第4話 獣型の妖
あれからしばらく時間が過ぎて、俺は3歳を迎えていた。
この3年間、乳幼児なりに情報収集を続けた結果わかったのは、この世界は確かに地球で、2020年代の日本であるということだ。正確には、今が2023年。俺が生まれたのが2020年のことなので、Z世代の更に下と言うことになる。
「流石に3歳でスマホは買ってもらえないんだよな。このあの2人の考え的には、何歳からなら持たせてもらえるんだろう」
妖と呼ばれる脅威がある以外は、俺の知る日本と変らない。誰もがスマートフォンを扱い、AIが普及し始めた世界。それだけの科学文明の発展した社会にありながら、妖という存在は科学的に解明出来ていないと言う。
現代兵器が意味を成さず、オカルト的な術を用いるしか対処法がないというので、我が八神家を始めとした退魔師の家系が、それなりに強い発言権を持っているようだ。
そして、そのオカルト的な術の根幹にあるのが、『
さて、そんな俺の巫力がいかほどなのかという話だが、数値に換算すると、およそ1500ほど。あくまで周囲から得た知識を元に、自分で数値を割り出しただけなので、これが正しい数値なのかはわからない。
退魔師の家系では、物心がつき、自我がはっきりする3歳頃になって、初めて巫力の数値を計測すると言う。現状、父の巫力は俺のそれに比べて1万倍以上。流石は退魔士の中でも特に優れているとされる『
「お母さん! お外行っていい?」
「まぁ、朝陽ったら。本当にお外で遊ぶのが好きね。いいけど、門の外に出たらダメよ?」
「は~い!」
巫力は修行によってその数値を伸ばすことも可能らしいが、俺の今の巫力値は、恐らく退魔師としては凡人のそれ。巫力というエネルギーの特性的に、転生を繰り返してきた俺の巫力はとんでもないことになりそうなものだが、そこはオルフェリーゼによる凡人補正が、きちんと効果を発揮しているようだ。
このまま巫力の測定が行われれば、たぶん俺は、父親の才能を受け継がなかった不出来な嫡男のレッテルを貼られることだろう。
ただの一般人として生まれたのならともかく、今の俺の血筋は間違いなく八神家のもの。退魔師の頂点と言われる五柱に名を連ねる八神家から能無しが生まれたとあっては、両親に対する風当たりも強くなるはず。俺の能力に関しては俺のわがままでしかないので、それで両親が責められるのは避けたいところだ。
「て言うか、この家広過ぎだよな。母屋だけでもちょっとした旅館レベルなのに、庭の広さが半端じゃない」
その巫力測定を数日後に控えたある日。俺は家の庭でいつものように、過去に使ったことがある技の再現に関する研究に没頭していた。
巫力量が一般人並みと言うことは、巫力量に頼らない戦闘技能を確立することが重要である。幸い、体術など、身体を動きだけで再現出来る技も多いので、それはそのまま使いこなせるようトレーニングをするだけ。今の幼い身体では無理でも、鍛えておけば成長とともに使える日が来るのだから、鍛錬は欠かせない。
「まぁ、おかげで走り込みやら木登りやらで体力づくりはしやすいから、環境としては最高だな」
母親には遊びと称して家の外に出る許可を貰い、家の周囲を囲む豪華な
過去にいた世界で使っていた、魔力や神性気など、系統の異なる力がこの世界でも使用可能なら、それが例え凡人レベルの力しかなくとも、それなりの術が使えるし、使いどころもあるだろう。その辺りがどのように設定されているのか。肝心なところでヘマをやらかすあの女神のことだから、細かいところは案外雑に組まれているはず。
そう思って、この年齢になるまで検証を続けた結果。どうやらそれぞれ力は、微量ながらこの世界でも流用が可能であることが判明。俺がこれまでに
もちろん、それぞれのエネルギーの保有量は凡人レベル。今までの世界なら見向きもされない程度の雑魚数値であるものの、この地球においてはどれも未知のエネルギーだ。もちろん科学的に解明することは不可能だろうし、父が気付いていない点を踏まえれば、退魔師にも俺の能力を測ることは出来ないと思われる。
「魔力に、神性気、マナ、錬気功。これだけ使えれば、あとは大抵応用が利くし、今の段階では充分か?」
とりあえず今使える技や術はストックしておいて、実際に試す機会があったら使ってみるとしよう。
走り込みを一通り終えた俺は、そのまま家の敷地の中で一番高い木に登って、周囲を見渡す。そこに広がっているのは、大都会の一画。俺の知るそれとは少し違ってはいたものの、ここは間違いなく日本の首都たる東京都なのだ。
「せっかくだから、早く成長して日本の娯楽を楽しみたいな。地元とは言え久しぶりな訳だし、観光も出来そうだ」
などと考えていると、玄関正面の門の方から、嫌な気配が進入して来たの感じた。この気配は間違いない。妖のものである。
またしても父の結界をすり抜けてきたと言うことは、結界の隙間を縫えるほどの小物か、それとも結界の術式を知っていて、その隙を突いてきた、よほどの大物化のどちらかだ。
気配の大きさから察するに、妖の強さはそれほどでもない。しかし、父の結界を用意にすり抜けられるほど小物とは思えなかった。前の時も思ったことだが、これはもしかしたら、八神家をよく知る何者かが放った
流石に妖の気配に気付いたのか、母が庭に出て来て叫ぶ。
「朝陽! 朝陽、どこにいるの!?」
「ここにいるよ。お母さん!」
「朝陽!? そんなところにいないで、こっちへいらっしゃい!」
「大丈夫だよ、お母さん! このくらいの妖なら、今の僕でも戦えるから!」
俺は見た目は大型犬に近い妖と対峙した。体の大きさで言えば、相手は俺よりも大きい。それでも、今の俺にとっては、いい実験材料だ。これまでに再現に成功した異世界の技を試す相手にはちょうどいい。
俺はいつでも駆け出せるよう、両足に意識を込めつつ、呼吸を相手の妖に合わせ、タイミングを計った。
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