第686話
クロードと別れたブリュンヒルトは背中の羽を全開で羽ばたかせ南に一直線に向かっていた。
迷子癖のあるブリュンヒルトではあるがさすがに神界の気配は辿ることが出来る。
異変を感じ取ったのはゲルマン王国の国境を越えたあたりからだ。
どの国も余裕がなく放棄された街や村が目立つ。
自分が喫茶店でウェイトレスをしている間に世界はここまで大変なことになっているとは思っていなかった。
クロードの話ではその原因は敬愛する主神オーディンだという。
いくら戦いが好きなオーディンとはいえ、こんな状況を作るだろうか?
他の神々もついているのだ。
オーディンが暴走しても絶対に止めるはずだ。
神界に続く神殿を目の前にしたときに知った気配を感じた。
それはオーディンが趣味で集めている落ちた英雄であるエインヘリャル達だった。
ブリュンヒルトは彼等が苦手だった。
自分達がお酌をするのは当たり前。
その上、酔った勢いで体を触ろうとセクハラまでしてくる始末。
一部のヴァルキリーは肉体関係を持っている者もいたがブリュンヒルトは彼等のどこがいいのかわからなかった。
エインヘリャル達がいたのは小国の上級貴族の屋敷だった。
そこでは飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。
その周囲にはうら若い乙女達がいる。
何があって天界にいるはずの彼等が人間界にいるのかはわからないがその気性は変わっていないようだ。
「おっ。ブリュンヒルトじゃねぇか」
上空を通りかかったブリュンヒルトを目のいいエインヘリャルの1人が目ざとく見つける。
このまま無視していってもいいが少しでも情報がほしいブリュンヒルトは屋敷に降りたった。
「なんで貴方達が・・・?」
「オーディンの爺さんの指示さ。適当に困ってる奴らを助けるだけで酒も女も好きなだけ手に入る。俺らからしたら天国だぜ」
天界にいた頃から最低な奴らだったがこちらにきてもその最低加減は変わっていないようだ。
周囲を見れば女の子達が好きでここにいるわけではないとわかる。
きっと国から命令されてここにいるのだろう。
エインヘリャル達は落ちた英雄とはいえ、戦闘力は確かだ。
少しでも機嫌をとって滞在してほしいのだろう。
「オーディン様は何を考えているのか・・・」
「あの爺さんの考えねぇ。大きな戦争も終わって人が停滞するとでも思ったんじゃねぇの?」
「そんな理由でこんな状況を作り出したと?」
「まぁ。アリアの姉ちゃんとかは反対してたけどな」
「アリア様が・・・」
「でも、爺さんは気に入らなかったのか幽閉しちまったけどな」
「そんな・・・」
「まぁ。ここで会ったのも何かの縁だ。こっちこいよ」
「ちょっと。触らないで」
ブリュンヒルトは思わず目の前の男を突き飛ばす。
「おいおい。痛ってぇなぁ。少しばかり容姿が整ってるからって調子に乗るなよ?」
気がつけばブリュンヒルトはエインヘリャル達に囲まれていた。
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