第15話 クロウサギは離れたくない
あの後は、結構大変だった。
まず、ベッドのシーツ替え……をしたかったが、シーツの替えなど用意しているはずもなく、明日ユナさんと買いに行くことに。
応急処置として、掃除はしまくったのだった。
「お疲れ様でしたアラタさん」
「い、いえ……。ユナさんの方こそお疲れ様でした」
掃除を終えて、リビングへ戻る。
他の3人はまだ帰ってきた様子はなかった。
「……」
「……」
お互い、しばらく黙り込む。
気まずいというわけではないが……。
時間が経って冷静になっている今。お互いに気恥ずかしさが出てた。
目が合うとつい視線を逸らしたり、妙にソワソワしてしまう。
でも……。
『ふふっ……一旦ベッドにいきましょうか。でも、それからは……この熱が収まるまで絶対に離しませんから』
獣人の発情。
初めは驚いたが……それからは後悔はない。
むしろ、良かった。
身体も心も満たされた。
俺もユナさんもお互いにそう思っている。
「あの、アラタさん……」
しばらく無言だった中、ユナさんが先に口を開いた。
「隣……座ってもいいですか?」
「ど、どうぞ!」
「ありがとうございます」
ユナさんが俺の隣に座る。
それだけで、なんだが胸の鼓動が早くなってしまう。
ユナさんがまた口を開く。
「アラタさん。私……アラタさんになら、私の過去のことをお話したいと思っています。アラタさん、気にかけてくださっていましたから」
『私は……。兎族は、獣人の中で最弱と言われていますから』
『ですが……獣人のお世話など、進んでやりたがる人はいませんから』
『よく食べるのは他の3人で、私は少食ですけどね。……獣人族なのに』
ユナさんが時より暗い顔になったり、卑屈気味な発言をしてしまうのはやっぱり過去のことが関係しているんだな。
相当辛い過去が……。
「私がクロウサギという、一族では厄介者として嫌われていた存在だった辛い過去があったことをお話したいと……思っていました」
「……思っていた?」
今の言葉だけでも十分苦労したことが伝わってきたのだが……その続きを話すかと思われたユナさんが、会話を止めた。
「やっぱり私の過去を話すのはやめようと思います」
「……え」
「突然やめてしまってすいません。アラタさんが頼りないからというわけではありませんから、そんな不安そうな顔をしないでください。ふふ」
どうやら顔に出ていたようで、ユナさんが微笑んでくれる。
「私の過去は、先ほどの一言に纏められないくらい辛かったです。ですが、今は楽しいです。居場所があって、パーティーメンバーは優しい方ばかりで……アラタさんにも出会えました」
「ユナさん……」
「私はそんな方たちと出会った今の私が好きです。そして、アラタさんに見てもらいたいのは今の私……。だから、過去の私より今の私を見てください。私のことを知ってください。もっと知って……私のこと愛してはもらえませんか?」
「っ」
今のユナさんは発情が収まっている普段通りのユナさん。
色気も熱も性欲ないのに……俺は今、一番ユナさんにドキドキしていた。
「皆さんまだ帰ってきません。私はまだアラタさんから離れたくありません」
控えめにユナさんが俺の指をつつく。
と思えば、指を絡ませて恋人つなぎに。
「これで離れなくなっちゃいましたね。だから……このまま隣にいてもいいですか?」
「も、もちろん!」
どうしよう……。
ユナさんが可愛すぎるんだが!!!!
◆◆
一方その頃————
「そろそろ帰るかぁ〜。さて、ユナがアイツにどこまで心を開いているか……見ものだな」
新たに発見されたダンジョン内の魔物を特に苦労した様子もなく、壊滅させたアーシアたち3人。
屋敷へと戻ろうとしていた。
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