第27話 国王に反意をアピールしよう!
「では、そろそろ本題に入るとしようか」
そう前置きをした後、国王アルデンは改めて口を開いた。
「そうだな。まずは例の件について話すとするか……レンフォードよ、あの招待状を送るという判断には、さぞ勇気が必要だったことだろう」
……ふむ。
確かに紅茶の染み付き招待状をそのまま返却するなどという、
それを実行するには多大なる勇気がいるだろう。
――もっとも、それは小悪党の理論だ。
俺が目指すのは悪のカリスマ、その程度のことを恐れたりはしない。
なんならテンションが上がったまま、気分よく送り返したくらいだ。
だからこそ、俺は迷うことなくこう答える。
「いいえ、決してそのようなことは。あの程度、私にとっては赤子の手をひねるがごとき容易な対応でございます」
「なんとっ!」
アルデンは驚愕に目を見開いた。
それもそのはず、今の俺の言葉を要約すると『貴族を敵に回すなんて怖くないし、むしろこっちからガンガンやってやる!』という意味になる。
真正面から敵意を示された経験などないだろうし、アルデンが驚くのも当然だ。
その反応を見て、俺は内心でほくそ笑む。
(王都に召還されると聞いたときはどうしたものかと思ったが、せっかくの機会だ。これを機にとことんまで、国王の心証を悪くしてやる!)
目的通り場が進んでいることに満足していると、アルデンはようやく口を開く。
「……そうか。汝の考えは分かった。我は少々、汝を侮っていたようだ」
ほう、どうやらアルデンは俺の内側に潜む禍々しい感情にようやく気付いたらしい。
なかなか見どころがあるじゃないかと、俺は内心でアルデンを評価した。
そんなことを考えている間にも、話は進む。
「ひとまず、例の件についてはこの程度でいい。次は魔王軍幹部討伐に関してだ」
む、きたか。
身構える俺に対して、アルデンは告げる。
「魔王、およびその配下である幹部は我々にとっての宿敵。しかしその強大さのあまり、これまで各地で敗戦を重ねてきた。そんな中で訪れた朗報。汝には貴族・平民問わず王都にいる多くの者が感謝しておる」
「っ!」
くそっ、まさか王都でも既に俺の評判が上がっていたとは。
絶望のあまり
アルデンは続ける。
「そのため、汝には多大なる褒賞を与えたい。汝の方から、何か欲しいものはあるか?」
「……欲しいもの、ですか?」
「そうだ」
想定していなかった質問に、少しだけ動揺する。
俺の意見など聞かず、普通に金品やらが与えらえるものだと思っていたからだ。
(いや、待てよ)
逆に考えれば、これはチャンスかもしれない。
ここで戦果に余る褒賞を求めれば、俺の欲深さがアルデンにもよく伝わることだろう。
さらに、それがアルデンたちにとって不敬な内容であればあるほどいい。
必死に考え抜いた末、俺の天才的頭脳は一つの答えを導き出した。
「それでは、一つだけございます」
「何だ、言ってみよ」
俺はアルデンの目を見つめ、真剣な表情で告げた。
「私は、この国で最も広大な領土を求めます」
「「なっ!?!?!?」」
その言葉に反応したのはアルデンだけでなく、隣に控えているウィンダムもだった。
しかし、そうなるのも当然だろう。
この国で最も広大な領土を持っているのは誰か?
それは当然、国王アルデンである。
王家は王都はもちろんのこと、国の各地に直轄領を保有している。
俺の今の発言は『いずれその座を奪ってやる』という、王家への宣戦布告そのものと捉えることもできるのだ。
これは不遜を通り越して、処刑すらありえる行為。
冷静になって考えてみると、ちょっとはしゃぎすぎたかな? と思う俺に向けて、アルデンは震える声で話しかけてくる。
「……レンフォードよ、それは心の底からの言葉か?」
今ならまだ、冗談で許してやるという提案だろう。
しかし一度発言した手前、こちらとしても引くつもりはない。
ここで退く奴が、ラスボスになんてなれるものか!
「ええ、もちろんでございます」
「……そうか」
アルデンは頭を抱えて、椅子の背もたれに寄りかかる。
俺にどんな罰を与えるべきか、必死に考えているのだろう。
まあ、当然こうなるだろう。
まさか、この要望に応えてくれるわけもないし――
「……その要望に対する可否はすぐに答えられん。もう数日、考える時間をくれ」
――え? もらえる可能性あるの?
まさかの展開にびっくりしている俺の前で、アルデンは告げる。
「それでは今回の謁見はここまでとする。レンフォードよ、退室せよ」
「はっ」
最後だけよく分からない展開になったが、とりあえずこれで謁見は終わりのようだ。
まあ、できるだけのことはした。
そう悪いことにはならない――否、悪いことにしかならないだろう(悪のカリスマ的にはこれで正解)。
俺は満足しつつ、謁見の間を後にするのだった。
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