第2話 邂逅
拝島 良「お、恋。よくやったね。」
俺の仕事ぶりに感心する良の姿があった。良はメンバーの中でも、特に古くからの付き合いだ。
ここ紫竹園は、東経連合本部からの命令で、俺が経営している店だ。俺と良の住処ともしている。普段自らでなく、バイトを雇って回転させている。俺の料理は評判こそ良かったものの、立場上有名になるとまずくて直接厨房に立つことはない。
中神 恋「それじゃ、俺は本部に戻る。良はどうするんだ?」
拝島 良「僕はここにいるよ。外寒いしね。」
中神 恋「わかった。それじゃ。」
東京都新宿区歌舞伎町2丁目交差点にそびえ立つ神田生命ビル。東経連合はそこを拠点としている。あくまで民間を装っているが。そして、入城する方法も変わったものになっている。ビルの向かい側に、狭い路地裏があるのだが、そこのマンホールが本部と繋がっているのだ。もちろん下水道とは繋がっていない。他にも3箇所道があるらしい。
とりあえずホールに来てみたが何やら騒がしいような気がする。
国分寺 好「あら、恋。」
この女は玉川 好(たまがわ このみ)。慶と同様に古くからの付き合いだ。年齢も慶と一緒。
中神 恋「あ好、無事だったのか。」
国立 慶「恋、好が愛のこと気にしていたぞ。どうやら心拍数が正常値に戻ったらしいな。」
俺の妹の話をしているようだ。
国分寺 好「いつかお見舞いに行ってあげたいな。」
国立 慶「確かにな。でも、今蛇竜とは別に危険な組織が蠢いているからな...」
中神 恋「ああ...NSか。」
今の東京には、主に2つの勢力が渦巻いている。1つは中国マフィア「蛇竜」。パンデミックと戦争による不安定な情勢の中急速に台頭してきた国際シンジケート「太平洋連合」四大組織の一角。帳志堅(ジャン ジージエン)を筆頭とし、米原会の代わりに東京の裏社会を牛耳っている。麻薬の密売やみかじめ料の徴収などをシノギとしており、拷問のスペシャリストでもあるという。
そしてもう1つが、新興勢力「NS」。所謂半グレ組織というもので、空中分解した米原会の組員を積極的に引き入れているが、東経連合の技術を持ってしても頭目や幹部の足取りすら掴めていない。個人的に今は蛇竜よりもこちらの方が気がかりだ。
国分寺 好「ところで、NSってなんのイニシャルかしら?」
中神 恋「アメリカにそんな警察機関なかったっけ。」
国立 慶「まあ少なくとも今は見舞いとか行ける状況じゃないな。」
国分寺 好「うーん。仕方ないか...」
中神 恋「愛のことを想ってくれてるのは伝わったから大丈夫。」
国分寺 好「ごめんね。わざわざ。」
国分寺が立ち去った後
国立 慶「うーん、ここ最近俺に構って貰えないし、本気で脈なしかもしれないぞ恋。」
中神 恋「またその話か。」
国立 慶「だって人生で1度は所帯を持ちたいだろう。...やっぱり彼女は1匹オオカミみたいなのを好むんかな...俺みたいに上司にヘコヘコするやつなんてって思ってるかも。例えば、恋みたいな。」
中神 恋「そんな俗っぽい話はしたくない。そう言う気分じゃないんだ。」
国立 慶「まあまあ。例えば、お前は以前北澤さんに楯突いただろう?」
いまいち話が噛み合わない。恋は盲目にしてしまうのかな。
中神 恋「あれに関してはあの人が間違ってたからな。容疑者を全員殺していけば治安が良くなると思っている。」
残念ながら、帝都連合の上層部にはろくな奴がおらず、結果末端までおかしい奴が多い。警察や公安と比べて殺害がかなり許容されている以上、それに躊躇しない人材が欲しいのはわからなくもないが。
国立 慶「いくらおかしいからって、あんな、人を簡単に殺しそうな奴に反発するなんて、そんな勇気ある人滅多にいないから。」
中神 恋「所で、何やら騒がしい気がするが、何かあったのか?」
国立 慶「ああ、多分最近斑目さんが姿を現さないからだろう。」
中神 恋「斑目さんが?」
斑目 渡。京阪連合若頭という大幹部。一方で公安のゼロ所属という表の顔を知っているものは少ない。俺たちが京阪連合に加入した背景でもある。
