第557話

しばらく修行用の道具相手に悪戦苦闘していたクロードであるがすぐに魔力が枯渇し床と同化していた。


「いやぁ。人にしては頑張ったんじゃないかな」


「見ていないで助けてほしいんですけど・・・」


「騙し討ちしたみたいで悪いけど本来の目的があるのさ」


「目的ですか」


「うん。これをするには魔力が枯渇している今の状態がよくてね。君には今から自分の内側に潜ってもらうよ」


「自分の内側ですか」


「まぁ、最初は難しいから私も手伝うよ」


そう言ってイフは魔法陣を描きはじめた。


魔法陣はあっという間に完成し白く発光している。


「これから君の中に潜るよ。何を見ても落ち着いてね」


その声を最後にクロードの意識は深く深く落ちていく。




「クロード。見えているかい。ここが君の中だ」


イフの声に意識を取り戻す。


するとそこは巨大な図書館のような世界だった。


「これは一体・・・」


「君の魂の記録だよ。人によって違うけどどうやら君の場合は本の形態をとっているようだね」


「魂の記録・・・」


「今見えているのは今世の記録だね。巨大な力を秘めているとは思っていたけど想像以上だ」


イフは今世の記録には目もくれず奥へ奥へと向かっていく。


クロードも慌ててその後を追った。


すると鍵のついた扉が現れる。


「ふむ。君は前世の記憶を持っているというのに鍵がついているのか。神々も面倒なことをしてくれる」


どうやらイフが用があるのは前世の記憶らしい。


「クロード。この鍵は君にしか開けられない。頑張ってみようか」


それから様々な場所を巡り鍵を探してみると複数の鍵が隠すように存在していた。


それらの鍵を使って解錠を試みてみるものの開く気配はなかった。


「また、ダメか」


「まぁ、この鍵を仕込んだのは神だからね。そう簡単に開くとは思っていなかったけど今日はこれぐらいにしておこう」


イフがそう言うと意識が薄れていく。


気が付けば魔法陣は消えており床と同化している自分がいた。


「今、助けるから待っててね」


イフが修行道具を外すと自由が戻ってくる。


「ふぅ・・・」


自然と溜息が漏れた。


「明日からも寝る前に君の内側に潜るからそのつもりでね」


内側に潜るのは想像以上に疲労するようだ。


フラフラしつつも寝室に向かうとそのままベッドに倒れ込むように眠ってしまった。




その日の夜、前世の夢をみた。


両親は健在で仕事をしようとしない自分に対して怒っている親父。


しばらく無視を決め込んでいると諦めたように部屋を出ていく。


外からは車の音がしている。


どうやら母と共に出掛けたようだ。


その日は雨が降っていた。

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