第五話 薬草採集

 村のみんなが、死ぬ。


 話の流れ的に、一刻を争う状況で薬草採取をしていたらしい。


 そこを、ゴブリン・キングに襲われたんだろうが……なんとも不幸な話だ。




 そして、こんな真っ青になった女の子を放っておけるほど、俺はクズじゃない。


 


「俺も手伝うよ、薬草採集」


「そ、そんな! さっき助けて貰ったばかりなのに、これ以上迷惑をかけるわけには……!」


「人の命がかかってるんだろ? なら、なりふり構わず巻き込んでくれ」


「……っ!」




 スーは一瞬押し黙り、次の瞬間弾かれたように手を握ってきた。




「お願いカイルくん! 力を貸して」


「もちろん!」




 胸を張って答え、俺は薬草探しに入った。




△▼△▼△▼




「まあ、何というか……今日は厄日だな」




 草原の草をかき分けながら、俺は毒突いた。




 パーティを追い出されたあげく、射撃の反動で骨折し、今度は何やらとんでもない事態に巻き込まれようとしている。


 まあ、後半は勝手に自分から首を突っ込んでるだけだが。




 女の子も、村人も、見すてるという選択肢はあった。


 だが、見すてるという行為は少し前に俺がされたことだ。


 その辛さを……命がかかっている場面で小さな女の子に押しつけるなんて、そんなことができるはずもない。




「しかし、どうしたものか」




 ちらりと、スーの方に目を向ける。


 彼女は、スカートの裾が汚れるのも厭わず、必至になって薬草をかき集めている。


 その焦燥を隠しきれない横顔を見た俺は、自分でも気付かぬうちに深くため息をついていた。




「村で何が起きたのか……皆目見当も付かないが、相当ヤバそうだな」




 一刻も早く薬草を採取していきたいが、雑草も混じっている都合上、一気に刈り取るわけにもいかない。


 


「せめて、薬草の群生地があれば……一気に採取できるんだが。そうは問屋が卸さないよな……」




 ぎりりと奥歯を噛みしめた、その瞬間。スーが「あ!」と声を上げた。




「どうしたの?」


「ここ……薬草がいっぱい生えてる!」


「え!」




 俺は、スーの方に駆け寄った。


 すると、驚くべき事に、いくつか雑草は混じっているものの、薬草が固まって生えている場所があった。




「うお、マジだ!」




 ラッキー僥倖ぎょうこう神様サンキュー!


 自他共に散々不幸に立ち会ってきた今日、ここへ来て一気に確率が+方向に収束した。




「よし! さっさと全部採取して村に行くぞ」


「そうだね! 急がないと……!」




 俺は、ちらりとスーの方を一瞥いちべつする。


 群生地が見つかったことで状況は幾ばくか好転したはずだが、彼女の表情から焦りが消えない。




 わかってはいたが、これは相当状況が深刻だな。


 


「心配しないで。秒で終わらせる」


「え?」




 独り言のようにそう呟いて、俺は目を閉じた。




 ――イメージ。


 新しい魔法の創造。一発で根こそぎ草を刈り取る魔法を……




『魔法の概要を確認、提示します』




 風属性斬撃魔法(魔力注入、任意起動式)


 材料:魔力、術者の血液




 指先を噛みちぎり、血の滴る指を空中のキャンバスに滑らせる。


 頭の中に浮かんだ魔法陣をなぞり、魔力を込めていく。




「……できた」


「できたって、何が?」


「魔法」


「……へ?」




 首を傾げるスーの一歩前に出て、俺は腰にいた短剣をぬらりと抜く。


 その銀色の刀身に手をかざし、描いた魔法陣を縫い付けた。




「これでよし。魔力を込めて……と」




 体勢を低くして、地面スレスレに短剣を振るう。


 すると風の刃が生まれ、横薙ぎに薬草を根元からなぎ払った。(まあ、また魔力を込めすぎて奥の雑草までまとめて刈り取ってしまったが)




 名付けるなら風の斬撃――エアカッターといったところか。




「あ、刈りすぎた。やっぱまだ魔力の調整に慣れないなぁ」




 さっきよりも随分、込める魔力を制限したつもりなのだが。


 まあ、もともと魔法を使えなかったんだから、仕方ない。調整はこれからできるようになればいいだろう。




「す、すごい! 草刈りの魔法なんて初めて見た!」




 う~ん、草刈りの魔法ではなく、風の刃を生み出す魔法を草刈りに使っただけなんだけど……まあ、スーが目をキラキラさせているから良しとしよう。




「これで薬草は足りる?」


「うん! むしろ余るくらい」


「そうか。ちなみに、どうやって持って帰るの? まさか、これ全部抱えて――」


「ううん。カゴを持ってきてるから大丈夫!」




 スーは、幾ばくか余裕の色が戻った顔を見せて笑うと、足早に走って行く。


 と思ったら、大きなカゴを持って帰ってきた。


 どうやら、ゴブリン・キングに襲われたときに取り落としてしまっていたらしい。




「これに詰めて持って行こう」


「わかった」




 言われるがまま、俺は薬草を全てカゴにぶち込んだ。




 ――大量の薬草でずしりと重いカゴを二人で持ち、足早に村へと向かう。


 その途中、村で何が起きたのかをスーの口から聞いた。


 どうやら、モンスターの群れに襲われたらしい。


 一匹一匹の強さは大したことないが、小さな村だったが故に低ランクの冒険者数人しか滞在していなくて、為す術無く蹂躙されてしまったようだ。




 スーの話では、ここ数年モンスターに襲われることのない平和な村だったようで、大群で押し寄せてくることなど今まで一度もなかったらしい。




 一体どうしてそんなことになったのか。


 気になるところだが、今は一刻も早く村に駆けつけなければ。




 俺はカゴの取っ手を強く握りなおした。

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