中神 恋「そうなのか。俺の立場上滅多に会わない人だからな。そういえば、昼の任務は、誰に命令されたものなんだ?」
国立 慶「沢城さんだった気がするぞ。あの人も一応幹部だからな。」
中神 恋「そうか。それにしても代役の人厳しいだろうな...斑目さんが選んだ人材をまとめなきゃいけないなんてさ。」
国立 慶「それ。なんなら、沢城さんて一応北澤と同格だし。」
慶と別れた後、外に出るとすでに辺りは暗くなっていた。
中神 恋「少し気になるな...」
組織の下っ端とは言え、出会った当初から割と懇意にして貰った人間である。とりあえず心当たりのある場所を行ってみるか。
中神 恋「斑目さんと言えば、寿司が好物だっけ。この町に来て最初にKYOGEN寿司という店で食べさせて貰ったな。」
KYOGEN寿司は本部の入口から目と鼻の先にある。入店してみたが、斑目さんの姿はなかった。まあ流石に誰かはここにいると見当ついて探しに来るだろう。そういえば、ここ最近ずっと斑目さんの姿が見えないんだったな。
中神 恋「気長に待ってみるか。」
数時間が経過したが、一向に現れる気配が無かった。
中神 恋「ここ、午前4時まで開店してるのか...。閉店まで後5時間。いや流石にこんな時間に来ないか?」
斑目さんがもし勤務していたとしたら全然午前でも有り得るが。現在も普通に入店してくる人がいる。ほんとにこの町は夜がないな。そう思っていたら、妙な3人組が入店してきた。容姿的にホストでもサラリーマンでも無さそうだ。その人たちは俺の座っていたカウンターの近くに陣取った。2人男、1人女、しかしお互い仲良さそうな気配がなかった。そのうち、1人の男が店員に向かった。
男1「ここをよく使っていたのは本当なのか?」
店員「いや...前は来ていたと思うんですけど...。ここ最近は目にしませんね...」
男1「ふ〜ん...。邪魔させてもらうぞ。」
店員「え、ええどうぞ。」
どうやらこの人たちも居座ろうとしているようだ。目的はなんだろう。斑目さんか?いやそんな訳ないか。
男1「...」
女1「どうしたの?...あの男が気になるの?」
あの男とは誰のことだろう。
男2「あの白と黒のボーダーの男?」
俺のようだ。
男2「歳はよく分からないけど、流石にあの服装のセンスはちょっとだな〜」
失礼なやつだ!
女1「でも、あの男容姿は荒削りだけど、ダイヤモンドの原石だわ。」
お、そうか?確かに服装のセンスが良くなかったかもしれんな。
男1「なあお前...」
中神 恋「...ん?私?」
男1「お前6時頃からずっとここに居座ってるらしいじゃないか。少し話を伺ってもいいか?」
中神 恋「え、ええ構わないですけど。」
まさか話しかけられるとは。いざ対面するとなると怖いな...
男1「お前、この店にマフィアのドンみたいな服装の男を見なかったか?」
中神 恋「いや、見なかったですね。」
強いて言うなら今探してる男の特徴なのだが。
男1「そうか。職業は何か尋ねてもいいか?」
ホストとかサラリーマンとか適当なこと言いたかったが、今の服装的に誤魔化せなそうだ。
中神 恋「すいません。少し困りますね。」
男1「そうか...。人に言えない職業てなんだろうな。」
中神 恋「想像に任せますよ。」
男1「分かった。ヤクザだろ?」
そんな訳。
男1「なあ。頼むよ。教えてくれよ。なあ?」
絡みが酷くなった。最初は中々美顔だと思ったが、それでも許せなくなってきた。
中神 恋「いい加減にしてくれ。大体人に素性聞く時は、まず自分から明かすものじゃないか?」
男1「なるほど。でもな?この稼業の常識だと。そういう規則は無いらしいぞ?」
ヤクザかよ。と思ったが、もしかしてやっぱりヤクザか?
男1「まあでも、なんか明かしたい気分になってきた。いいだろう。俺の名は。リチャード・シンキバ、そして職業は...」
「NSのリーダーだ。」
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