮家のご当主が止めに入った。しかし、腕力では父の方が上なのだろう。切っ先の進行を止め切れず、刃の先端がわずかに鍛え上げられた腹筋を貫く。
「止めてくれるな、
『それじゃあ、その命。僕がいただいてもいいですか?』
謎の声が、どこからともなく響いた。
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