第32話 嘘が信頼を崩す
残酷な事を僕からは言うのはなんか嫌だった。
取手がこの扉にないのはその扉の取手で自傷してしまう人がいるからだ。
精神科には『いつき』さんの体にはないが、自傷をしている人が多いのだ。
何とか彼らは自傷をしようとする為、こう言った作りになっていると、満くんに言ってしまえば彼は衝撃を受けるのではないか。
中々にそれは言えなかった。だから、僕は誤魔化してしまった。
「古い作りだからね。仕方ないんだ」
「・・・僕、帰りますぅ。仕事ありますし」
しまった。
彼とせっかく築いた関係がこの誤魔化しで無くなってしまった。
ちゃんと本当のことを言うべきだった。
言葉と、挙動で簡単にこちらの意図を読み取ってしまう『解離性同一性障害』と向き合うのはつくづく難しいものだと考えさせられた。
満くんはもと来た道に戻っていく。その足取りは早く、自分の部屋番号も知らないはずの彼が何故か、『いつき』さんに割り当て得られた部屋にするりと入っていった。この一瞬で部屋番まで覚えてしまっていたのか。
僕は見限っていたのかもしれない。『解離性同一性障害』のことを。
もっと慎重に彼らと向き合う必要があるようだ。満くんは仕事中、一言も話さなかった。
結局、今回の収穫は『満』と言う仕事ができる人格がいる事と、彼と廊下で話したこと、趣味の話や、彼の年齢ぐらいしか分からなかった。
彼はPCが好きな事、年齢は十四歳との事。そんなまだ中学生の彼が、『仕事ができる人格』とは到底思えないのだが、この障害の意外な所は『人格は年齢によらず、みんな能力が高い』とこである。
づくづく人体の不思議を感じさせられる。
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