第489話

精霊の泉に足を踏み入れると不思議な感覚に襲われる。


あえてあげるならば魔力が暴走するのに近いだろうか。


「集中して体中の魔力を制御するんだ」


クロードは普段、無意識によって体中の魔力を制御している。


そこに外側から無限とも言える魔力が入り込んでくるのだ。


普通の人では魔力を制御しきれず直ぐに暴走を引き起こしていただろう。


ここで東方で龍脈を制御した時の経験が生きた。


クロードは血管を思い浮かべ血流が流れているイメージをすることで抑え込む。


「いい調子だね。そのまま泉の中心に立つんだ」


イフに言われてクロードは歩みを再開する。


妖精の泉の中心に立つと今まで以上に魔力が入り込んでくる。


悪戦苦闘しながらもクロードは魔力の制御に集中する。


魔力の制御に集中すること数時間。


慣れてきたのか少しではあるが余裕が生まれてきた。


ずっと見守っていたイフが声をかけてくる。


「よし、一度休憩しようか」


クロードは頷きゆっくりと泉の中を歩き陸にあがる。


「お疲れ様。規格外だとは思っていたけど魔力暴走を引き起こさないとは驚きだね」


「こうなることがわかっていたなら教えてくれてもいいじゃないですか」


「下手に教えて怖がらせるよりかはいいかと思ってね」


体力的にはまだ余裕だが必死に魔力制御をしていたので精神的な疲労はかなりのものだった。


「疲れているだろう。私は食べ物を探してくるから休んでいるといいよ」


そういってイフはクロードを置いて離れていった。


クロードは魔法で体を乾かしてから服を着こんで横になるとそのままウトウトと眠りに落ちていった。




『起きて。起きて』


クロードは不思議な声に気が付いて目を覚ます。


周囲を見渡してみるが声の主は見つからない。


目に入ってきたのは火を起こして肉の状態を見ているイフの姿だった。


「今、誰かに話しかけられたような気がしたんですが」


「ふ~ん。ここには君と私だけだよ。空耳じゃないかな。それよりお腹が空いてるだろう」


そう言われてみれば体が空腹を訴えてくる。


「簡単な物で悪いんだけど我慢してね」


「いえ、全部お任せしてしまってすみません」


イフが作ってくれたのは角兎の肉に香草を擦り込み焼いたものと果物だった。


「いただきます」


そう言ってクロードは角兎の肉を口に運ぶ。


元々角兎の肉は癖がなく使いやすいのだがその分味は淡白だ。


香草が味を補い深みを与えている。


食べ始めて少しすると体がぽかぽかとしてくる。


「この香草は体を温める効果もあるんですね」


「うん。疲労によく効くからいっぱい食べるんだよ」


そういってイフはニコニコしているのだった。

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