第66話

クロードは久しぶりにプロミネンス騎士団を訪れていた。


駐屯地はいつもは訓練のために活気に溢れているのに今は閑散としている。


不審に思い宿舎の方を覗いてみると書類とにらめっこしているバンネル団長がいた。


扉を開く音で気付いたのだろう。


バンネル団長は書類から顔をあげて笑顔で出迎えてくれる。


「クロード様。よく来てくださいました」


「久しぶりだね。団員達がいないみたいだけどどうしたの?」


「領民が増えて兵士の数も増えたのですが、教育が間に合っていなくてその応援で出払っています」


精鋭である騎士団を分散させるのは火急時の即応性を落とすことになるが、そこに目を瞑っても兵士の育成が急務なのだろう。


「久々に体を動かそうと思ったけどそれはしかたないね。ところで何の書類を見ていたのかな?」


「これですか?兵士の練兵を受け持つ代わりにまとまったお金が入ったので装備の質を向上できないかと思っていまして」


精鋭と言われているプロミネンス騎士団は装備にも十分な予算が下りており他の騎士団よりも恵まれてはいる。


だが、より良いものを使いたいという気持ちはわかる。


「それならアースドラゴンの鱗があるんだけどどうだろう?」


アイテムボックスから1枚、取り出す。


「アースドラゴンの鱗ですか。拝見させていただきます」


バンネル団長はアースドラゴンの鱗を手に持ち強度や柔軟性などを確かめていく。


「これで防具を作れれば最高でしょうな」


「それはよかった。数も十分な量があるから鍛冶屋の方に発注しておくよ。武器の方もオリハルコン製の物を優先してまわすように手配しておくね」


「お言葉はありがたいのですが、予算のほうが到底足りません」


「素材は僕の持ち込みだし身内価格にしておくよ。加工賃もこれぐらいあれば足りるからなんとかなるはずだよ」


「これではあまりにもクロード様の取り分が少ないことになってしまいますが?」


「騎士団の戦力増強はプロミネンス家の利益になる。延いては僕のためだよ」


「そこまで言われては断れませんな。感謝いたします」


当初の予定は崩れたが騎士団に訪れた意味はあった。




騎士団を後にしたクロードはその足で鍛冶屋まで来ていた。


「いらっしゃいませ。クロード様。本日はどのようなご用でしょうか?」


受付の店員は緊張しながら応対する。


クロードが来るのは仕事の発注の時であると店員は悟りはじめている。


本来であるならば歓迎すべきことだが、今は頼まれた仕事が終わらず職人達が不眠不休で作業を続けている状態なのだ。

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