28話 お姉さまへの愚痴
つきものが取れたような顔をしたニアは、椅子に背中を預けた。
「お姉様はいつも帰ってくるたびに魔族を、魔族を――って言って戦いに向かってさ、そんなお姉様と一緒に戦って少しでもお姉様の負担を減らしたかった、ニアはお姉様に守ってもらうだけなんて嫌だった」
ニアはため息をつくように話し始めた。
「でも、力を手に入れたとしても、リヴィアが家族を守らないなんて事はないと思うぞ、昔からリヴィアは自分の家族が大好きだからな」
リヴィアの家族に対する想い。
それは4年前からわかっていたことだ。
話を聞いていた俺でもわかるぐらいだ。
ずっと一緒にいたニアならそれがよくわかっているだろう。
「ニアのおかげで負担が減ったとしても、リヴィアはその減った負担の分も頑張るだけだろうな」
俺がそう言うと、ニアは大きなため息をついた。
さっきと同じだ。
どこか呆れのような感情が見える。
「お姉様はそういう人だもんね、ニアがお姉様の旅についていけないのも、ニアを危険な目に合わせたくないだけだって理解できる、今のニアじゃどうやってもその心配をなくせないって事も……」
「ああ、リヴィアが姉である限りそれは絶対だからな」
「じゃあまずは、その心配をなくせるようにならないと……!」
それに必要なことは……もう、わかっているか。
俺が言う必要もないな。
「ニアに残ったこの力も、どう使っていくかを考えないと! 守るための力の身につけ方って、それを考えるのも必要なんだよね?」
「ああ、その通りだな」
最初の印象から幼さが目立っていたが、こうして話してみると優秀な子なんだな。
「……
感心していると、突然そう呼ばれた。
今の今まで「お前」や「あんた」呼びだったのに、急な変化に俺は面食らってしまった。
「これから、お姉様をお願いします。きっと、お姉様が色々と迷惑をかけちゃうと思うけど……」
「…………いいのか?」
そう聞くと、ニアは無言で頷いた。
ほんと、この数日間で5歳は成長したんじゃないか?
俺は俺をじっと見つめてくるニアの目をしっかりと見ながら頷きを返した。
「わかった、任せろ」
「……うん、うん! お願いね!」
ニアは俺が淹れたお茶を一気に飲み干し、カップを俺に突き出してきた。
「お茶、おかわりもらえる?」
「ああ、いいぞ」
好きじゃないと言っていたが……望まれるならそれはそれで嬉しいからな。
俺はおかわりをカップに淹れ、ニアの前に置く。
ニアはお茶を一口飲んで「苦ィ」と顔を顰めるが、どういうわけか嫌がっている様子はない。
お茶を気に入ったのか……?
「ところで、お姉様といえばさ……」
ニアはため息をつくように、話し始めた。
リヴィアへの愚痴が混じったような話だが、その話のどこにもリヴィアへの愛情というか、とことんリヴィアのことが好きなんだとわかるような話ばかりだった。
そのお返しに、俺は俺が知るリヴィアの話をした。
主に4年前の、リヴィアとよく一緒に頃の話だ。
俺とリヴィアが知り合った経緯。
魔法を教えた時のことも教えていた話もしたが、ニアは俺が話すリヴィアの話を楽しそうに聞いていた。
俺に心を開いてくれたということなのだろう。
ニアが来る前は、俺はリヴィアの家に行ってこれからの話をしようと思っていた。
だが、ニアが楽しそうならそれでいいか、と俺はお茶のおかわりを何度か淹れてニアと雑談を続けた。
「――へぇ! 魔力をそう使ってるんだ!」
いつの間にか、話はリヴィアの話から互いの力の話になっていた。
俺もニアも、魔力そのものを使う力だからな。
「
「……こんな感じかな」
ニアの手に魔力が集まりだし、白と青が混ざったような色の小石程度の魔力弾が形成される。
しかし、初めてではそれが限界だったのか、ニアの手中で集まった魔力は霧散するように消えた。
それでも初めてできるのは驚くほかない。
