第50話 とことん善行を施してみよう! ①
俺はマリーやミリカトルと共に、領都から馬車で3時間ほどあるフィガナ村へやってきていた。
この村は農業が盛んであり、領内全体に様々な農作物を供給してくれている。
そんなフィガナ村だが、ここ数週間ほど“とある問題”に頭を悩まされているらしい。
以前から度々作物を狙った魔物が出現していたのだが、最近はその強さが増し追い払うことができなくなったのだとか。
十中八九、邪神ミリカトルの封印を解いた影響が出ているのだろう。
そのため問題を解決するべくやってきた俺たちの前に、フィガナ村の村長が現れる。
村長は俺を見て感極まったようにプルプルと震えていた。
「まさか領主様が自ら、このような村に足を運んでくださるとは……感謝のしようもありません」
「気にするな。どんなものであれ、領民の悩みを解決するのが領主の務めだからな」
「おおっ……! なんと素晴らしいお言葉か……!」
普段なら何があっても口にしない言葉をかけ、村長の信頼度を上げておく。
これはさぞ、俺の評判が下がることだろう。
今からこの評価が反転するときが待ち遠しくなり「ククク」と笑みを零すと、隣にいるミリカトルが引きつった表情を浮かべる。
「なんじゃ? 言っていることは聖人のはずなのに、やけに禍々しい何かを感じるんじゃが……」
「何を仰っているのですがミリカトル様。ご主人様はいつ何時でも私たちのためを思い尽力してくださる素晴らしいお方です。お言葉を慎んでください」
「こっちはこっちで、なぜかわらわに当たりがキツイんじゃが……」
情けない声を漏らすミリカトルを無視し、俺は被害の出た畑を見渡した。
土は掘り起こされ、作物は幾つも食い荒らされている。
残された魔力の痕跡から、出現した魔物は恐らくCランク以上。
ただの村が保有する戦力で防衛するのは確かに難しいだろう。
ならどうするか?
答えは簡単。外部装置によって村の戦力を底上げしてやればいい。
「ミリカトル、アレを用意しろ」
「うむ」
俺の指示に従い、ミリカトルが人の高さほどある巨大な固定砲台を畑の横に設置する。
それを見た村長は目を丸くした。
「領主様、これはいったい……?」
「溜め込んだ魔力を放ち魔物を殲滅するアイテム、通称【
「なんと……!」
砲身以外動かせないのが玉に瑕だが、耐久性と威力は確かなもの。
構造を設計したのは俺で、実物自体はミリカトルが一晩で作ってくれた。
設置された【
「これを使うのには魔力が必要なのですよね? 我々の村に魔力を保有している者は少なく、いたとしてもほんの僅かなのですが……」
「それについても問題ない。これを見ろ」
「……それは魔石ですか?」
「ああ、その通りだ」
ただし、ただの魔石ではない。
通常の魔石は内部に蓄えた魔力を消費すればそれっきりだが、これは新たに大気から魔力を吸収することができる特殊仕様。
つまるところ、現在レンフォード領内に有り余っている過剰魔力をあえてエネルギー源として利用してやるのだ。
過剰魔力を消費し、難敵である魔物を殲滅するというまさに一石二鳥の作戦。
これを領内の各町村に設置してやれば、そう遠くないうちに過剰魔力問題は完全に解決するだろう。
ちなみにこの魔石は特殊仕様なため作成にはかなりの手間がかかるのだが、ミリカトルが一晩で作ってくれた。
さすが賢帝邪神を名乗るだけのことはある。
この調子で【
「それにしてもまさか、ミリカトルが俺のお願いにここまで全力で応えてくれるとはな。生かしておいて正解だった」
「記憶を捏造するでない! おぬしが工房にわらわを閉じ込めた上、明日までに作れと命令してきたのであろうが!? しかもずっと見張りおって! 気が気ではなかったわ!」
「ご主人様と工房で一晩中二人っきり……絶対に許せません」
「おいクラウスよ! おぬしの従者がさらに黒いオーラを纏っておるんじゃが!?」
暗殺者なんだからそりゃ黒いオーラくらい纏うだろう。何を言っているんだコイツは。
ミリカトルの意図が分からなかった俺は、ふとあることに気付き前方に視線を向ける。
「話をすればさっそくか」
畑の奥。そこには唸り声をならしながらこちらを睨む狼型のCランク魔物・レッドファングがいた。
今にも畑の食料を奪おうとしているみたいだ。
「試験運用の時間だな」
村長に魔石を渡した後、【
村長は戸惑いながらもその方法に従い、魔石を指定箇所に設置した。
あとは砲身を敵に定め、スイッチを押してやれば――
「
「ッッッ!? ガルゥゥゥ!?」
――刹那。
砲身から圧縮されたレーザーが解き放たれ、いともたやすくレッドファングの胴体を貫いた。
そのまま崩れ落ちるレッドファングを見て、村長が目を輝かせる。
「なんと! 我々が力を尽くしても追い払えなかった魔物がこんなに容易く倒せるとは!」
「これで問題は解決だな」
「はい! 領主様にはなんとお礼を申し上げればよいことか……」
「いらん。民が安全に暮らせるのであれば、それ以外に俺が望むことはない」
「りょ、領主様……!」
感激した様子の村長を見てミッション成功を確信した俺は、その場で踵を返す。
この調子でどんどん領民の信頼度を上げていくとしよう。
評価が逆転した時が楽しみだ。
「よし、次に向かうぞ」
そうして俺はマリーとミリカトルを連れ、次の現場に向かうのだった。
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