第605話
ロキが現れたのはとある小国の歌劇ホールだった。
ロキが扮していたのは女性の歌い手だ。
中々知名度が高く、ふらりと現れては飛込で歌を披露する。
そんな人物らしい。
クロードは見世物が終わるまで待ちロキを待ち伏せする。
「あらあら、熱心なファンね」
そうおちゃらけてみせるロキ。
「用件はわかっているだろう」
「場所を変えよう」
ロキがパチンと指を鳴らすと風景が変わっていた。
このようなことが出来るとは邪神と呼ばれていても神ということだろう。
空には月が浮かび中央には椅子とテーブルが置かれている。
「まぁ、座りたまえ」
そう言って椅子に座るロキ。
クロードも緊張しつつ席に着く。
「君の要件は大体わかっている。与えられた役割の為に私を倒すのだろう」
「人類に仇なす貴方を許すわけにはいきません」
「人類に仇なすか。人は人同士で争い、悲劇を生み出す。我々が関与してもしなくてもな」
ロキは魔界の主として魔族のことを考えなければならない。
魔界は瘴気が溢れ荒れ果てた不毛の大地が続く呪われた土地だ。
豊かな資源のある人界を求める魔族が一概に悪いとは言えない。
しかし、その手段が間違っているのだ。
「神としての矜持があるなら争う以外の方法もあるのでは・・・」
「君のいいたいこともわかる。が、それは無理だ。私は、魔界の主ということになっているが人界に手を出している者達は私の指揮下にいるわけではない」
人の世界が複数の国で構築されているように魔界も一枚岩ではないということか。
「それでは、貴方を倒しても何の意味もないじゃないですか」
「そうでもないぞ。私を倒すほどの強者がいるとわかれば迂闊に手を出すのを控えるだろう」
「倒されたがっているような言い方ですね」
「私は人の生み出す文化が好きなのだ。魔界ではそんな余裕はないからな」
話せば話すほどロキのことがわからなくなる。
人の文化が好きだといった言葉に嘘はないのだろう。
「話し合いはこれぐらいでいいだろう。私も私の守らねばならぬ者達の為に全力を尽くそう」
ロキの雰囲気が変わる。
強い、殺意。
世界樹での修業で強くなったつもりではいたが耐えるのだけで精一杯だ。
次の瞬間、テーブルや椅子は吹き飛び目の前にはいつ抜いたのかわからない剣が迫っていた。
なんとか身を捻りそれをかわすとクイックで愛剣を呼び出し身構える。
剣を構えるロキはどこか悲し気な顔に見えた。
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