第2話 未知との遭遇

 メテットの窓が割れて散っていく。その中から、宇宙船と、釘が刺さり燃えながらも宇宙船を追いかける芋虫型の怪物をラナとシズルは視認した。


「あれがメテットが助けたいものですかね? メテットみたいに生物っぽくない姿をしていますね」


「そうねえ。でも、ボロボロになったメテットみたいにあちこち煙を吹いているわ


 ラナはシズルの両脇を掴んで空を飛んでいる。シズルも足をプラプラさせながらボロボロになった宇宙船を観察していた。

 ラナもシズルも、宇宙船というものを見たことがない為、一目見た時に『ツルツルした岩の魔物』と誤認していた。


「魔物じゃないよ。あれはどうやら乗り物みたい。中にアレを操っていたのを見たよ」


「!」


「魔物じゃないのね? 宇宙を進む船だなんて御伽噺みたい」


 シズルが子供の頃読んだほうき船で別の星へと旅する昔話を思い出していた。

 しみじみと感じいっていたシズルをよそに、ラナは目を輝かせている。


「カルミア、間違いないんですね!? 中にいたのがやっぱり——」


「うん。人間だってメテットが言ってた。ドキドキするね」


「わぁ! シズル、人間! 人間が来てるんですってシズル!」


「あら、興奮してるのラナ? 元とはいえ人間だった私と一緒にいたとはいえやっぱりワクワクするのね」


「あっ……いや、まぁ、はい! やっぱり、生の人間は初めてなので!」


「……ラナ? 今なんか微妙な間がなかったかしら?」


「気のせいです! とにかく行きましょう! メテットも心配ですし!」


(あっぶない、普通にシズルが元々人間だったの忘れてた!)


 旅の中でずっとシズルの魔物っぷりを近くで見ていたラナは、シズルが元人間であることをすっかり忘れていた。カルミアは元人間であることを知らなかったので、


(えシズルって元人間なの? わたしびっくり)


 とラナの中で驚愕する始末である。

 ラナは忘れてたことをちょっぴり反省しつつ、気持ちを切り替え、宇宙船の後を追う芋虫に目を向けた。かなりの大きさがあり、芋虫からすればラナとシズルは米粒程の大きさしかない。


 しかし、


「あの黒い芋虫大きいですね。口の中の無数にあるあれは……」


「口の奥の奥まで歯があるわね。あんなにいるものかしら?」


 ラナとシズルは焦らない。既に迎撃の体勢は整っている為に。


「よし、ラナ。そろそろいいんじゃない? ぶちかましましょ」


「ええ。あれだけ大きいなら外しません」


「——全焦熱釘弾ショウネツテイダン、目標固定、完了。発射準備良しです」


 そう言ってラナは雲の中に隠していた赤く輝く釘20本の先端を、ピタリと芋虫に向けた。


————

 メテットが芋虫の怪物と宇宙船の後を追う。


「まさかあんなにあっさりマドがワられるとは……! タシかにメテットのマドはコワれやすいけども!」


(それでもハヤい。このホシウまれでもないだろうにこのパワー……こいつはイッタイなんなんだ?)


「メテット。ラナ達の方、ばっちり準備できてるよ」


「おお、カンシャする。……コチラでもカクニン。したけども……アレちょっとカリョクツヨすぎ、というかオオすぎじゃ?」


「そうでもない。この魔物、何かおかしい。未だに焼き尽くすことが出来ていない。そう出来る筈なのに」


 カルミアは黒い芋虫の怪物を睨みつける。


「だから、量で潰す。一息に全て焼き消してみる」


「おお、タノもしい。タノもしいけどウチュウセンもヤかないでね?」


「もちろん……来たよ」


 カルミアがそう言うと、赤く煌めく流星が怪物に向かって飛んでいく。怪物はと言うと、まるでそれを認識していないかのように、逃げもせず避ける素振りすら見せずただただ宇宙船を追いかけている。


「? 見えてないの? まぁだとしたら好都合かな」


 その様子にカルミアは違和感を抱いたが、それでも当てることには変わりない。特に止めることもなく、全弾命中する様子をしっかりと見届けた。

 全ての釘が怪物に深々と突き刺さった後、大爆発を引き起こす。


「全弾命中。もう影も形も——あれ?」


「え!? あるぞ!? カゲもカタチも! あれをクらって!!」


 大分縮んでいたがそれでも怪物はまだ生きていた。残った部分が急激に膨張し、元の形を取り戻していく。


「いくらなんでもおかしすぎる……! なぜショウメツしない!? こんなシズルみたいなタイキュウセイをなぜモっている!?」


 メテットやカルミアにとってそれは信じられない光景だった。おそらく、ここにいないラナやシズルも同様だろう。


 あれはダイコクのような防御力も、シズルのような攻撃力も持っているわけではない。この星の魔物にとってあの芋虫は脅威にはなり得ない筈だった。


 だが、消えない。ただそれだけがこの黒い芋虫を怪物たらしめていた。


 そして悪い状況は更に悪化する。

 宇宙船が完全に停止してしまったのだ。


「そんな! よりによってイマ!? しかも……」


 元々、ボロボロだったのに加えて、先程のラナとシズルの打った釘が爆発した際の熱が不味かったらしい。宇宙船は自由落下を初めていた。


 更に、“宇宙から飛来した巨大な芋虫がいきなり爆発した”というあまりにも目立つ現象が引き寄せてしまったのか、この星の魔物と思われる、高速でこちらに接近する反応をメテットは捉えていた。


「……ワルいジョウキョウがツヅくな!」


(メテットがワルいのか? メテットがタスけようとしたから?)


 悪化していく現状にメテットは焦るが、それを落ち着かせたのはカルミアだった。


「メテット、大丈夫。ラナが宇宙船を言ってる。メテットも運ぶの手伝ってって」


「ハコべるのか!? ……リョウカイ。だがイモムシは!?」


「シズルが直接骨の隋まで焼き穿つって。骨あるのかわからないけど」


「タノもしすぎる! リョウカイ、イソぐ!」


 メテットはカルミアの言葉で気を持ち直し、ラナの元へと急ぐ。


(まだ、まだやれる!)


 未知の敵ではあるが、まだ対応可能であると、この時メテット達はそう思っていた。


 しかし、思いもよらぬ方向、星から来た未知の攻撃は完全に全員の許容範囲を超えていた。





「やっぱり悪魔に連なるものだなあれは。ならば正義を振りかざそう」


 遠くから眺めていた男はゆっくりと腰をあげ、正義の剣の切先を向ける。


 次の瞬間芋虫はその体の全てが、

余波でシズルは体の7割、ラナとメテットは1割、宇宙船は魔法が関わる部品全てが消失した。


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