争いの街
青月クロエ
第1話 プロローグ
※この作品は同世界観の完結済中編「オジギソウ 」(https://kakuyomu.jp/works/16817330657236514315)の続編です。オジギソウ既読の上で読んでいただけたらと思います。
マリオンは激しく息を切らしながら、ひたすら走り続けていた。
少女と見紛う美しく整った顔は、散々殴られたせいで無残に腫れ上がり。
疾走による振動が殴られた顔や全身に響き、更なる痛みの波が押し寄せてくる。
それでもかまわず駆ける。駆ける。駆け続ける。
だって、今、そんなことに構っていられなかった。
お願い。どうか間に合って。
僕のせいで、皆が傷つけられるようなことだけは。
命に代えても阻止しなければ──
――遡ること、数か月前──
「マーリオン。たまにはさぁ、気晴らしに遊びに行こうぜ??」
仕事がひと段落つき、少し遅めの昼食を食べ終わった時だった。
義理の姉のシーヴァと共に空いた皿を片付けようとした矢先、背の高い赤毛の青年、ランスロットが入り口からひょいと顔を覗かせた。
「えぇっ、今から?!」
「おう、最近評判のコーヒーハウスに一緒に行かねぇか??」
ランスロットはそばかすが残る頬を持ち上げ、大きく笑った。いかにも丈夫そうな、真っ白な前歯を覗かせて。その笑顔は、彼の気風の良い性格が滲み出ている。
「今日はひとまず上がりなんだろ??」
「うーん、僕はいいんだけど……」
ランスロットと入り口に立ったまま、マリオンは皿を洗い始めたシーヴァと、テーブルに着いたまま幼い息子の面倒を見ている養父のイアンにそっと視線で伺いを立てる。棺桶造りは終わったにせよ、家の手伝いや子守りをしなければならない。
「別にいいわよ。ランスと遊びに行って来たら??」
マリオンの視線に気づくとシーヴァは皿洗いを一旦中断させ、エプロンで手を拭きながら、イアンへ視線を巡らせる。
「ねぇ、イアン」
「は??」
「ちょっと、イアン。今の話聞いてた??」
「……悪い。何の話かさっぱりだ」
シーヴァは信じられないとばかりに眉根を寄せて、榛色の瞳を吊り上げた。
「これだから、年寄りは」
「こら、誰が年寄りだ。俺はまだ四十一だぞ」
「人の話を聞かないのは年寄りの特徴じゃない」
「お前なぁ……」
いつものこととは言え、二十も年若い妻の生意気な言葉にイアンは閉口した。
「で、どうなのよ。マリオンがランスと遊びに行っても別にいいでしょ??」
「あぁ、お前がいいなら俺はかまわんよ。マリオンだって若いんだし、たまにゃ息抜きもしたいだろ」
シーヴァとイアンから許可が出た途端、マリオンはランスロットに子供のような笑顔を向ける。大袈裟な喜びようにランスロットは思わず微苦笑した。
「やった、シーヴァとイアンさんがいいってさ!」
「その代わり、余り遅くならないようにだけはしてね」
「大丈夫ですよ、シーヴァさん!そこは俺が責任持って付き合いますから!!」
見送りついでに入り口に近づいたシーヴァの両手を、ランスロットはぎゅっと握りしめ……、たかと思われたが、シーヴァはそれをさりげなく避けた。
「そう??じゃ、マリオンのこと、頼むわね」
「まかせてください!じゃあ行こうぜ!」
「で、どこへ行くつもりなのさ」
「それはだな」
ランスロットは悪戯っぽく頬を歪め、言った。
「着いてのお楽しみ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます