第26話 王城で国王に会おう!
よく分からない貴族との戦闘後。
正体がバレないよう十分に距離を置いた後、俺はきょろきょろと周囲を見渡した。
「さて、ここはどこだ?」
逃げるのに夢中だったため、場所を把握できていない。
既にマリーとの待ち合わせ時間は過ぎているし、待たせてしまっていることだろう。
そんなことを考えていると、
「ご主人様」
「っ」
背後から呼びかけが聞こえたので振り返る。
するとそこにはマリーが立っていた。
その事実に、俺は少し驚く。
「マリーか。指定した待ち合わせ場所はここではなかったよな?」
「はい。しかし時間に経ってもご主人様がいらっしゃらないので、私の方から来させていただきました」
「そうか」
“探した”、ではなく“来させていただいた”という言葉に少し違和感を覚えたが、それ以上に気になった点があった。
「服を買ったのか」
「はい」
マリーはフードのついた、少し大きめのコートを身に羽織っていた。
武具店や薬屋に行っていたはずでは? と疑問を抱く俺だったが、すぐその意図に気付く。
確かにこれだけ大きめの服装なら、懐に暗器や毒も仕込みやすいことだろう。
感心感心。
俺は満足げに告げる。
「ふむ、いいな。(暗殺者として)よく似合っている」
「っ! は、はい! ありがとうございます、ご主人様!」
パアッと、顔を輝かせて頷くマリー。
そんなやりとりをした後、俺たちはサーディスに用意してもらった宿屋に向かうのだった。
◇◇◇
翌日。
俺とマリーは言われていた時間に王城へ向かった。
ちなみに今はマリーも普段通り使用人用の服装だ。
さすがに王城で暗殺を疑われたくはなかったのだろう。
王城の前にたどり着くと、外にサーディスが立っていた。
「お待ちしておりました、レンフォード子爵」
「ああ」
そしてサーディスの案内を受け、俺たちは王城の中を歩いていく。
その途中、ふとサーディスが「そういえば」と話題を振ってくる。
「ローラさんたちは昨日、魔王軍幹部を封印した魔道具を提出後、王国騎士団の特訓に参加しています。お互いにとっていい刺激になっているようですね」
「そうか」
昨日から顔を見せないと思ったら、そういうことか。
まあ何でもいいが。
それよりも、だ。
王城の中に入ってから向けられる、貴族たちからの視線の方がよっぽど気になっていた。
というのも、
「もしかして、あの方が噂のレンフォード卿か?」
「素晴らしい戦術を部下に与え、見事に魔王軍幹部を捕らえたという“あの”?」
「いや、私は単独で幹部を倒したと聞いたぞ」
「いったいどの情報が本当なんだ!?」
彼らのそんな会話が次々と聞こえ、俺のはらわたは煮えくり返っていた。
ここでいきなり魔術を放ったら、どれだけ愉快なことになるだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、ようやく【謁見の間】に到着する。
大きな観音開きの扉の前で立ち止まったサーディスは、マリーに視線を向けた。
「申し訳ありませんが、ここから先は子爵のみが入室を許されています。使用人の方は別室で待機してもらいます」
「わ、分かりました」
マリーは少しだけ残念そうな表情を浮かべた後、王城に仕える使用人に案内されて別室に向かっていった。
ここから先は俺一人だ。
「では、中にどうぞ」
「ああ」
サーディスの案内を受け、俺は部屋の中に入っていく。
するとその時、
「待て! なぜ奴がこんなところにいる!? どけ、私にアイツを処分させろ!」
「お待ちください! これからあのお方は陛下に――」
「……?」
何やらつい最近、どこかで聞いた声がしたような気がしたが、まあ俺には関係ないだろう。
そう判断し、俺は部屋の中に入っていった。
謁見の間はとても広く、数十人は中に入れそうなほどだった。
しかし驚くことに、現在は俺を除いて二人しかいない。
一人は豪華そうな椅子に座る、
名を、アルデン・フォン・ソルスティア。
ソルスティア王国の国王であり、ゲームにも登場する重要人物だ。
(思えば、こっちの世界に来てからゲームのキャラクターと出会うのは初めてか……)
その事実に俺は内心で感動しつつ、アルデンの前まで進み片ひざをついた。
すると、そんな俺に対してアルデンは言葉を投げかけてくる。
「よく来てくれた、レンフォード。顔を上げよ」
「はっ」
言われた通り顔を上げた俺は、アルデンの隣にいる人物に気付く。
その人物もまた、『アルテナ・ファンタジア』に登場するキャラクターだった。
ただ、疑問点が一つ。
(あれって多分、ウィンダム侯爵だよな? なんで眼帯をつけていないんだ?)
ウィンダム侯爵は作中において、眼帯をつけた隻眼の貴族。
だというのに、彼の両目は未だ健在。
もしかしたら彼の目が奪われるのは、これから先なのかもしれない。
そんなことを考えながら眉をひそめる俺を見て、アルデンは告げる。
「ふむ、どうやら我々しかいないことに驚いているようだな。普段なら他の者たちも控えているため、当然の反応であろう」
驚いているのはそれが理由ではないのだが……
だけど確かにそのことも気になっていた。
ファンタジー作品においてこういった褒賞やら勲章授与やらの場合、左右にずらりと騎士やらが並んでいるイメージがあったからだ。
すると、アルデンはすぐに答えを教えてくれる。
「今回は魔王軍幹部捕獲の他、
「例の件……」
言われて思い出す。
例の件とは、俺がウィンダム侯爵に対してパーティーへの招待状(しかも紅茶の染み付き)をそのまま送り返した出来事のことだろう。
もともとサーディスがレンフォード領にやってきたのも、その件に対して罰を与えるためだったはずだ。
しかし、今回はあくまで幹部捕獲に対する褒賞の場。
そんな中で俺の罪に触れるわけにはいかないと考えたのか。
俺は別によかったのに。
「では、そろそろ本題に入るとしようか」
そう前置きをした後、国王アルデンは改めて話し始めるのだった。
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