第296話

ヴァルキリーのブリュンヒルトはクロードを探してライヒルト公国改めライヒルト領にまで到達していた。


今はウルフの群れに襲われていた商隊を助けたところだ。


「この度はありがとうございました」


「いえ。困っている人を助けるのは当たり前のことですから。それにしてもこの国の軍隊は何をしているのでしょうか」


「ここは最近までライヒルト公国と呼ばれていましたがゲルマン王国に戦争をしかけて制圧されてライヒルト領と名前を変えました。ゲルマン王国も治安維持のための軍を派遣してくれていますが手が足りていないようです」


「魔物が増えているというのに人同士の争いなんてくだらないですね」


「不足している物資を運ぶ仕事を貰えていますが上の方達が何を考えているのかなんて私達には想像もできませんよ」


「ところでクロードという子供を探しているのですが何か心当たりはありませんか」


「とんと聞いたこともない名前で。領都に着けば何かわかるかもしれませんよ」


「そうですか。護衛を兼ねて同行いたしましょう」


「おお。それはありがとうございます。これで安心して進めます」




道中魔物に襲われることなく治安維持のためのゲルマン王国の部隊とすれ違うぐらいでライヒルト領の領都には無事到着した。


「ここまでありがとうございました。これは少ないですがお礼です」


商人は律儀にも謝礼を支払ってくれた。


「ありがとうございます。これでまともな食事と宿屋に泊れます」


ブリュンヒルトはここまで基本的に野宿で現地で食料を調達していたので本当にありがたかったのだ。


「それでは私どもは失礼します」


商人を見送りブリュンヒルトは早速聞き込みを開始した。


多くの者に訪ねてみても知らないという返事ばかり。


諦めて食事にしようと酒場に入ったのだがここで有力な証言が手に入る。


最初は騒がしい連中だと思っていたのだがどうやら仕事が終わった衛兵達のようだ。


「俺は攻城戦に参加してたんだが、クロード卿が反則みたいな技であっさり城門を開けちまったのさ。正直防衛側にいた連中に同情するよ」


ブリュンヒルトはクロードという言葉に反応して男に詰め寄る。


「すまない。そのクロードというのは子供か」


「何だ姉ちゃん。クロード卿に興味があるのか」


「どうなんだ」


「酌でもしてくれたら教えてやってもいいぜ」


酌程度で情報がもらえるなら安いものだ。


ワインのボトルを持ち男の持つコップに並々注いでやる。


「おう・・・。本当にしてくれるとはな」


「それでどうなんだ」


「クロード・フォン・プロミネンス辺境伯。まだ王都の学園に通ってる歳だっていうから子供のはずだぜ」


「有力な情報に感謝する」


ブリュンヒルトは英気を養った後ゲルマン王国の王都に向かうことを決めたのだった。

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