第687話

ブリュンヒルトは戦乙女としてそこそこ戦える自負がある。

だが、この状況はまずい。

ふざけた存在であるエインヘリャルであるがその戦闘能力は本物だ。

1人、2人ならまだしもこの数を相手に勝てる要素は1つもなかった。

だが、黙って捕まっては何をされるかわからない。

絶望的な状況であるがブリュンヒルトは精神を集中させる。

エインヘリャルの1人がブリュンヒルトの槍の間合いに入ってくる。

ブリュンヒルトは牽制の一撃を放つ。

だが、その攻撃は余裕で回避された。

ブリュンヒルトが動くと同時に死角から攻撃される。

予想していたのでその攻撃は回避することができたが、ブリュンヒルトは体勢を崩すこととなった。

だが、エインヘリャル達はそれをにやにやと笑って見ている。

ブリュンヒルトごときいつでも倒せるという余裕の現れだろうか。

だが、ブリュンヒルトに余裕はなかった。

痛ぶるように攻撃が飛んでくる。

槍で攻撃を捌いたり必死に回避する。

どれぐらいの時間が経ったのだろうか。

息が上がり「ぜぇぜぇ」と荒く息を吐く。

額からは大粒の汗が滴り落ちる。

「頑張るねぇ。その頑張りがどこまで続くか見物だな」

「ぬかせ」

ブリュンヒルトはそう返すがもう長くは続きそうにない。

そこに明らかに場違いな声が聞こえてくる。

「お姉さん。助けいる?」

そう言ってどこからともなく現れたのはまだ幼さを残した少年だった。

「おいおい。なんだこの餓鬼?どこから現れた?」

「君。危ないわよ」

「まぁまぁ。本当は働くつもりなかったんだけどさ。主様。今はクロードだっけ?の関係者っぽいからさ。助けてあげるよ」

少年の気配が変わる。

明らかに年齢に釣り合わないオーラを放ちだす。

「っち。こいつはやべぇ。お前ら本気だすぞ」

「おっさん達。判断が遅いよ。そして、逃げるべきだったね」

いつ少年が動いたのかわからない。

だが、次の瞬間、囲んでいたエインヘリャル達の首が飛ぶ。

少年の手にはその姿に見合わぬ大きな鎌が握られていた。

「お姉さん。片付いたよ?」

そうにっこり笑う少年にブリュンヒルトは恐怖を覚える。

「あ、ありがとう・・・」

お礼を言ったもののどうしたらいいかわからない。

だが、騒動はこれで終わりではなかった。

この国の人達が騒ぎだしたのだ。

「なんてことをしてくれたんだ。あの人達がいなければ我が国は滅んでしまう」

「はぁ・・・。あんなのに頼るなんてね。愚かなことだよ。それに心配しなくても大丈夫。僕の仲間がなんとかしてくれるから」

「それはどういう・・・?」

「今頃、真面目な人達が魔物の駆除をしているはずさ」

「貴方はいったい何なの?」

「僕?僕はクロードの(不真面目な)配下さ」

少年はそうにっこりと笑った。

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