俺なんてこの理論を考えてから、実際に使えるようになるには1年近くかかったのに……。
「ラウディオさんのとは魔力の色が違うなぁ……」
「魔力の色は人によって違う、俺もそう多くの人の魔力の色を見たことがあるわけじゃないけどな」
というか、魔力の色を見る事は稀だ。
俺や今のニアのように魔力そのものを操らなければ、基本、体外に魔力が出る事はないからな。
「魔力に色があるなんて初めて知ったよ」
「そもそも見る必要がないからな、魔法を使う時も体内で消費する魔力は見えない。それに、気にしても魔法がうまく使えるようになるわけでもなかったからな」
これは、俺の実体験に基づいた事実だ。
俺の魔力の色は紫色だが、その魔力の色を意識したところで魔法の使用に関して変化は見られなかった。
結局、基本魔法すら使えなかったからな。
せっかく魔法が使える世界に転生しているんだ。
今も少しは使える魔法がないかと希望を捨てられずにいるんだけどな。
「色々調べたんだ……ニアも頑張らないと!」
「そうだな、ニアの力は強力だが、未知数だ。戦えるレベルまで使えるようになるには時間がかかると思う」
「そうだよねぇ……んっ?」
俺とニアが話していると、部屋の扉がノックされた。
そして、そのノックと共に聞こえてきたのはリヴィアの声だった。
「ラウディオ! いますか!」
「リヴィア……いつの間にかかなり時間が経っていたな」
俺は扉に向かいながら外を見ると、窓から見える空が暗くなり始めていた。
扉を開くと、3日ぶりのリヴィアが目の前にいた。
……たった3日なんだけどな、なんか……。
「ラウディオ……なんだか久しぶりに感じますね」
「……! そうだな」
リヴィアも同じように感じたらしい。
俺達は互い笑うと、笑顔を見せたリヴィアの視線が俺の後ろに向かった。
「にっ、ニア!? どうしてここに!?」
「お姉様こそどうして?」
「い、いやその、そのですね……」
……ああ、そうか。
リヴィアは、ニアが俺とリヴィアが関わるのを嫌がっていると思っているからな。
というか、リヴィアはここにニアがいるとは思っていなかったのだろう。
ニアは俺を毛嫌いしているはずだからな。
「あのそのえっとー……」
「まあいいや! ニアは先に帰るね!」
「えっ、あっはい、わかりました、気をつけて……」
「そうだ、ラウディオさん!」
「なんだ?」
「ラウディオさん?」
ニアの呼び方に気づいたリヴィアが首を傾げている。
俺とニアの関係の変化をまだ理解できないのだろう。
「明日からは家にいていいよ! もう魔法を使ったりしないから!」
「わかった、ありがとう」
「に、ニア……!」
俺に対するニアの明らかな態度の軟化に、リヴィアが呆然としていると、ニアはその横を通って部屋をでた。
しかし、そこで足を止めると、口角をニーッと上げたニアがリヴィアを見上げた。
「……2人きりで、変なことしないでよ?」
「…………っん!?」
瞬間、リヴィアの顔が赤く染まる。
「だだだっ誰にそんなことを習ったのですか!」
「じゃあラウディオさん! またね! 今日は色々話たし、教えてもらえて嬉しかったよ!
「おい! このタイミングで……!」
そんな誤解を招きそうなことを言うな!
というかわざとだろ!
しかし、そう言おうにもニアは走り出して颯爽と廊下の角を曲がって言ってしまう。
そして、その足音が聞こえなくなると、羞恥か怒りか、顔を真っ赤に染めたリヴィアが詰め寄ってきた。
「ニアに何をしたのですか! 許しませんよ!?」
「何かするわけないだろ!」
「だって、ニアが――!」
その後、部屋の扉を開けたまま騒がしくしていた俺とリヴィアを宿屋の主人が注意しにくるまで、興奮状態のリヴィアをなんとか抑えることしかできなかった。
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