第690話

「お姉さん。そんなに真面目に生きてて疲れない?」

「今までそんなことを考えたこともありませんでした」

「そう・・・。まぁ、言われてどうにかなるようなことでもないし煩くは言わないけどね」

少年はブリュンヒルトのことを本気で心配していた。

どこまでも真面目で何かあれば心がぽっきりと折れてしまいそうだ。

だが、そんな人は嫌いではない。

「今日はなんだか疲れたな。宿屋にでも泊まろうよ」

「そうですね・・・。まだまだ、ゲルマン王国までは長いですからしっかり休みましょう」

お勧めされた宿屋に向かう。

少しお高めの宿屋だ。

だがその分サービスはしっかりしている。

夕食を食べてからこの日は早めに部屋に戻る。

サービスとしてお湯をもらい、しっかりと汚れを落とす。

これだけでもさっぱりした気分になる。

「お姉さんいる?」

「はいはい。いますよ」

「せっかくだからマッサージしてあげるよ」

「えっ?悪いですよ」

「いいからいいから。僕、マッサージ得意なんだ」

遠慮するブリュンヒルトをよそにひょいっと室内に滑り込む。

「はぁ・・・。なんだか強引ですね」

「まぁまぁ。横になってもらっていい?」

「こうですか?」

ブリュンヒルトがうつ伏せで寝っ転がったのを確認してマッサージを開始する。

「お姉さん。結構無理してたでしょ?」

「無理なんて・・・」

「嘘はダメだよ?自分の主が間違った行動をとった。それを何とかしようと思うのはわからなくはないけどね」

ぐつぐっと丁寧に筋肉を揉みほぐしていく。

ブリュンヒルトが気持ち良さそうに息を吐く。

「焦ってもどうにもならないし。放っておいてもクロードが何とかしてくれる」

「貴方はクロードのことを信用してるんですね」

「信用とは違うかな。経験則で知ってるだけだよ。この状況で動かずにはいられない。そう言う人だからね」

「私がロキを倒してほしいって言ったときは動いてくれませんでしたけどね」

「まぁ・・・。口ではそう言うだろうね。でも、実際は動いたでしょ?」

「そうですけど・・・」

クロードは基本、自分の興味のあることしかしない。

だが、本当に困っているときはこっそり助けてくれる。

そう言う人なのだ。

そんな話をしているとブリュンヒルトがうとうとしはじめる。

よっぽど気持ちが張り詰めていたのだろう。

そのまましばらくマッサージを続ける。

少年はブリュンヒルトが完全に寝たのを確認して部屋を出た。

「本当。困ったお姉さんだな。クロードには頑張ってもらわないとね」

そう呟いて少年は自分の部屋に戻った。

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