第607話

クロードの体は虚無空間を彷徨っていた。


虚無空間は神でさえ長時間存在することが不可能な空間だ。


クロードが存在を保っていられるのは付き従っている精霊達が保護しているからだ。


精霊達は何とか元の世界に戻ろうとするのだが元いた世界は薄い膜に包まれており侵入を阻害してくる。


このまま座して待っていればクロードの存在は消滅してしまうだろう。


精霊達は決断した。


元いた世界に戻れないならば他の世界に移動しようと。


すると、精霊達を誘導するように一筋の光が差す。


これは、クロードの存在に気付いたとある神の救いの手だった。




「ここは・・・」


クロードが目を覚ますと白い天井が見えてくる。


隣にはピッピッと心音を示す機械が置かれている。


体を動かそうとするが上手くいかない・・・。


まるで何年も体を動かしていなかったかのような倦怠感が襲ってくる。


体を動かすのを諦め今までのことを思い出す。


ロキを倒すために無理をしてしまった。


だが、そこで冷静になって考えてみる。


あの世界にこのような機械はなかったはずだ。


まるで、前世の地球にいた頃のような機械。


カツカツと足音が聞こえる。


首を少し動かしてそちらを見れば白衣をきた男性が立っていた。


「まさか・・・。目を覚ますとは」


「あの・・・。ここは・・・」


「病院だ。名前はわかるかね」


「クロード。クロード・フォン・プロミネンス」


「んっ。どうやらまた混乱しているようだね。名前さえわからないとは可哀想に」


そう医者を名乗る男性は口にする。


「いやいや。彼は混乱しているわけではないさ」


そう言って割り込んできたのは巫女装束を着た女性だ。


「私は天照大神。一応、この世界を管理している神の一柱だ」


神が存在していてもクロードは驚かない。


「菅原博司君。君はオーディンの怒りに触れて転生させられ不都合だからと再び追い出されたのさ」


「詳しい話をお聞きしても」


「当然。その為に、私がきたのだから」


ここは間違いなく前世である地球であるらしい。


虚無空間で彷徨っていたクロード達を月詠が導き地球に到着。


オーディンが介入して水に流された体はとある組織により回収されたらしい。


そして秘術やら最先端医療を駆使し肉体の蘇生に成功する。


しかし、魂の回収に失敗した為、延命処置で植物人間状態だったそうだ。


そこに異世界から追い出された魂が帰還した為、目を覚ました。


「君にはいくつか選択肢があるができればこちらの要望も聞いてほしいな」


天照大神はそう呟くのだった。

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