第446話

何事もなく3日間は過ぎ疲労の色は見えるものの教会の子供達が続々とゴブリンの出るダンジョンから帰還する。


教会の子供達は迎えに来た馬車に乗り込みプロミネンス侯爵領の領都に向けて出発した。


クロードと相席しているのはエリーゼと今回の演習の責任者であるカリオンである。


「無事に終わってほっとしています」


「お疲れ様でした」


「簡単に報告を受けた感じでは危ない場面もあったようですが概ね成功と言っていいでしょう」


クロードとエリーゼはこの3日間ただ模擬戦をしていたわけではない。


今回は教会の子供達限定だったがこれを多くの冒険者志望の者にも適用できないか話し合いをしていた。


「カリオン。エリーゼとも話し合ったのですがこれをもっと多くの者に体験させることはできないでしょうか」


「詳しく話を聞かせてください」


「多くの者は10歳で冒険者登録をするわけですが彼等は魔物と相対するのははじめてのはずです」


「おっしゃる通りです」


「ですが、はじめての魔物討伐では何が起こるかわかりません。そこで安全に経験を積ませることが大事なのではという結論に至りました」


「言われていることはわかりますが、今回は特例です。騎士団も普段は任務がありますので全員をカバーすることはできませんよ」


「わかっています。そこで冒険者や冒険者を引退した者を雇用し教師として冒険者学校を設立できないでしょうか」


「なるほど。いい案ではありますが上手くいくでしょうか」


「中には講師に向かない人がいるのもわかっていますがそこはしっかりと選別をすればいいでしょう」


ここで重要なのは未熟な冒険者志望者にきっちりとした経験を積ませ生存率を少しでも高めることだ。


「わたしには判断できませんね。住民の中には冒険者を嫌っている者もおりますしそこに税金を投入してまでやる価値があるのかどうか。侯爵様の判断次第となるでしょう」


「プロミネンス侯爵領は優秀な騎士団を抱えていることで住民の信頼はそちらに集まってしまいますからね」


本来、冒険者達は緊急時には領主の権限で招集され魔物と相対するものだがプロミネンス侯爵領ではそれがされた事例はない。


何か起こってもプロミネンス騎士団が解決してしまうからだ。


「我らは民を守る為におります。とはいえ、それが冒険者と住民との間に溝を作っているのもまた事実でしょう」


「冒険者学校を卒業した者達の行動次第で住民の評価も変わるのじゃないかしら」


「やってみなければ何も変わりません。屋敷に戻ったら父様を説得してみせます」


「期待しているわ。今回の一件がうまくいけばゲルマン王国全体が変わるかもしれないわね」


カリオンの賛同は得られなかったもののクロードは決意を新たに屋敷へと帰還するのだった。

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