4.ロリお姉さん・ソフィ
美少女二人に連れられて行ったレストランはなんと満席だった――!
「申し訳ございません。只今二時間待ちとなっております」
二時間!?
ディ〇ニーランドかよ。
丁寧にお辞儀をして給仕は店の奥に引っ込んでいく。
俺の両隣にいるリリアさんとシエルは愕然とした表情を浮かべた。
「ご飯を食べるだけで二時間もかかるの……!?」
「時間帯も悪かったかもね。ちょうどお昼だもん。仕方ない。他を当たってみよっか」
せっかちなシエルとのんびり気質のリリアさん。二人に連れられて周辺の小奇麗なレストランを当たっていく。
しかしどこも似たようなものだった。すぐに入れる店は皆無で、小国の田舎から来た二人は驚きを隠せない様子だ。
「都会ってご飯を食べるだけでこんなに大変な思いをしなくちゃいけないの!?」
「今まで私たちが見てきた町は町じゃなかったのかも……! 帝国ってすごいのね!」
何軒も訪ねるうちに疲れ切った様子の二人を俺は高台の公園に連れて行き、ベンチに座らせて露店でココナッツジュースを二つ買った。
この地方都市は温暖な気候で海に面している。基本的に暑いのでこの手の飲み物ならそこらじゅうで売られているのだ。
竹ストローが差し込まれたココナッツの実を差し出すと二人は飛び上がって喜んでくれた。
「わ! これなぁに!? ココナッツ!? へぇ~! 初めて見たわ」
「飲めるの? ……あ、美味しい。……はっ! 申し訳ありませんノース様! 食事をご馳走すると言って連れ出しておきながらなんという体たらく!」
やっぱりさっきからシエルの様子がおかしい。
こんな体育会系で育ってきた新卒みたいなキャラじゃなかったはずだろう。クールなお前はどこに行っちまったんだよ……。
「いいって。俺の方こそ、地元民のくせに普段は外食しないからどこに良い店があるとか全然知らなくて……ごめんな」
「いーえ! スレてなくてその方が素敵だと思います! これからも今ままのノース様でいて下さいね!」
優しい。
リリアさんはストローをくわえながら上目遣いで見上げてきた。かわいい。
「ノースは普段はどんなものを食べているの?」
うーんと首をひねる。
「そういえば何だったかなぁ……。いつも気が付くと机に何か置いてあって、それを食べてたんだが……あんまり意識したことがなかった。……ん? あれって誰が用意してたんだ?」
「私に聞かれても……。きっとノースがあまりに食に無頓着なのを見かねて誰かが置いてくれていたのね。こんどお礼を言いに行かなきゃ」
「うん。……うん? 誰がお礼を言いに行くって?」
「私。“ノースの健康を気遣ってくれてありがとう”って言うの」
「お母さんか!?」
リリアさん、ちょいちょいツッコミ甲斐のある言動をしてくれる。
その隣で疲れを癒すようにジュースを飲みながら遠い目をしていたシエルが、ふと我に返って話を戻した。
「で、どうしようっか。レストランで二時間待ちたい人、挙手して~」
シーン……。
誰も挙手しなかった。
いや、正確には隣のベンチに座っている謎の女の子が挙手したがあえて数に入れなかった。
実際には謎でもなんでもなくて普通に見覚えのある女の子だが、あえて無視して会話を続ける。
「やっぱり二時間はキツイよな」
「そうね。だったら食材を買ってどこかで自炊したいわよね。でも宿じゃ料理なんて出来ないし……」
んん!?
リリアさんの手料理だと!?
思わぬご褒美ワードを拾ってしまった俺は目を見開いた。
食べたい。
リリアさんの手料理、食べてみたい!
ゲームでは食事に関する描写は基本的に省かれていたので、彼女たちがどのようなものを食べて冒険していたのか俺は知らない。
まして料理風景など!
二次創作でそういうイラストを見て癒された事はあるが、それはそれ。
実物で見られるなら是非とも見たい。
……どうしようか。
調理できるスペースさえ提供すればいける流れだ。
しかし……俺の家はダメだ。もう数か月帰ってない。掃除しないと人を入れられない。
じゃあ研究所?
お湯を沸かすための火の魔法道具・コンロならある。
簡単な調理くらいならできると思うが……しかし、せっかくお洒落してきた二人をあんな場所で食事させて良いものなんだろうか。
でもここでいつまでもうだうだしてても仕方ないしな。言うだけ言ってみるか。
「研究所のコンロなら使えるけど、みんなで何か作って食べる?」
すると三人はパッと目を輝かせた。
「いいの!?」
「君たちがいいならいいよ」
一人増えてるけどね!
でも俺は何も言うまい。なぜなら彼女もまた、リリアさんのパーティの一人だからだ。
「ん? あれっ!? ソフィじゃない! いつからいたの!?」
ようやくリリアさんが気付いた。
ソフィ――肉弾戦を得意とする格闘家である彼女は、ジョブに反してかなりのチビッ子。でも一応ちゃんと大人でパーティ最年長。属性はロリお姉さんといったところだろうか。
軽そうにしか見えないパンチは意外とダメージが重くて強い。耐久力と火力に特化した彼女は魔法が使えない場面では大変頼りになるメンバーだった。
序盤の仲間はこの三人。この三人で帝都を目指すのだ。これで現在のメンバーが全員揃った形になる。
ソフィはつるぺたの胸をえへんと張って誇らしげな笑みを浮かべた。
「ずっといたよ! ご飯の話をしてたから聞き逃さないように黙ってたの。……で、この人はどなた?」
ちんまりとした身長で俺を見上げたずねるソフィに、リリアさんが説明してくれた。
「こちらのお方はノース・グライドさんよ。私とシエルの恩人なの。お礼に食事をごちそうしようと思ってたんだけど、なかなかお店に入れなくて」
「ふーん。人が多いもんねぇ、この街。そっか、お礼かぁ。リリアもシエルも可愛い格好してるから何だろうと思った。ねぇ、私も一緒に行っていい? お腹すいちゃって……」
どうやらソフィもこの街でご飯難民をしていたらしい。
「一緒に? えーっと……どうかしら」
俺の許可を求めてくるリリアさんの視線に、俺は黙って頷いた。
「決まりだね! じゃあ手分けして買い出しをしようか! リリアとシエルは野菜やお肉を買ってきてくれる? で、ノースさんは私と。一緒に来て?」
ソフィの采配に二人は揃って「えーっ」と不満げな声を上げる。
「なんでソフィがー!?」
「だってお酒を買いたいんだもん。あんたたちじゃ子どもすぎて多分売ってもらえないでしょ? こればっかりは大人が行かないとね。安心して。ちゃんとお子さま用の飲み物も買って行くから」
この中で誰よりもロリな外見を持つソフィが言うと説得力ある~。
ははは……と笑いながらソフィを見ると、彼女はリリアさんたちへの親しげな視線から一転、底冷えするような冷たい目を俺に向けてきた。
……怪しまれている。
そう直感した俺は頷き、リリアさんたちに「そういう事だから、俺はこちらのお姉さんと一緒に飲み物を買いに行くよ。研究所の前で待ち合わせをしよう」と言った。
二人は渋々といった様子で頷き、ベンチから腰を上げる。
「仕方ないかぁ。ノース様、食べられないものとかありますか?」
「いや、なんでも大丈夫。任せるよ。じゃあソフィさん、行きましょうか」
俺、彼女に信用してもらわなくちゃな。
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